第5話 「経験地を稼がせたかったのは魔王」
さてと、あれから数日たったが勇者はそろそろ俺を倒せるまでに成長しただろうか?
デカッ鼻に持ってこさせた遠見の水晶で見てみるとしよう。
――。
――――。
お、映った映った。
相変わらずちっこいな勇者。
今はちょうど戦闘中のようで、どの程度成長したのか見るには丁度良いタイミングだ。
相手はあの地域ではポピュラーな毒角ウサギか。
雑魚中の雑魚だから、問題なく倒してくれるだろ。
お、斬った……はずれ。
てかまだ筋力がついてないのか、剣を持つ手が震えてる。
あぁっ! と、危ない。
毒の角なんかに刺さるんじゃないぞ?
よし、そこを斬れ!
よぉしよし! その調子だ!
……ふぅ。
ようやく倒したか。
しかしあの程度のモンスター一匹に苦戦するようでは話にならんぞ。
なにかこう、一気にレベルを上げる方法があれば……。
――そういえば宝物庫にレベルアップの種があった気がするな。
あれを勇者に与えればいいんじゃないか?
よし、リスクもないし良い考えだ!
『ビービー。
勇者に施しを与える行為は禁止されております』
いやシス子よ。
これは施しなどではなく、単純な贈り物だ。
『ビービー。
魔王様が幼女趣味に走ることは禁止されております』
まてまて。
子供にプレゼントを贈るのがイコール幼女趣味とはならんだろ?
あれだほら。サンタさん的なやつだよ。
『ビービー。
魔王様はサンタさんではなくサタンさんです』
うるせぇよッ!
誰が上手いこと言えといったポンコツが!
――しかしシス子を説得するのは無理な気がする。
またとんでもない職業名をつけられるのは勘弁願いたいところだし。
となると、勇者には自力で経験値を稼いで貰わなければならないか。
んー……。
あ、そうだ。
弱いけど経験値の多いモンスターを、勇者周辺に配置しまくればいいんじゃないか?
これなら施しにもプレゼントにもならんだろ。
『――』
よし、沈黙しているな。
ではさっそく配置転換を申し付けるか。
(デカッ鼻、ちょっと来い)
「ジョルジュよ」
ハハッと凄い勢いで走ってくるなアイツ。
そういうところは素直に感心するし、褒めてやってもいいと思う。
褒めないけど。
「お呼びでしょうか、魔王様」
(モンスターの配置転換をしたいんだが)
「モンスターの配置転換を申し付ける」
「それは構いませんが、どのようになさるおつもりでしょうか?」
面倒だが、経験値の多くて弱いモンスターを名指しで、こうこうと配置を説明してやる俺。
なんとなくデカッ鼻の顔が渋くなってるが、もともとこんな顔だった気もするから気にしない。
(今の説明どおりによろしくな)
「良きに計らえ」
――それから数日。
さって、勇者はどのくらい強くなったか遠見の水晶で見てみるか。
お、今日は大黒蜂が相手か。
コイツは経験値も強さも大したことないけど、この間の毒角ウサギよりは強い。
その成長っぷりを見せてもらおうか!
――。
――――。
あれ? 負けそう。
なにも成長してなくね?
あ、勇者逃げた。
どうなっているんだ?
デカッ鼻の奴、まさか配置転換しなかったんじゃないだろうな。
(おいデカッ鼻!)
「ジョルジュよ!」
「はい、ここに」
(ちゃんと配置転換したんだろうな?)
「申し付けた通りの働きをしたのであろうな?」
「それはもちろんでございます、魔王様。
しかし、あのような事をお考えだったとは、このジョルジュ感服いたしました」
……?
どういうことだ?
チラッと遠見の水晶を見ると、今度は高経験値のモンスターと勇者が遭遇していた。
これは丁度いい。
さぁ倒せ! そして強くなれ!
……あ、モンスター逃げるな!
追え勇者! 早く! もっと早く走れよっ!
……。
「このように、勇者は高経験値のモンスターをひたすら追いかけているだけで、毎日を無駄に過ごしております。
こうやって勇者を封じこめるとは、さすがは魔王様ですな!」
――もういいや。寝よ。
……あ、寝れないんだった。