表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】聖女は3歳児でした  〜聖女誕生からレイナ成長記録〜  作者: ぶっくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/49

最終話 聖女レイナ23歳編 たんぽぽの約束

アルドリック三世退位から5年後、23歳になったレイナは、城のバラ園で王子公爵のクリスと散策していた。

薫り高いバラの間を歩く2人の姿は、絵のように調和していた。


28歳になったクリスは、王子公爵として威厳を備えていたが、レイナの前では相変わらず少年のような笑顔を見せた。

彼の目は、彼女を見つめる時だけ、特別な輝きを宿していた。


ここ数年、エドワルド王や宮廷の貴族たちが幾度となく縁談を持ちかけても、クリスはすべて丁寧に、しかし確固として断り続けていた。

宮廷では「鉄壁の王子公爵」と囁かれるほど、彼の意志は揺るぎないものだった。


クリスの心には、3年前の母アメリア王妃との会話が、今も鮮明に蘇る。


あの晴れた午後、アメリア王妃はクリスを私室に呼び寄せた。


クリスは覚悟を決めたように言った。

「母上、また縁談の話でしょうか?」


窓辺に立ち、春の庭を眺めていたアメリアは、ゆっくりと振り返った。

彼女の目には、深い理解と慈愛の光が満ちていた。


「もう縁談の話はしないわ。あなたの心は、ずっと前から決まっているのでしょう?」


彼女は優しい口調で続けた。

「この先、縁談の話がきたら私がお断りしておきます。一番熱心な陛下には、私から強く伝えておきますから」


その言葉に、クリスの目が潤んだ。

長年、胸に秘めてきた想いを、母が理解してくれているという安堵が、彼の心を温かく包んだ。


「母上……ありがとうございます」


アメリアは優しく微笑んだ。

「あなたの幸せが、何より大切だから」


その言葉に、クリスの胸に灯り続けてきた一つの想いが、確かな決意へと固まり、レイナへの愛を、正式に形にすることを心に誓った。


バラ園の散策の最中、クリスは突然、懐かしい記憶を口にした。

「レイナ、覚えてる?あの日、君が城に来て間もない頃、僕が君を案内したこと」


レイナの唇に笑みが浮かんだ。

「もちろん覚えてるわ。クリスお兄ちゃんが、空っぽの鎧を見せてくれたよね。あの時、中に誰かいると思って、びっくりしたんだった」


2人は笑いながら、あの日のことを思い出していた。


突然、クリスが歩みを止た。

バラの香りが漂う小道の中央で、彼はレイナの前にひざまずいた。

彼の表情は真剣で、目は一瞬の緊張を浮かび、そして深い決意に変わった。


「レイナ、僕は子どもの頃からずっと……君のことが好きだった。あの日、君がおじいさまのひげにたんぽぽを挿した時、君の無邪気な笑顔に、この城の氷が溶けるのを見た。それからずっと、君のそばにいたいと思っていた」


レイナの心臓が高鳴った。

長年、胸の奥で育ててきた想いが、一気に溢れ出そうだった。

彼女は言葉を失い、ただクリスの真剣な瞳を見つめることしかできなかった。


クリスはポケットから小さなベルベットの箱を取り出し、慎重に開けた。

中には、たんぽぽの形をしたダイヤモンドの指輪が輝いていた。

細工は精巧で、一つ一つの花弁が微かに揺れるかのような造形だった。


「これは……城の宝石職人に特別に作ってもらったんだ。デザインを考えるのに2年。最高のダイヤモンドを探すのに、さらに1年かかった」


クリスの声には、深い愛情が込められていた。


「あの日、君が持ってきたたんぽぽのように、この城に幸せをもたらしてくれた君への、僕の感謝と愛の証だ」


レイナは息を呑んだ。

目に涙が浮かび、喉が詰まった。

「クリス……私もずっと……」

言葉が続かない。長年の想いが、一瞬で溢れ出そうだった。


「結婚してくれないか?僕と一緒に、この城に永遠に笑い声を響かせてほしい」


レイナはうなずくことしかできなかった。

言葉にならない感動が、胸いっぱいに広がった。


その夜、2人はエドワルド王の書斎を訪れた。

そこには、呼び寄せられたレイナの両親、トーマスとエラの姿もあった。


王は既に報告を受けていたようで、2人が入室するなり、満面の笑みを浮かべた。


「来たか。アメリアからは聞いているよ」

エドワルド王は温かい眼差しで二人を見つめた。

「長い道のりだったな、クリス。そしてレイナ……お前がこの城に来た日から、私は何となくこうなる気がしていた」


レイナ……」

エラが声を詰まらせた。

「本当によかった……」


トーマスは娘の手を取り、しっかりと握り返した。

「お前の幸せが、何よりの喜びだ」


エドワルド王は二人の前に進み出た。

「正式な許可は必要ないだろうが、王家として、心から祝福する。レイナ、お前はこの城に、かけがえのない光をもたらしてくれた。これからも、その光をクリスと分かち合ってほしい」


アメリア王妃は息子とレイナを見つめ、満足そうに頷いた。

「これでやっと、あの子の長い恋が実るのね」


書斎には、温かい祝福の空気が満ちていた。


翌日にはクリスとレイナの結婚の話題が国中を駆け巡った。

城の門前には祝福のメッセージが次々と届けられ、町国の人々も2人の結婚を心から喜んだ。


翌年の結婚式は、春のたんぽぽが咲き乱れる季節に行われた。


式場には、レイナの希望通りたんぽぽをあしらった装飾が施され、優しい黄色が白い花々を引き立てていた。

地面から空まで、幸せの色が広がっているかのようだった。


レイナのウェディングドレスの裾には、小さなたんぽぽの刺繍が施されていた。指には、あのたんぽぽの指輪が輝いていた。


参列者の中には、レイナの実の父母であるトーマスとエラの姿もあった。


トーマスは勉強に励み、誠実な働きで周囲の信頼を集め、今では次席補佐官として立派に働いていた。

かつての不安げな面影はなく、自信に満ちた笑顔で娘を見つめていた。


エラは侍女長となり、かつて自分が務めていた役割を、若い侍女たちに優しく指導していた。

今日は特別に用意された青いドレスを着て、誇らしげに胸を張っていた。


2人は並んで座り、花嫁となった娘の姿に、目を潤ませながら微笑んでいた。


前王のアルドリック三世は、エドワルド王とアメリア王妃の隣の席に座っていた。

退位から5年、彼は以前より穏やかな表情で、孫のクリスの結婚式を楽しんでいるようだった。


エドワルド王とアメリア王妃は、新郎の両親として、誇らしげな表情を浮かべていた。

アメリア王妃は、式の最中に何度もハンカチで目頭を押さえていた。

彼女は息子の長年の想いが実る瞬間を見て、心から祝福していた。


ウィリアム王太子はすでに結婚し、二人の子供の父親になっていた。

彼は妻のダイアナ王太子妃と、3歳になる息子ジョージ王子と1歳になる娘アン王女を連れて参列し、弟の結婚を祝福していた。


子供たちは式場のたんぽぽの飾りに興味津々で、時折母親に「あの花、取って」とせがむ声が、式の厳かな空気を柔らかく包んだ。


式が終わり、新郎新婦が退出する時、参列者全員が立ち上がり、拍手と祝福の声を送った。


出口で、レイナが何かを思いついたように立ち止まり、彼女はブーケを投げる代わりに、式場の飾りから小さなたんぽぽの綿毛をそっと摘み取ると、息を吹きかけた。


無数の綿毛が春の風に乗って大広間中に舞い、金色の光の中をふわふわと漂った。


子供たちが「わあ!」と声を上げ、手を伸ばして捕まえようとする中、レイナはクリスの手を握り、にっこり笑った。


「これで、幸せがみんなに届くわ」


クリスは彼女の手にキスをし、囁いた。

「君自身が、この城に幸せを届けてくれたんだよ」



それからさらに2年後、春の訪れとともに、レイナとクリスの間に1人の女の子が生まれた。


出産は驚くほど穏やかに無事に終わり、城には新しい命の泣き声が響いた

赤ちゃんは目を閉じ、小さな拳をぎゅっと握りしめていた。彼女の頬には、ほんのりとピンク色が差し、金色の産毛が柔らかな光を帯びていた。


レイナは疲れた顔にもかかわらず、幸せそうな笑みを浮かべ、腕に抱かれた小さな命を見つめていた。


「何て名前にしようか?」

クリスがベッドの脇に座り、レイナの汗ばんだ額にそっとキスをしながら尋ねた。


レイナは少し考え、ゆっくりと言った。

「シンシアはどうかしら?アルドリックおじいさまの最愛の王妃様の名前から頂いて」


クリスの目が優しく細まった。

「美しい名前だ。きっとおばあさまも喜んでいるよ。天国から、この子を見守ってくれるだろう」


その夜、前王アルドリック三世が赤ちゃんを見に訪れた。

シンシアと名付けられた赤ちゃんを見つめる彼の目には、静かな涙が光っていた。


「シンシアか……」

彼はかすかな声で呟き、赤ちゃんの小さな手をそっと握った。

「彼女もきっと、君のようにこの城を明るくしてくれるだろう」


レイナは微笑みながらうなずいた。

「ええ、きっとそうよ。たんぽぽみたいに、どこにいても春を連れてくる子に育てたいわ」


窓の外では、今年最初のたんぽぽが咲き始めていた。黄色い花々が風に揺れ、また新しい物語の始まりを告げているようだった。


城には、再び笑い声と幸せが満ちていた。

たんぽぽ一本から始まった物語は、世代を超えて、これからもずっと続いていくのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。 小さな聖女の成長とみんなの幸せを楽しみに読ませていただきました。 ステキな物語をありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ