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バイナリー・オポジション  作者: ハゲタカ
第3幕 鏡の国から
50/141

活動前2,4

道中、交番前に憲嗣と少年の姿があった。


憲嗣は少年の肩を掴んで携帯を耳に当てている。


「はい、そちらのお子さんが、ん?あ、階上君が来たので彼に任せます」」


洋也たちの姿を見ると、対応を変え、そんなことを言う。


携帯をしまい、手を振る。


「丁度いい、階上、この子を陽帝教会まで連れてってやってくれ」


その少年に見覚えはあった。


孤児院に居た子だ。


それよりも洋也は自分に頼んだことに引っかかった。


「立羽さん、まさか俺がピースメイカーに入ったことを」

「ちとつてがあってな、聞いたのは今朝方だが、・・・おいおい、キミも隅に置けないねぇ」


洋也の隣に立つ綾乃、もといズメウを見て憲嗣はニヤニヤとからかうような表情になる。


「何を言ってるんですか?」

「あ、そうかい」


洋也はその表情の意図が読み取れず、困惑した。


慌てふためく様子もない洋也に憲嗣はその行為が無意味であると分かると、呆れる。


「とりあえず、頼んだ」

「分かりました、しかしなぜこんなことに?」

「すぐそこのショッピングモールで万引きをしたらしい、店長さんは許してくれたらしい、正直警察とて

もこの件は誓約書書かせるだけで終わりにしたい」


面倒くさそうに頭をかく憲嗣。


軽犯罪の対処は現在の警察の数少ない仕事ではあるのだが、相手が社会的に上の組織、ピースメイカーの孤児であったのなら、足早にもなるだろう。


警察が国家権力として成り立っていた時代はとうの過去。


「それじゃあ、行こう」

「気を付けてな」


洋也は少年と手をつなぐ。


その後ろを、ズメウがついて行った。


「ああいうのは、二人で手をつなぐものだと思うんだが、・・・理想の押し付け過ぎか」


洋也たちが去ったあと、憲嗣はそんな小言を漏らした。


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「そらそら、そこはさんでけぇ!」

「おほ、すごいいっちゃん受け止めた!」

「こっちわたせい!」


孤児院の庭では子供たちが元気よくドッジボールをしていた。


「おねえさんおたすけしてぇ?」

「いいでしょう、殲滅します」

「せんめつってなに?」


そんな中にズメウが混じる。


わいわいと、日差しを浴びながら活動する子供たち。


対して、洋也は万引きの少年と日陰で施設前のベンチに並んで座っていた。


「なんで万引きなんかしたんだ?」

「・・・」

「黙ってても意志は伝わらない、やましいことがないのなら言葉にすればいい」

「・・・」

「・・・怒らないから話してみろ」

「・・・」


一向に開口しない少年に洋也は悩む。


自分に向いた役割ではない、そんなことは分かっていたが、任せられる人間はここにはいない。


教会にいる人たちは誰もが強面、任せられる状況にない。


紅一郎はまだ学校、流人は帰って早々アパートの自室へ閉じこもり、杏花は生徒会。


となれば、自分以外の誰がこの件に関われるか。


ふとサクリファイスの姿が脳内に過る。


そして鞄から手枷を取り出す。


レスタトには使いかたを教えてもらってはいない、なので直感に頼る。


取りあえず、横に振るった。


「ごほぅ!?」


目の前にサクリファイスが勢いよく現れた。


胸部分を建物にぶつけて。


「おうぅ」


呻き声を上げながら崩れる。


「大丈夫か?」

「あなたのせいでしょ、これ」

「すまない、使い方が分からなかったんだ」

「・・・今度やったらただじゃおかないわよ」


サクリファイスは立ち上がり、少年へ目を向ける。


その赤い目を。


「ひっ!」

「そのリアクションが欲しかった」

「よせ、逆効果だ」


自身の威厳を示す機会に飢えているせいか、怖がる少年の姿に興奮してしまったようだ。


少年を睨みつけるサクリファイスを洋也が止めに入る。


首裏を二の腕で抑え込み、周囲へ聞こえないよう話を始める。


「親身になって話を聞きたい、そのために君をここへ呼んだ」

「なぜそれが私なのかしら?」

「生憎と会長が仕事中でな、仮にも君は女性だろう、異性に話しやすくなるような単純な子供かもしれない」

「仮にも何も私はレディよ、悪いけれど、断る」


サクリファイスが洋也の拘束を解く。


「なぜ?」

「些細なことに首を突っ込むに気にはなれないわ」

「それは逃げか?」


その一言は、扇動の始まりだった。


「・・・逃げ?」

「確かに、君のその見た目では色気も何もないからな、悪いな」

「待ちなさい、色気は体が出すものじゃないわ」


突き放そうとする洋也に、サクリファイスが意見する。


扇動は上手くいき、食いついたようだ。


「証明してあげる」


少年の下へ、歩いていく。


「う、うわあ!」


少年がそんな声を上げる。


そんな少年をサクリファイスが詰め寄る姿はどう見てもパニックホラーのそれである。


しかし、少年は距離をとることなく、サクリファイスの接近を許した。


吸血鬼の魅了の力か、恐怖で足がすくんだのか。


後者の方が可能性は高い。


抱きしめて、ベンチへ座る。


サクリファイスが自慢気な顔で洋也の方へ向く。


まるで威厳は感じられなかった。


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