対人戦
そのころ、紅一郎に分断された二人は未だに刃と刃のぶつけ合いをしていた。
月が銀剣と黒刀が木々の合間から漏れる月の光を反射する。
「く、なぜ我々の邪魔をするのですか!?」
「黙れ生命の冒涜者、鬼は地の底へ帰れ!」
洋也は叫ぶと同時に刀を振るい、銀剣を振動させる。
反動で刃は手前へ跳ねるが、それを利用し間髪入れず連撃を叩き込む。
振動は仮面の男へと伝わる。
「ぐぅ!!」
後退し、構えなおすも衝撃で手が麻痺し、剣を強く握れない様子だ。
そんなたじろいだ様子を洋也は逃すことなく間合いを詰め、肩から脇腹を切れ味悪く切断しようと振り上げる。
仮面の男は剣をしっかり握ろうと持ち手を変える前にその一撃を察知し、麻痺していない方の手で受け止める。
刃のない刀身はその手の平に沈みこんでいき、赤く染まっていく。
「ぐうぉ!!」
仮面の男がうなる。
刀の痛みより、麻痺しつつも銀剣を振り上げる手に気力を注いでいるようだった。
洋也もまた、銀剣の一撃を掌で受け止める。
仮面の男と洋也、どちらの得物も相手の手を裂くことなくお互い封じ合う。
攻撃手段は必然的に蹴りとなった。
洋也の足が出る。
遅れて仮面の男も足を出すが、防御姿勢となる。
洋也の足を受け止め、弾く。
弾かれた足は挙動を変化させ、仮面の男の足へと絡みつく。
洋也はつま先を手前へ引き寄せ、体を飛び上がらせると同時に膝蹴りを仮面へ当てる。
仮面は割れ、破片を地面へまき散らす。
銀剣を放し、素顔をその掌で覆い、掴む。
「があああああああ!!」
手慣れたように痛みを与えた。
デコンポーザーがしたようにじたばたと暴れる。
痛みを知らない吸血鬼ほどでないにしろ、痛みはあらがい難いものだ。
ただの人間にはただの悪あがきでしかなく、洋也に抑え込まれる。
「ぐぁ、く、離せ!」
無言で刀を柄頭に指を置いてもつ。
切っ先は男の首元へ。
振り下ろさんとする時、手の甲に僅かな風の流れを感じた。
洋也は地から足を上げ、男へ全体重をかけて前転倒立をする。
逆さまの視界に、ワイヤーが一閃、通過した。
「勇馬!」
藍色の闇の中に向かってくる人影があった。
加勢、この男、勇馬の仲間だと警戒し、刀の刃をその首へ近づける。
「動くな!さもなくばこいつを殺す!」
人影は月の光を浴びて姿をさらす。
湊がテーザーガンと警棒を構えていた。
「階上洋也、お前が近江を引きずり込んだか」
「俺の行く先に、あいつがいただけだ、奴はどうした?」
「勇馬を放せばこちらも開放する」
そんなことを言っているが、洋也には湊が紅一郎を拘束している根拠が見当たらない。
「それを証明できるのなら放してやる」
人型が、怯むように揺れた。
影に隠れた湊の表情を洋也は読み取ることはできない。
しかし、指摘されて身じろぎ一つしたのだから、疑うべきだ。
「どうした?証明できないならこいつを殺して終わりだ」
「ま、まて、今連れてきてやる」
「離れてる間に殺すぞ」
洋也にアドバンテージがあるのは明らかだった。
湊が紅一郎に手を出せない状態にあるのならその隙に人質にも手が出せるし、湊にも攻撃できる。
湊と勇馬にとって手詰まりなこの状況に、暴風が走った。
「勇馬!」
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気配こそ感じていた。
暴風にも、背後に迫る人間にも。
しかし相対した敵は二人だった。
勇馬と湊。
洋也は二人だけを相手に構えていた。
それが、他の存在への注意力を削いでいた。
何者かに背後から突き飛ばされる。
突き飛ばされた先には通りかかった暴風。
風は刃となり、洋也の剥き出しの顔面を切り刻む。
「がああああ!!」
防刃であるはずのコートと手袋さえ、連続する風の斬撃を数十回も浴びて耐久力が減衰し、裂けるまでに
至る。
全身から血が噴き出し、洋也は意識を失った。




