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死神様の御加護を受けてます。  作者: さみくえら(仮)
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9 死神はお金持ち?

更にブクマして下さった方がいらっしゃって感激です!ありがとうございます^_^

 史織は目を白黒させていた。



 お砂に導かれてお風呂へとやってきたのだが、てっきり湯屋に行くものだとばかり思っていたら、なんと内風呂に案内されたのだ。史織の今は無き生家は、わりと裕福だったと自覚しているが、さすがに内風呂はなかったので、家族や歳の近い近所の友達と連れ立って、毎日、風呂に行ったものだったが……。



 お砂は、そんな史織の戸惑いを読み取り、ニコニコと話しだした。



「想様がね、とってもお風呂好きなんですよ。湯屋だとゆっくり浸かれないし、好きな時に好きなだけ入れないじゃないかとか何とか言って、温泉まで引いてきてしまってね。」



 やれやれとお砂は肩を竦めた。



「ただのお風呂じゃないんですか⁉︎」

「はい、源泉掛け流しですよ。熱ければ、こちらのお水で調整しますからね。遠慮なく言ってください。」



 そう言って史織を洗い場へ促し、掛け湯をする。史織は慌てて、その手を止めた。



「だ、大丈夫です! 私はしがない庄屋の娘ですから、自分でします!」



 江戸っ子などは、三助なんかに頼むから、人に身体を洗われることに戸惑いはないかもしれないが、史織は昔からそういうのが嫌で、物心ついた頃からずっと自分の事は自分でしていた。



「まあ、遠慮なさらなくてもいいのに。人の世話をするのがばぁの楽しみなのですよ。想様も風呂は1人がいいと、絶対にお背中を流させてくれませんのに、ばぁは誰のお世話をしたものやら……。」



 不貞腐れたように聞こえたので、史織は慌てて顔を確認したが、全く気にしていない様子だった。むしろ悪戯っぽく舌を出された。



「お砂さんったら子どもをからかうなんて酷いですよ!」

「ほっほっほっ。これで史織様もばぁと打ち解けて下さったんじゃなかろうか?」

「……あら。そうかもしれないです。」



 2人はクスクスと笑い合った。



 史織の祖母は真面目で、こういう冗談を言うような人ではなかったが、相手の気持ちを最優先に考えてくれる優しさがあった。お砂は祖母とは少し違うが、思いやりのある優しい所が、史織をどこか懐かしい気持ちにさせた。







「では、頃合いを見計らって、湯上りのお世話を焼きにきますね。あ、それくらいはさせて下さいな。」



 そういうと、お砂は音も立てずに風呂場を出ていった。




 史織は改めてこの立派な風呂……いや、昔、湯治で訪れた温泉さながらの石造りの温泉をぐるりと見回した。



「やっぱり死神様は、とんでもなくお金持ちなのね。人ひとり拾って、世話してやる程の余裕があるくらいだもの。」



 少し自虐的な事を言ってみたが、昨夜からの想との触れ合いで、金持ちの道楽で人間を拾うような人間、もとい神様ではない事を悟っていたので、冗談ですよーっと独言た。



 史織はお砂の置いて行った風呂道具の中から手拭いを取り出し、身体を丁寧に清めてから、静かに湯船に浸かった。不意に訪れた穏やかな1人の時間。



「ふぅ〜…。」




 自分のため息だけが響いた。

 昨日までだったら、心細くてきっとこのまま泣いていただろう。でも今は、命辛々に村を飛び出して以来、心が穏やかだった。間違いなく、想のお陰だ。



「それにしても、死神様ってお金持ちなのね。屋敷の中に、まさか温泉があるなんて思いもしなかったわ。」



 ふふっと笑い、鼻の下まで湯船に浸かってみた。左腕を少し持ち上げ、右手で掬い上げたお湯をかける。



「……これ、何かしら?」



 二の腕に薄らと黒いシミが浮き出来ていた。



「ぶつけたのかしら? うーん、触っても痛くないけど……。」



 史織は首を傾げ、頑張って思い出そうとしたが、思い当たる節がない。それに見れば見るほど、気味が悪かった。



「……お砂さんに見てもらおう。」




 お砂さーん、と声をかけつつ、史織は風呂を出た。



 お砂はどこから現れたのか、手拭いを手にして史織の背後からぬっと現れた、というか、現れ出たという表現の方が正しい。突然現れたお砂に、史織はビクッと飛び上がる程驚いたのだから。



「びっくりした! お砂さん、どこにいたのですか?」

「ふふふ。ばぁは、お屋敷の中なら、呼ばれればどこへでもすぐに現れますよ。お屋敷の外だと、ちょいとお時間いただきますけどね。」



 匂い袋で気が付かなかったが、お砂も時折、甘い香りがしてくるので、もしかしたら人ならぬものなのかもしれないな、と史織は思った。

 まあ死神様の屋敷で働く者なら、そんな事もあるだろうなと、史織の感覚は随分と麻痺してきたようだ。



「あのね、お砂さん。お風呂で気が付いたのだけど、腕に変なシミが出来てるの。」

「……どれどれ。」



 お砂は糸のように細い目を、シミを確認せんとカッと見開いた。



ーお砂さんの目って開くんだ。ー




 などと呑気な事を考えていた史織とは裏腹に、お砂は目を見開いたまま慌て始めた。そしてあろうことか、まだ何も着ていない史織の腕を引っ張り、廊下へと飛び出してしまったのだ。



「お、お砂さん! どうしたの⁉︎ 私、着物着てないのよー⁉︎」

「そんな事、大した事じゃありません!」

「ええーーっ⁉︎」



 そんな殺生な! と思いつつ、間一髪、辛うじて掴み取った布を手繰り寄せ、肩から羽織った。






少し短めか続いてますが、なるべく毎日、更新できるよう頑張ります。

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