第7話 「やる気を出していたのはシャッサ」
今日も今日とて遠見の水晶で勇者の様子をチェックする俺。
眠くて他の事をやる気が起きないんだから仕方ないだろ?。
別に幼女趣味なわけじゃないから、そこんところ間違えないようになシス子。
しかし勇者のやつ、最近ちょっと成長してきてるな。
今も毒角ウサギを三匹同時に相手して、わりと軽々倒してる。
いやぁ、巣立つ雛を見る親鳥の心境だなぁ。
――そんな風にこの魔王様が感傷に浸っているというのに、目の前で歯軋りしてるデカッ鼻。
まったくもって空気の読めないじじぃだ。
いったい何が気に食わんというのか。
「魔王様。勇者が成長しておるようです」
見りゃ分かるし、そうなるように願ってんだから問題ないだろ。
「これは由々しき事態ですぞ?
我らの妨害にもめげず、またこの時代においても魔王様の邪魔をするつもりなのです!
おのれ憎っき勇者めがぁ!」
緑色の肌が赤味を帯びて一層気持ち悪いなコイツ。
だいたい邪魔してんのはお前なんだけどな?
「こうなってしまっては、あの辺りのモンスターでは敵いませぬ。
強力なモンスターを配置転換して送り込むべきかと」
ふむ。しかし一理ある。
強くなったとはいえ、所詮は雑魚相手の話。
まだまだこの俺を傷つけるには至らんだろう。
ファイティングポーズでウサギを挑発しながら勇者はご満悦のようだが、雑魚相手に俺ツエェしててもこれ以上の成長など望めん。
となれば、もう少し強い相手と戦って経験値を溜めてもらわねばならぬ。
かといってデカッ鼻の進言を受け入れると、たぶんデーモンだのドラゴンだのを送り込むつもりだからそれもマズイ。
理想は、今よりもほんのちょっと強いモンスターを宛がうことだ。
ならば……。
(よし。勇者に銅色の鍵を渡して先に進んでもらえ)
「鍵を渡して勇者を誘え。そこが奴の墓場となるであろう」
「銅色の鍵を……で、ございますか?
確かに先の大陸へと進ませれば、あの勇者とて敵わぬモンスターもおりましょう。
ですが、ただで勇者に鍵を渡すというのは、どうにも癪でございますな」
思案顔のデカッ鼻。
魔王たる俺が言ってんのに、なんでコイツはいちいち引っかかってんだよ。
それが真の忠臣の務めとかなんとか言ってた気もするが、俺が欲してるのはイェスマンなんだが?
そこに見慣れないガルーダ種の男がやってきた。
誰かは知らんが無断で魔王の前に立つとはいい度胸だ。
焼き鳥にしてやろう。
「お、お待ち下さい魔王様」
お?
庇い立てするのかデカッ鼻よ。
丁度良いから共々に焼き払ってやろうか?
とは思うものの、さすがにそういう訳にもいかないだろう。
仕方がないので話しだけでも聞いてやることにする。
(で、それは誰だよ)
「名を名乗れ」
「こやつはシャッサでございます。
この間、第三軍団の軍団長に任命したのですがお忘れですか?」
あー、なんか言ってたな。
デカッ鼻が無理やり推挙してねじ込んだ奴か。
雑魚リストから選出させたから、強さは大したことない筈だが。
「お初にお目にかかりやっす!
オレっち、韋駄天のシャッサって言いやっす!」
さすがデカッ鼻枠。
人を苛立たせる才能に溢れていやがる。
「銅色の鍵はこやつに守らせようかと存じます。
丁度手が空いているようでございますからな」
守らせるだと?
そんなことをしたら勇者と戦闘になってしまうだろ。
強くはなさそうだが、あの勇者で勝てるかはちと不安だ……。
しかし反対する上手い理由も思いつかん。
これは困ったぞ。
どうするか……ん?
(鳥はどこに行った?)
「シャッサの姿が見えなくなったようだが?」
「話を聞いてさっそく飛び立ったようでございます。
やる気のある男ですからな。ヒョッヒョッヒョ」
おいマジか!
まだそうしろって言ってねぇのに勝手なことを!
あとその笑い方うざいからダークサンダーの刑に処す。