クローナとミロウ
私は静かになった宮殿の中を一人で歩いていく。
本当に誰もいない。
全員が泡を吹いて地面に倒れている。
なぜだろうか。
過労で疲れて倒れたとか?
いや、それならなんで全員倒れているのだろう。
謎すぎる。
まあ、あまり考えても仕方ないよね。
私は面倒なことに頭を使いたくない主義なのだ。
宮殿の中をぶらりと歩いていると、ドアの開く音がした。
(お! 人がいた)
せっかくだし、何があったのか聞いてみよう。
私が音のした方に近付いていくと、黒い髪の女の子がおろおろと辺りを見回していた。
彼女は慌てたように地面に倒れた使用人たちを見ると、びくびくしながら部屋の外に出てきた。
ちょうど目が合う。
彼女は私を見て、やっと人がいた! というように少し顔を明るくした。
「あの、すみません。何があったのでしょうか。巨大な魔力が溢れたような感じがしましたが、いったい何があったのですか?」
巨大な魔力が溢れた感じ? どこかで誰かが魔力暴走でもさせたのだろうか。
「う~ん。分かんない。なぜか急にみんな倒れたんだよね……」
「おそらくですが、魔力が少ない方々がさっきの魔力圧に耐えられなくて倒れてしまったのだと思います。」
なるほど。彼女は結構魔力が高いため、倒れていないということか。私は今、魔力不足でお腹が空いて倒れそうだが、それでも大丈夫だったということは私もそこそこ魔力が高めということだろうか。
「いったい何があったんだろうね?」
「わ、分かりません。それにしても、すごい魔力が通っていましたけれど。そういえば、体の方は大丈夫ですか?」
「なんともないよ?」
「す、すごいですね。私なんて、魔力圧にやられて魔力中毒を起こしています」
「大丈夫? 休むといいよ。」
「はい。ありがとうございます」
彼女は部屋に戻ると、ベッドに腰かけた。
彼女の頭に手を置いて、熱を測る。
「すごい熱だね。大丈夫?」
「いえ。大丈夫です。……そういえば、名前はなんと言うのですか?」
「私? ミロウだよ!」
「ミロウ様、とお呼びしますね。」
「ミロウでいいよ。」
「じゃあ。ミロウさん、でお願いします。」
二人で握手をする。
握った手は、熱があるのかとても熱かった。
「……それにしても、不思議です。」
彼女は私と手を繋いだまま呟いた。
「不思議?」
「私、人と話すの苦手なんです。目を見て話せるのは家族ぐらいで、それ以外の人とはほとんどコミュニケーションが取れないんです。でも、ミロウさんとは普通に話せます……なんだか、もう一人お姉さんができたみたいです」
「どちらかと言えば私が妹かも?」
「そうでしょうか? ふふ。私、兄と姉と弟はいるけれど妹がいないんです。ずっと妹が欲しいと思っていたんですよね」
「そうなんだ。兄妹が多いんだね」
「ええ。七人兄弟で、私は五番目です。すっごく仲の良い兄妹だったんですよ」
だった? 今はそうではないのだろうか。
「よくみんなで遊んだりしました。……でも、だんだんそんな毎日は崩れていきました」
彼女はそこでいったん言葉を止めた。そして、何かを思い出すように天井を眺めた。部屋に沈黙が降りる。
「兄妹の一人を、みんなで虐め始めたんです」
「……どうして?」
「私たちは、まだ子供でした。だから、親に言われたことは信じこんでしまったんです。親が一人の子供を『呪われている』と言えば、それは子供にとっての真実になるんです。」
子供というのは、純粋で、壊れやすく、時に残酷だ。
だから人を傷つけやすいし、人に傷つけられやすいのだろう。
「私、今でもそのことを後悔しているんです。兄妹達のしていることをただ、黙ってみているだけだったから」
彼女の手が小さく震えているのが分かった。
「兄妹達は、今はどうしているの?」
「分かりません。今はもう、全員バラバラになってしまいました。いつかできることなら、もう一度家族全員で会いたいです。」
「探しに旅に出てみたら?」
「……無理ですよ。私はこの城から出られませんから。」
「なんで?」
「私はラドルディア・レイ・ローリック様の婚約者です。立場がありますし、逃げてもすぐに捕まってしまいます」
ラドルディア・レイ・ローリック? ああ。さっきの変な奴か。
「その人ってあの偉そうな王子様か」
「ふふ。はい、その偉そうな王子です」
「彼に追われているの?」
「ええ。」
彼女は寂しげに目を伏せた。
「それならいい場所があるよ。」
さすがの王子でも、ダンジョンの中までは追ってこないだろう。
「いい場所?」
「うん。私が経営している宿に来るのはどう?」
「宿? そんなの、すぐに見つかってしまいます」
「大丈夫だよ。絶対に大丈夫だから」
「……本当ですか?」
「うん。場所はこの紙に書いておくね。もし、城の外に逃げようと思ったらこれを頼りに行くといいよ」
私は机のうえに置いてあった羽ペンでダンジョンの位置を記す。
「分かりました。本当に、ありがとうございます。おかげで、元気が出ました。」
「それなら良かった。」
少し話しただけだが、それで彼女が元気になってくれたのなら嬉しい。
「じゃあ、私はもう行くね。あ、そういえば、名前なんだったっけ?」
「私ですか?クローネ……いえ、クローナです。」
「クローナお姉ちゃん」
私がそういうと、クローナは目を輝かせた。
「はい。なんですか、 ミロウ?」
「またいつか、会えるといいね」
「はい!」
クローナは満面の笑みで頷いた。
次に向かうのは、王族のいる場所。
いざ、白竜を探しに行こう!




