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Shake  作者: 木野華咲
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心臓は、煩い音を立てっぱなしだ。吐き気すら襲ってくるほどに。

自分で言い出したことながら、この場に立つと何てことを言ってしまったのだろうと繭は後悔していた。


「で?話って?。」

シャンプーは何を使っているんだろう。トリートメントは何を使っているんだろう。今日もサラサラの茶色い髪を見ながら、どーでもいいことに意識がとぶ。どうしてそんなに肌が綺麗なんだろう。どうしてその目は人を惹きつけるのだろう。初めて会った日から、ずっと片思いをしてきた相手。何度も同じベッドの上で、身体を重ねてきた男。

ほんの10分前まで、いつもと同じように二人で働いていた。繭が注文を受けて、圭吾が調理する。最初は覚束なかった連携プレイも、時と共に息が合うようなっていた。まだ数ヶ月、繭はバイトを続けるつもりだ。その度に、圭吾と顔を合わすことになる。大丈夫だろうかと不安になる。圭吾ではなく、自分が大丈夫だろうかと。


学校の制服である白いシャツがよく似合う圭吾が、バイクに軽く体重を預ける。繭が口を開くのを待っているのだ。帰ろうとする圭吾を話しがあると呼びとめたのは繭なのだから、当然といえば当然である。


「ちょっと待ってね。」と大きく深呼吸。

いざとなるとこんなものだ。気が強いくせに、小心者。練習どおりに言えばいい。そのために家であんなに練習したのだから。

「私ね、。」

そこまで声に出して、圭吾を真っ直ぐに見た。目を逸らさないと決めてきた。絶対に逸らさないと決めていた。

「圭吾のことが、ずっと好きだった。」

圭吾の目元がピクリと動く。だけど直ぐに宙を仰ぐ。プッと吹き出した口元を見て、繭の全身から力が抜けた。

「勝手な女。」

そう言われて、繭も笑ってしまう。

圭吾のことが好きだった。好きで好きでたまらなかった。けれど繭は、もう圭吾といることを望まない。圭吾の言うとおり勝手なのだ。そんな自分に笑ってしまった。

「返事はいらないんだろ?。」そう聞かれ頷いた繭に、「本当に勝手な女。」と圭吾がまた呟く。

後悔を残さないためには、これがベストな選択だった。少なくとも、繭はそう思っている。

例えそれが間違っていたとして、繭が選んだのは圭吾ではなく、隆だから。

「ありがとう。」

自然と口が動いていた。

「お礼言われるようなことしたっけ?。」と、圭吾は苦笑する。

こんなに誰かを好きになれたこと。それは、繭にとっては大きな価値があった。圭吾で良かった、と思う。好きになった男が、圭吾で良かった。


「バイト仲間としてぐらいは、付き合ってくれるんだろ?。」

有り難い圭吾の申し出に、「うん。」と繭は頷く。

「あと半年もないけど。」

「そうだな。」

「ごめん。それじゃ帰るね。ありがとう、圭吾。」

「あぁ。」

「バイバイ。」

「・・・あぁ。」

本当にこれで最後なのだ。そう思うと、まだ繭の心は揺れる。だが、一つの区切りをつけられた事で、気分が晴れたのも事実だった。

圭吾に背を向けて歩き出した足も、心なしか軽い気がする。

「繭。」

名前を呼ばれて立ち止まる。顔だけを圭吾に向ければ、

「がんばれよ。」

そこにあるのは、好きだった男の笑顔。

本当に中岡圭吾という男は・・・。

「もう頑張ってるよ。」

滲んできた涙を拭い、繭もとびっきりの笑顔を返した。




涼しい風、綺麗な月。

このまま家に帰るのが惜しくなるぐらい気持ちのいい夜だ。

今頃隆はどうしているだろうと、この空の下、共に戦いに挑んでいるはずの男を想う。

泣いているだろうか、笑っているだろうか。

隆のことだ。あの爽やかスマイルを浮かべながら、ボロボロに傷ついているに違いない。

何しろ相手は恵だから・・・。圭吾のようにいかないのは、目に見えている。

静かな住宅街を抜けようした直前、携帯が大きな音を響かせ慌ててマナーモードに切り替えた。

携帯が知らせたのはメールの受信。差出人は、ボロボロの男。

「あーぁ。」

内容を見て思わずため息がでる。

「私が慰めて欲しいんだけどなー。」

携帯を手にしたまま方向転換した足は、駅へと向かって走り出していた。




END

「Shake」完結です。

まだこれから成長していく登場人物たちの一過性な恋愛を描きたかったのですが、分かりにくすぎると知人には言われてしまいました。

ですが私個人としては、案外気にいっている話でもあります。

読者登録して下さった皆様、読んでいただいた皆様には、毎回ながら心より御礼申し上げます。ありがとうございました。



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