危なかった……
あ、危なかった~。
フードを取られた瞬間、慌てて角を消したおかげでギリギリ見られることはなかった。
ば、ばれていないだろうか。……ばれてないよね?
私はドキドキしながら彼の顔を見る。
彼は私の顔を凝視していた。
うわぁ。ばれたかも。
「あの、どうしましたか?」
平常心を意識しながら、恐る恐る聞く。
「っ! いや。なんでもない。」
「な、なんでもないですか? よかったです。」
この反応は……もしかしたらばれたかもしれない。
「で、では。宿泊代をお支払いください。」
私はぎくしゃくしながら会計を済ませる。
「宿泊代?……ああ。分かった。」
すると彼は懐から恐ろしい量の金貨を出してくる。
「はぃ⁉」
私は思わず上ずった声を上げる。
私はこの世界のお金の単位を知らないが、これがすごい額になりそうなのはなんとなく分かる。
「こ、こんな額受け取れません……」
「いや。いい。受け取ってくれ。」
えっ!いいの。これ。遠慮なくもらってくよ。
私はほくほく顔で金貨を受け取る。
そこでふと思う。
(あ、これ。詐欺か何かなんじゃ?)
よく考えてみると、こんな怪しいことほかにない。
ただでお金を出してくるほど怪しいものはないのだ。
(まさか……あとでお金を返せとか言われてすごい値段で請求されるとかになるかも)
もしかしたらお金を返すために働かせられるかもしれない。
慌てて返そうとするが、彼は私を見ながらほほ笑むだけで動かない。
きっと私を働かせる算段を立てているに違いない。
私は部屋を案内して彼をそこに押し込み、お金は自分の部屋のベッドの下に隠す。
(絶対借金取りで稼いでるタイプの人だ。あまり近づきたくない。)
そう思った私は一晩しか泊まれないということを伝えて、彼を家に追い返すことにした。
帰り際に「また来る」と言っていたが、正直もう来ないでほしい。
次来たときは全力で追い返そうと思う。
私はそんな事を考えながらベッドの上でゆっくりと休む。
ふと金貨のことを思い出して、ベッドの下から金貨の入った袋を引っ張り出す。
中身を確認していると、中に変な金色の懐中時計が入っていた。
よく見ると、名前が刻んである。
『アンドリュー・ルールベルト』
アンドリュー?あの人の名前だろうか。
まあいいか。
いや~。変な人だった。
私は鼻歌を歌いながら歩く。
そして、いつか地上にでて人間として暮らす日を夢見て心を躍らせたのだった。
アンドリューさんは残念なことにしばらく出てきません。
しばらくしたらまた出てくるのでご安心を。