第11話 「魔王、戦う」
勇者に先んじて、俺は北の塔へと来ていた。
寂れた塔の内部はおどろおどろしいが、今の勇者ならば臆せず進めるだろう。
多少のトラップと思しきものが目に入るが、そこまで危険なものではなさそうだ。
せいぜいが弱い毒にかかったり、下の階への落とし穴程度。
このくらいは試練と思って乗り越えて欲しいものである。
念のためひとつひとつの罠を確認しつつ、俺は頂上の四階へ到達する。
階段を上りきった正面の部屋にはシャッサとスーラがいるはずなのだが、すぐには入室しない。
これを忘れてはいかんからな。
扉の前に種を一粒設置する。
するとたちまち水が湧き出し、それは小さな泉となった。
いわゆる回復の泉。
この水を飲めば、ここまでの疲れと傷をたちどころに癒してくれる優れものだ。
上手く設置出来たことを確認してから、二人の様子を見に入室する。
「あらぁ、魔王さま?
なにか私に不備がありましたでしょうか?」
おっとりねっとり喋るスーラ。
先ほどまでの勇者を慰める姿を見たからか、悪い気はしない。
隣の鳥頭とは違ってな。
「良くいらっしゃいましたっす!
これから勇者をぎゃふんと懲らしめるので、見ててくだっさい!」
ククク……やっぱりな……。
内心そうじゃないかと思っていたが、やっぱりか!
こいつは趣旨をこれっぽっちも理解しちゃいねぇ!
だからといって「上手に負けろよ」などとは言わない。
シュッシュッとシャドーボクシングしているこの鳥頭に、そんな芸当が出来るなどとは微塵も期待していないのだ。
(おい鳥頭)
「シャッサよ」
「なんでっしょ! 魔王さま!」
(その程度で勇者に勝てるだと?)
「貴様程度が勇者を倒せると思っておるのか?」
「ふふっふ!
オレっちの速さを甘くみないで貰いたいっすね!
あんなちびっ子には、この速度は捕らえられないっすよ!」
そういって右へ左へと高速移動してみせる鳥頭。
確かに速い。
時折そのまま柱にぶつかって自分が傷ついていることを含めても、勇者には少し荷が重いだろう。
だからこの俺がわざわざ来たのだが。
(甘いのはお前だ。その程度では倒せないぞ)
「愚か者が。速いだけでは勇者は倒せんわ」
「じゃあどうしたらいいっすか?」
(俺が直々に特訓してやる)
「我自らが、貴様を鍛えなおしてやろう」
「ホントっすか! ありがったいっす!」
言うや否や、シャッサは高速の動きで俺に飛び掛ってきた。
もっとも俺にとってはスローリー。
蝿が止まって一眠りするほどゆっくりな動きだがな!
パシッとシャッサの蹴りを受け止め、そのまま掴んで柱に投げ飛ばしてやる。
柱をへし折りなおも吹き飛ぶシャッサ。
「ま、魔王さま、痛いっす……」
(その程度か?)
「その程度では勇者には勝てんぞ?
さぁ、かかってくるがよい」
「い、行くっす!」
実に素直な奴だ。
馬鹿なだけで根は良い奴なのだろう。
おつりがくるほど馬鹿なだけで。
殺さないように気をつけながら、俺はシャッサを殴り蹴り吹き飛ばす。
ついでに少しだけ羽も焼いて、飛べないようにしておく。
真面目に特訓を受け続けていたシャッサは、すでにボロボロ。
自慢の速度も失い、ぜぃぜぃと肩が上下していた。
このくらいで良いだろう。
(これでお前は強くなった。頑張れよ)
「我が直々に鍛えてやったのだ。期待しておるぞ」
そう言い残して俺は塔をあとにする。
勇者に見つかっては面倒だからな。
魔王城に戻って遠見の水晶を覗き見ると、すでに決着がついていた。
命からがらシャッサは逃げ出し、今はスーラが勇者を抱きしめている。
助けた側の勇者は嬉しそうに、そして誇らしげだ。
この分であればもう大丈夫だろう。
なにか達成感のようなものを感じ、眠れはしないが俺はゆっくり目を閉じたのだった。




