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第10話 「勇者を慰めたかったのは魔王」

 水晶には勇者と、人間に擬態したスーラが映っている。

 よしよし上手くやれよと、俺は成り行きを見守ることにした。


「どぉしたのぉ? お嬢ちゃん」


「ひっぐ……ひっぐ……」


「泣いていちゃ分からないわぁ」


 申し付けた通りに、スーラは辛抱強く幼女を落ち着かせているな。

 その調子だ。


「お、お化け……怖いのぉ……」


「あらあらぁ。

 お化けさんが怖いのぉ?」


「うん……」


 どうやら幼女も話を聞いて欲しいらしい。

 被った布団から頭だけ出している。

 あの歳で一人で戦っていたのだ。

 そう考えれば、苦手なものが現れて心が折れてしまっても仕方ないのかもしれん。


「でも貴女は勇者なのでしょぉ?

 頑張らなきゃダメじゃない」


「ど、どうしてそれを?」


 馬鹿もん!

 ただ泣いている幼女を慰めるという体だったのに、勇者と知っていたら怪しまれるだろうが!


「そ、それは、ま……」


「ま?」


 魔王さまに聞いているとか言いかけたなコイツ。

 そんなことを言ったら台無しだろうが。

 ちゃんと誤魔化せよ?


「ま……ママはなんでもお見通しなのよぉ」


 ママッ!?


「ママッ!?」


「そうよぉ?

 私のことをママと思って、甘えていいのよぉ?」


 とてつもなく強引な気もするが、しかし勇者は泣きながらスーラの胸に飛び込んだ。


「あた、あたし、怖かったの! 辛いの!」


 そう言って泣きじゃくる勇者をあやすスーラ。

 ダメ元のつもりで送り込んだが、あいつ実は有能なんじゃないのか?

 俺の目の前で残り少ない髪の毛を整えてるデカッ鼻よりよっぽど使えるぞ。


「そぉねぇ。辛かったわねぇ」


「うえぇぇぇん!!」


 それからしばらく幼女は泣き続けていた。

 背中をさすり続けるスーラの瞳は、本物の母親であるかのように慈愛に満ちている気がする。


 たっぷり30分泣き続け、ようやく幼女は落ち着いたらしい。

 ぽつりぽつりと幼女は身の上話をスーラに語り、スーラは時折相槌を入れながら黙って聞いていた。

 それによると、どうやら本物の両親はすでに他界しており、引き取られた教会で勇者としての洗礼を受けたのだとか。

 だがそれも半ば厄介払いみたいなもので、それからは一人で森で修行させられていたらしい。

 世知辛い世の中だと聞いているこっちまで目頭が熱くなりそうだぜ。


『ビービー。

 魔王さまが勇者に同情するのは推奨出来ません』


 あぁ、そうだなシス子。

 今のは俺が悪かった。どうかしちまったみたいだ。


『……今だけでしたら、目を瞑ります』


 お、おぉ?

 急に話しの分かる奴になったな。

 いいとこあるじゃないか。見直したぞ。


『職業欄が変更されました。

 以降はロリコン大魔王となります』


 前言撤回だポンコツめ。


 さて、そんなことは置いておいて、水晶の向こう側。

 涙なのか粘液なのか分からない水分を目から零し、スーラが言った。


「もう無理しなくていいのよぉ?

 なんならママと一緒に暮らしましょう?」


 おいおいおいおい!

 それは違うだろスーラ!

 確かに俺も情に(ほだ)されかけたが、そこはお前、旅は続けてもらわんと。

 強く成長して俺を倒してもらうという目標に変更は認められんぞ?


「ありがとうママ。

 でも、あたしは勇者だから……。

 悪い奴らはあたしが倒さなきゃならないの」


 めっちゃいい娘だな勇者。

 俺は応援しているぞ!


「でもね、ママのおかげで怖いのはなくなったけど、自信がないの。

 あたし、戦っていけるのかな?」


 よしよし、第一関門はクリアしたようだ。

 とりあえず恐怖は乗り越えた。

 あとは自信を回復させ、戦えると思い込ませればいいわけだ。

 予測通りの流れに俺はほくそ笑む。


 ――ガシャーン!


 タイミングを見計らっていた鳥頭が、二人のいる部屋へガラスを割って突入した。


「あ、あぁ!」


 そして鳥頭はスーラを抱え、勇者に言い渡す。


「こいつを返して欲しかったら、一人で北にある塔のてっぺんまで来いだっぜ!

 待ってるんだっぜぃ!」


「待って! ママを連れていかないで!」


「嫌だっぜぃ! へへーん!」


 そのまま窓から飛び去る鳥頭。


 ――完璧だ。

 これで勇者はスーラを助けるために塔へ向かい、そこで鳥頭を倒して自信を回復するのだ!

 勇者が乗ってくるかが一番の問題だったが、スーラの謎アドリブでママと慕っている今なら大丈夫だろう。

 あとは鳥頭がちゃんとやられてくれればいいのだが……。


 うん、不安だな。

 前回の汚名返上と意気込んでいただけに、なんか本気出して勇者を倒しかねん。


 ――やるか。



バブみスライム……

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