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悪役令息の務め  作者: 夏野 零音


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第五章-7-『旅立ち』


 おはようございます。ディラン伯爵家の三男、ヘンリーです。昨日はサイラス王国との祝賀パーティーで、僕もちょっとだけ参加したんだけど、ちょっと モヤモヤする事がありまして…。

 改めて よぉーく考えてみたんだけどさ、ジェーちゃはヘンリー(ぼく)が、お母様の妹の息子だから、つまり従兄弟だから 特別に大事にしてくれただけなんだよね。ほら、ジェーちゃって魔力暴走を良くしてて、孤独だったでしょ。ヘンリーのお母様は馬車事故で亡くなってるし、ヘンリーも大怪我したし、あの頃はヘンリーがディラン伯爵家に命を狙われてると勘違いしてたから、より心を砕いてくれてただけで、もし お母様も健在でディラン伯爵家で仲良くしてたら きっとヘンリーに見向きもしなかったかも知れない…。だから…なんて言うの?愛とか恋とかじゃなくて、純粋に ”家族愛” って括りなんじゃないかな…。

 それなのに僕は、与えられる優しさを受けとってるうちに、いつの間にかジェーちゃに『愛だの恋だの』な気持ちになっていたと言うか…だって!結婚するとか言ってたじゃん?! そんな事言われたら、「そういうこと」かなって思うじゃない?! だから、僕がそうやって勘違いしたとしても、それはジェーちゃのやり方が悪いと言うか、言い方が悪いと言うか……。一緒にいる時間が増えると 相手の事も分かるし、居心地良く感じるもんじゃない…オマケにジェーちゃっては見目麗しい上に、凄い強い魔法使いで、王子様で、凄く優しくて、心配性で…好きになる要素しか無くない?

 歴史書みたいな暴君だったら、皆から嫌われちゃうかもだけど、今はジェーちゃ『英雄』だし、なんなら『王太子に!』なんて言ってる人だって居るくらいだもん。あぁ、こんな四歳児を恋の沼に突き落とすなんて、なんて罪な男なんだ………!


「ヘンリー様、おはようございます!」

 シャーとカーテンを開けながらメイドのレイラがベッドで悶々としてる僕に声をかけてくれる。キラキラの日差しが差し込んでくるとモヤモヤしてたのがアホらしくなる。お日様って偉大だね!

 よいしょって上半身を起こすと、レイラが濡らした布を顔にあてて拭いてくれる。テオ兄様達は自分でタライに水を張って洗うんだけどね、僕はまだ子供だからね、こうして面倒をみて貰ってます。そして温かい紅茶を淹れてもらって ゆっくり目を覚まします。こーゆー習慣は昔からあったんだね、ノアの頃も、こうやってメイドに面倒見て貰ってたからさ。


 紅茶を飲んだらお着替えして 食堂で家族で朝食なんだけど、なんだかレイラがジッと僕を見つめてくるんだけど?

「れいら?」

「…ヘンリー様、本当に、今日、女神アレクシス様を探しに行かれるおつもりですか?」

 そうそう、祝賀パーティーに参加してたから ちょっと遅れちゃったけど、魔女たんとあれから連絡が取れないから また探しに行くつもりなんだよね!

「ん!」

 コクンと頷くとレイラのお顔にシワがよる。

「大変危険だと伺っております。それは、本当に、ヘンリー様が行かなくてはいけないのですか?」

 あぁ〜レイラも僕の心配をしてくれてるんだね!大好きだよ!…もしかして僕って、心配されると好きになっちゃうのかな?…イヤイヤ、そんなチョロい訳無いッ。むんッ。――まあ、そんな事は置いておいて、魔女たんと連絡取れるのは僕だけだから、やっぱり僕が行くのが一番良いと思うんだよね。

「ぁい!」

 レイラの目を見て コクンと頷くと、レイラの瞳が途端にウルウルし始めた。

「…でしたら、無理を承知でお願いしますが…私も連れて行って貰えないでしょうか?ある程度は戦闘も出来ますし、毒を無効化出来る祝福(ギフト)も持っております。何かしらお役にたてるのでは無いかと――」

 ええ〜!レイラ、僕と一緒に行きたいの?! どんな危険があるかないか分かんないけど…レイラに何かあったら大変だよ!

「めっ!」

 って慌てて顔を左右に振ると、レイラは「やっぱりダメですか…」としょんぼりしちゃった…。うう、ごめんね、レイラは凄く頼りになるんだけど、女の人だし危険な目に合わせたくないし…何しろ四歳児の僕じゃ、ちゃんと守れるかも分かんないし…だからごめんね?


「レイラ、抜け駆けかな?」

 その時部屋の扉が空いて義父(パパ)が現れた。

「おとしゃま…!」

 驚いて僕達が扉を振り返ると、義父(パパ)が腕を組んで立っていた。そしてウィンクしながら「何度もノックはしたんだがね…何やら話し込んでいるようだったから」って。

「申し訳ありません、伯爵様」

 レイラがお辞儀をすると義父(パパ)がゆっくりとこっちへ歩いて来た。

「気にするな、ずっとヘンリーと離れ離れだったのだから、君がそう言うのも分かるよ。この私ですら一緒に行きたいと思っているんだからな」

 レイラにそう言いながら、僕の頭を撫でてくれる。えへへ。そうなんだよね、皆、一緒に行きたいって言ってくれて、本当に有難い。でも僕くらいしか入れないからね、頑張るよ!そう思ってキリッとしたお顔を二人に向けたのに、何とも不安そうな顔をされた。なーぜ〜??


 

 ◇◇◇◇◇

 皆で仲良く朝食を摂った後、問題の大教会へと馬車に揺られながらやって来ました。なんと国王陛下もルーカス王子殿下も来てくれて、更にアシェル様まで来てくれたの。確かに魔女たんは『創世神』でもあるから、どこ行ったか分かんないのは心配だもんね。ピンチになってるかも知れないし…。でも、あれ?…なんだか ジェーちゃの姿が見えないんですけど?…まさか、あの王女様の見送りに…?! イヤイヤ、もうとっくにサイラス王国の人達は帰ったって、さっきルーカス王子殿下が言ってたし…じゃなきゃ、この場に国王陛下が居るわけないもんね…。だったら、なに? まさか二人で イチャイチャ――…


「ヘンリー!」

 僕がまたモヤモヤし始めたら、ジェーちゃが飛んで来た。いや、字のごとく、本当に空を飛んで来たの。そう言えば『飛行』はジェーちゃの新しい祝福(ギフト)だったね…。

「ジェームズ、どこへ行っていたんだ?部屋を見たら誰も居なくて 一瞬ヒヤリとしたよ」

 ルーカス王子殿下の問いかけにジェーちゃがペコリと頭を下げる。

義兄(あに)上、すみません、寄ってくださってたのですか。実はダニエルに『コレ』を借りに行っていました」

 そう言ってスラリと刀身を抜いて見せる。それは確かにダニエルくんが持ってた 刃に沢山呪文が刻まれた剣だった。

「ダニエルとは…お前と共に大魔人を討伐した子爵家の人間だったな。直に王女付きの護衛となる――」

「そうです」

 二人のやり取りにテオ兄様が口を挟む。

「それで何をするおつもりなんですか?」

 既に嫌な予感がしてるのか、テオ兄様の顔色が悪い。それを聞いてジェーちゃは怯むどころか「フッ」と笑って宣言した。


「何を、だと?知れた事よ。入口が小さいのなら広げれば良い!この剣と俺の魔力が有れば次元を切り裂くくらい、訳無いだろう!」

「…そりゃ…貴方が本気でやろうと思えば出来るかも知れませんが…、分かってますか?次元の入口は『神聖なる女神像』の足元なんですよ?」

「それがどうした?」

「ど!どうしたって――!」

 小首を傾げるジェーちゃに唖然とするテオ兄様。


「ジェームズ、そんな事をすれば女神像が壊れてしまうだろう。我が国は女神アレクシスの一神教だ。神聖なる女神像を傷つける行いは処罰の対象になる」

 いつものポーカーフェイスで国王陛下が仰る。ジェーちゃは「えっ」て顔してるし、テオ兄様は「ほら見た事か」って呆れてる。

「なるほど――、それなら皆で行けそうだね!」

 そんな空気の中、ルーカス王子殿下だけが ニッコリとそう言った。

「え…ちょっと…ルーカス…?」

 アシェル様がルーカス王子殿下の裾を摘んで声をかけてる。

「アシェル、確かに平次であれば処罰の対象かも知れない。でも陛下、女神像は既に傾き、ヒビが入っております。それも修繕予定ではありますが…」

 チラッと国王陛下を見るルーカス王子殿下。

「フン、なら 今ちょっと壊れたとしても、いずれ修繕されるなら大した問題では無い、と そう言いたいのかな?ルーカス王子殿下」

 アシェル様のお父様、アードルフ公爵が人の悪い笑みを浮かべる。

「ふふ、早急に出陣メンバーを選ぶ必要がありますね!」

 一番奥に控えていたティム兄様までそんな事を言うので、義父(パパ)はため息をつくしか無かった。


「お待ちください!まだ、次元の入口が広がった訳じゃないんですよ? 最悪、塞がってしまう可能性も――」

 テオ兄様が、皆 冷静になるように声をかけるけど、

「テオドール!この俺が失敗するとでも言いたいのか?」

 ムキになるジェーちゃ。

「そうは言ってません。何しろ前例の無い事です、それもやり直しが出来ぬ事です。慎重に進めた方が――」

 僕はまた、いつものテオ兄様とジェーちゃのポメラニアンケンカが始まるのかと思ったけど、国王陛下が口を開いたのでケンカは始まらなかった。


「確かに、これまでもこれからも未知の領域だ。だが、ジェームズが次元の入口を広げる事で、ヘンリー以外も通れるようになるなら、それが一番良いだろう。こんな幼子が背負っていい重責では無い。国王陛下(わたし)が行こう!」

 今度は皆で国王陛下を何とか引き留めようと、大変な目にあうのでした。



「我が炎よ、ここに現れ 我が意思に従え――」

 ジェーちゃが剣を構えながら詠唱を始めると真っ赤な魔法円が現れて、女神像は半分に割れてしまった…。力加減を間違えたのか、思ってたよりも石像が脆くなっていたのか、ちょっと気まずそうな顔でジェーちゃが振り返る。

「…無事に入口が広がったぞ…」

 もうもうと土埃が舞う中、壁際まで退避していた僕らは唖然とする。なんか凄い音がしたけど?

「…無事…って……」

 テオ兄様もいつものキレが良くない。僕を抱く腕に力がこもってて苦しい。ぐぇ。


 

 結局、僕と一緒に行くメンバーは、ジェーちゃ、テオ兄様、ティム兄様と騎士団の人二人の合計五人になった。国王陛下とルーカス王子殿下が行きたがってたけど、皆に止められて、そりゃこの国の王様と次期王様だもんね!危ない目には合わせられないって!

「いいかい、ヘンリー。何かあったらすぐ『言語通信』で言うんだよ?もし、応援が必要ならいつでも向かうからね!」

「あい!」

 テオ兄様に抱っこされたまま 僕がペコリと頭を下げると、ルーカス王子殿下は今度はテオ兄様にムスッとした瞳を向ける。

「…テオドール、この私を置いて行くなんて、君は誰の近衛騎士なのかな? 良いかい、くれぐれも無傷で帰って来るんだよ?」

「…王太子様を危険な目に合わせる訳には行きませんからね。分かっております、全員無事に帰還させます。」

 毅然としたテオ兄様のお顔を見て、ルーカス王子殿下は大袈裟にため息をつく。ジェーちゃも頑固だけど、テオ兄様も頑固だもんねぇ〜。


「ねぇ、やっぱり、私も一緒に行くべきなんじゃないかしら?回復魔法が使えるのよ?私は」

 アシェル様がソワソワしてる。アシェル様は一度中にはいちゃってるしね、このメンバーで行かせるのが心配みたい。ちょっと、その気持ちは分かる…。

「大丈夫です、僕は回復魔法は使えませんが、薬丸を沢山持って来ましたから!」

 ティム兄様が斜め掛けしたカバンをポンポンと叩く。そうなのだ、ティム兄様の薬丸はとーっても良く効く。もう僕は強化魔法(バフ)をかける事は出来ないから、薬丸本来の力しか出ないんだけど、ティム兄様がいっぱい改良してて、なかり進化してるんだって!何より、貴重な『聖女』であるアシェル様を危険な目に合わせる訳には行かないよね。アシェル様は次期王妃様なんだし!


 ルーカス王子殿下はしばらくここで待機してて、連絡が入り次第、次の手に移るらしい。騎士団の人もいっぱい居るし、助けを求めたらきっと直ぐに来てくれるだろう。僕達はリュックに食料と水を積み込んで、次元の入口へと足を踏み入れた。



 いざ――――――!!!

 

 

 

 

 

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