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ずっと一緒だよ。⑪

ノロノロ更新ばかりで本当に申し訳ないです (o_ _)o))


 ***



 ふと、気が付いた。

 いつだって、煩いくらい視界に入って来るのに。

 沙和が篤志と居たら、絶対と言うほど離れたりなんかしないのに。

 椥の姿が見えない。


 披露宴の途中で、急に何かが欠けてしまった心許なさを感じ、無意識に椥の姿を探していた。

 最初は、結婚するはずだった碧のことを思い出して、 “会いに行ったのかな?” くらいにしか思っていなくて、大して深く考えては居なかったのだけれど。


 ひしひしと募っていく正体の分からない喪失感に、沙和の焦りはいや増すばかりで。

 意識を集中して椥の気配を探す。けれど、この身に馴染んだ兄の存在を掴むことが出来なかった。


(お兄ちゃんが……いない?)


 まさかと不安に駆られながら、何度も兄の名を呼んだ。

 しかし、何処にも兄の存在を感じることが出来ない。

 椥がふらふらとほっつき歩いていても、 “存在する” と確信できる繋がりが沙和と椥にはいつだって有った。それがまったく感じられない。


(また? また置いて行かれた……?)


 二度と、沙和に黙って居なくなったりしないと約束したのに。

 沙和との約束は簡単に反故にできるほど、椥には軽いものだったのだろうか?


 花嫁の瞳に涙が見る見る浮かんでも、みんな沙和が感極まっているとしか思わないから、彼女にとって頓珍漢な声を掛けてくる。


(そうじゃない! そうじゃないのに……っ)


 心の中の否定を声に出したら、きっと篤志を酷く傷つけてしまう。

 この結婚を望んでいない訳ではないし、感情に振り回される程まだ冷静さを欠いてはいない。

 だけど。

 椥のことがなかったら、幸せを願って声を掛けてくれる人たちに、心から喜んで微笑んでいたはず。けど、そこまで気を配れない自分が、途轍もなく矮小に感じてしまう。

 ドレスのスカートに涙がぽたぽた落ちて浸み込んでいく。


「……沙和」


 不意に隣から声を掛けられて、がばっと顔を上げた。


「あ…あつ……おにぃちゃ……」

「うん」


 そう言って静かに頷いて、篤志は沙和の涙をそっと拭く。


「まっ、またっ!」

「…うん」

「ふ………ぇええええ」

「よしよし。もうちょっと我慢な。二人になったら、好きなだけ聞いてあげるから。な? 沙和?」


 篤志からハンカチを取り上げ、化粧が崩れるのもお構いなしに涙を拭う沙和を優しく抱き寄せて、困ったように眉を下げた篤志が背中をポンポンする。

 事情を知らない招待客に揶揄われながらも、篤志は何とも言えない笑みを浮かべるのだった。



 ***



 椥が去ってしまう少し前。彼は微かな苦みを含んだ笑みを浮かべ、篤志の隣に並んだ。招待客の余興にケラケラ笑っている沙和に視線を送り、溜息混じりに呟いた。


『とうとう沙和も篤志の嫁さんかぁ』

「何か?」


 散々邪魔してきた椥をじろりと見る。すると彼はふっと笑いを漏らし、目を細めて妹を見た後、篤志に視線を戻した。

 目が合って、篤志は息を呑んだ。


『沙和を、妹を頼むな』


 小馬鹿にしたようでも、意地悪げでもない、真摯な眼差しがそこに在った。

 やっと認めて貰えた、そんな感慨と共に篤志が大きく頷くと、途端に椥の顔が緩んでいつもの何処か飄々とした笑みが浮かぶ。その所為で “何かの罠か!?” と瞬時に考えてしまったのは、虐げられてきた年数の為せるわざだろう。

 けれど、身構えた篤志に『何もしないって』と苦笑しただけで、愛おし気に妹に目を戻して椥は言を継いだ。


『そろそろお暇しなきゃならないからさ』


 事も無げにさらりと言った椥を、信じられないものでも見る目で見てしまった。そんな篤志をまったく気にも留めず、椥の言葉が続く。


『沙和には、内緒な? 泣かれたら、ホント俺ダメだからさ』

「すぐ気が付くでしょうに」

『それでも、だよ。そして、お前の夫としての最初の仕事は、初夜ではない』

「ッ!?」

『ギャンギャン泣き喚き、俺の悪態を吐く沙和を宥めることだ』

「っ……それが狙いかっ」

『ふん。俺の置き土産にしては、生温いと思うけどな? 有難く頂戴しろ』

「嬉しくないわ」

『沙和を宥めるのはお前の力量次第だろ。……どれ。そろそろ逝くかな』


 名残惜しそうに沙和を見るくらいなら、そう言いそうになった篤志に椥が不敵な笑みを刷くと、唐突にデコピンをされて一瞬面食らった。が、直ぐに気を取り直し、掴めないと解っていながら、椥に手を伸ばしていた。

 椥の躰をすり抜け、篤志の手が空を掻く。

 椥の唇が “ば~か” と動いたのを見て、篤志の眉間に皺が寄る。


「逃げるのか?」


 篤志に負けるのを良しとしない、椥を挑発する言葉だった。

 うぬぬと睨む篤志に束の間呆気に取られた顔をし、椥は唇の片端を上げる。


『I'll be back. 首を洗って待っておけ』

「ふ……不吉な」

『精々、胆を冷やしておくんだな。戻ったら今度こそ容赦しない』

「くっ……返り討ちにしてくれるわ」

『それは楽しみだ』


 そう言って、どこまでも腹の立つ艶然とした笑みを浮かべた椥は、『またな』と直ぐにでも会えると言いたげな言葉を残し、掻き消すように姿を消してしまった。



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