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竜神国の城の中

「お姉ちゃん……」

 馬車にゆっくり揺らされながら、昔のことを思い出す。


 私のたった一人の、大事なお姉ちゃん。


 人と話すのが苦手な私は、王族なのに舞踏会の時はいつも隅っこにいた。


 そんなとき、いつもお姉ちゃんが声をかけてくれた。


『しっかりしなさいよね。私の妹なんだから』


 ちょっぴり口が悪いけど、本当は優しくて。


 そんな不器用なところが大好きだった。


 自慢の、お姉ちゃん。


 お姉ちゃんには幸せになってほしい。


 そのためだったら、なんでもする。


 ぎゅっと手に力を籠める。


 いつの間にか、震えているのが分かった。


 竜神国の王子は、性格が悪くて使用人や召使いに暴力を振るっているらしい。

 暴君で有名な人だ。


(でも、お姉ちゃんのためだから。私が妹のクローナだってこと、バレないようにしないと)


 馬車に乗ってしばらくして、竜神国のお城へとたどり着いた。


 門番の人に王族用のコインを渡したら中に入れてもらえた。

 私が今まで住んでいたウォードライト帝国のお城は派手でピカピカしていたけれど、こっちのお城は外装が真っ白で美しく、内装は神秘的な感じでキラキラしていた。


 城の中に入ると、使用人さんがたくさん迎えてくれた。


(屋敷の人たちは……歓迎してくれている?)


 ひとまず胸を撫で下ろす。


(怯えちゃだめだ。お姉ちゃんみたいに堂々としていないと)


 スカートの端を握る手に力を込めて緊張を押さえていると螺旋階段の上から、きれいな服を着た人が下りてくるのが見えた。


「こんにちは。クローネ王女。私はラドルディア家――延いては我が竜神国の次期当主である『ラドルディア・レイ・ローリック』です。ロークとお呼びください。王女様?」


「ええ。お初にお目にかかります。ローリック王子。お会いできて光栄です」


 お辞儀をして、小さく頭を下げる。

 久しぶりに人と話すから、緊張で変な声が出そうになるのを必死にこらえる。


 大丈夫。大丈夫。頑張ろう。

 お姉ちゃんのためなら、なんでもするって決めたのだから。


 そう考えていると、彼は探るような視線でこっちを見ていた。


(もしかして、私が妹だってことがばれてる?)


 見た目はそっくりだ。判別のつけようがない。そう思っていたけれど、それだけでは判断できない別の判断材料があったのだろうか。

「どうなされましたか? ローリック皇子?」

 私はさりげなく探りを入れてみた。


「失礼。顔を上げてください。」


 その言葉に、ビクッとする。


 怖い。


 人と目を合わせるのが怖い。


 私は姉以外と顔を合わせたことがないのだ。


 それでも、お姉ちゃんのためなら……



 私は恐る恐る顔を上げる。


 真っ白な髪に、金色の目。


 私と同じ年ごとの女の子なら夢中になってしまっただろう。

 でも、私には怖いという感想しか浮かばなかった。


 探るような瞳が怖い。

 まるで見透かされているようで怖い。


 堂々と、堂々としていないと。


 しばらくして、やっと用意された自室の中に入れてもらえた。


 私はソファーに座り込む。


 頭がくらくらして、今にも倒れそうだった。





 ◇◇◇





 賄賂を渡して城の中に入った私は、なんか豪華な部屋に入れられた。


「あ~。疲れた。足が休まる~。」

 やっぱり異世界なだけあって、部屋の内装は変わっていた。


 地面はところどころ宝石をちりばめたようにキラキラしていて、天井には光の玉みたいなのが飛んでいた。



「ちょっと休憩しよ」


 私は妙に豪華なベッドの上に寝転んだ。


 その時ちょうど、ドアを叩く音が聞こえてきた。

「失礼します。入ってよろしいですか? クローナ様」


 クローナ様って誰? と思ったが、そういえばそういう設(・)定(・)だと思い出す。


「はい。いいですよ!」


 すると、部屋の中にキラキラした白い髪の人が入ってきた。


「お初にお目にかかります、クローナ嬢。私はラドルディア・レイ・ローリックです。お見知りおきを」


「うん。こんにちは。」

 私はベッドの上に座ったまま返事をする。


 この人は一体誰だろうか。

 首を傾げていると、彼は訝しそうに眉を顰めた。


「失礼。ご挨拶はまだですか?」


 挨拶? たった今した気がするけど……

 再び首を傾げると、今度は不快そうな顔をした。


「なるほど。今分かりました。あなたは、クローナ嬢ではございませんね。」


(はにゃ?)

 私はさらに首を傾げた。


(いや、そういう設定じゃなかったっけ)

 だが、彼はそんなことを気にも留めないというようにペラペラ話し始める。


「私は不思議に思っていたのですよ。クローネ嬢は傲慢で贅沢が好きな王女と聞かされていました。だが、彼女はとてもそんな風には見えなかった。つまり、彼女はクローネ王女ではない。……違いますか?」


 ん? なんのことを話しているんだろう。

 よく分からず首を傾げている私を見て何かを勘違いしたのか、彼は笑みを濃くして仰々しく手を開いて指をこっちに向けて来た。


「それならクローネ嬢は誰か。……あなたですよ。クローナ嬢。――あなたは傲慢で、贅沢が好きでしょう? その服、有名な商店の物ではないですか。彼女の質素な服とは大違いです。そこまでして私と婚約を結びたかったのですか? ふふっ、愚かですね。」


 わざわざそんなこと、注意される筋合いはないと思うのだが……

 少し困惑している私を尻目に、彼は話を続ける。


「ここからは私の推測ですが、恐らくあなたは婚約話が立ち上がった時に、妹のクローナ嬢に押し付けてしまえばいいと思ったのでしょう。あなたみたいな傲慢な人間がやりそうなことです。」


 うん。長い長い。いつ終わるんだろう。この話。

 イライラしてきた。


「そして、なぜあなたが今更のこのこ竜神国までやってきたかと言えば、今更私との婚約を逃すのが惜しくなったのでしょう?」


 どういうこっちゃ。

 話を聞くのがいい加減面倒になって来た。そろそろ部屋を追い出してもいいだろうかと考え始めた時、聞き覚えのないワードが聞こえて来た。


「実の妹をそのように虐げるなんて、心は痛まなかったんですか? クローネ嬢。よってあなたを、断罪し、竜神様の生贄にいたします。」


「竜神様の生贄?」


「ええ。伝説の白竜様のいらっしゃる谷にあなたを突き落とします」


(えっ! 白竜⁉ 私がちょうど食べたかったやつだよね。やったぁ!!)

 その言葉に、私のイライラが一瞬で霧散した。


「ふふ。今更泣いて惜しんでも知りません。あなたには地獄の苦しみを味わってもらいます」


「じゃあ早く行こうか。」


「は?」


「早く竜のところへ行こう!」


「は? 待ちなさい。その前に、私に泣いて詫びたらどうですか? そんなに簡単に断罪されてはつまらないでしょう。」


「なんで?」


「なぜって。その前にクローナ嬢に詫びてください。今まで虐げてきたのですから当たり前でしょう?それに……」


 疲れた。

 ずっとニコニコしていたが、さすがにそろそろそれも面倒になってきた。

 私は表情をなくす。


「……黙って」


「は……?」


 あまりにも話が長くて、私はだんだんイライラしてきた。

 長い。そして、つまらない。


 いつもは優しくて穏やかな私だが、ちょうどお腹の空きが限界に達してきたのでついつい怒ってしまう。


 少し魔力が漏れてしまったのか、彼は口から血を拭いてパタンと倒れた。


 やってしまった。死んでないだろうか。よく見ると、まだ口から血が滴っていた。


 死んだ人間は血を流さないらしいので、恐らく生きているのだろう。まあ正直どっちでもいいが。


 もしこ(・)れ(・)の魔力量が多かったら、吸収して空腹を満たしてもよかったかもしれないが、正直こんなしょぼい量の魔力を吸収しても、空腹の足しにもならない。



(早く竜を食べに行きたいなぁ)


 私は王族の方を探しに、部屋の外に出た。


 そこで、ありえない光景に茫然とする。


 城の誰もが……従者から使用人までもが地面に倒れている。



 あれ?なんで?


優しくて穏やか? 恐ろしくて不気味の間違えではないだろうか……

ガクガク((( ;゜Д゜)))ブルブル

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