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「どうしても行くのか」

「行くわ、だってアーサーは王国にとって大切な人なのよ。私のせいで命が失われるなんてあってはならないもの」


 私がそう言うと、アデルは大きくため息をついた。


「お前はつくづく聖女としての精神が抜け切らないようだな。人のために自分を犠牲にすることは確かに美しいことかもしれない。だが、それで自分自身を疎かにしてどうする?自分を大切にできない人間の命と引き換えに助かった命はそれで喜ぶのか?」


 アデルに言われて胸が痛む。アーサーはきっと私の命と引き換えに死なずに済んだと知っても、きっと喜ばない。むしろ怒るかもしれない。それでも、私は行かなければいけないのだ。


「だとしても、私はやっぱり行くわ」


 私の瞳をじっと見つめて、アデルはふんと鼻で笑った。


「そう言うだろうことはわかっている。一緒に行くことはできないが、聖女のすぐそばまで送ってやろう。わざわざ馬を使って行けば道中ですぐに殺されるだろう。聖女はそれも狙いかもしれないしな」


 そう言ってアデルは手を開き空中にかざした。すると、床に突然光る魔法陣が浮かび上がる。すごい、もしかして転移魔法なのかしら。


「検討を祈る。生きてまた会えるといいな、エアリス」


 生きてまた会える、か。きっとそれは叶わないかもしれない。そう思ったら、自然と足が動いていた。私はそっとアデルの前に行って、アデルを抱きしめる。抱きしめた瞬間、アデルの体が一瞬こわばったのがわかる。


「今までありがとうアデル。あなたに拾われて、魔王軍の一員としてここで過ごせて私は幸せだったわ。あなたは魔王だけど、誰よりも強くて優しくて素敵な人よ。本当にありがとう」


 そう言ってアデルから離れると、私は光る魔法陣の上に立った。光が私をどんどん包み込んでいく。光越しに見えるアデルは、とても悲しげな顔をしているように見えた。






 光がだんだんと収まってくる。光とともに魔法陣が消えていった。目が慣れてきて周囲を見渡すと、先ほどまでいた魔王城の一室ではなく、王国にある王城の一室にいた。


「あら、もう来たの?早かったのね。なんだかんだ言って魔王もあなたのことさっさと追い出したかったんじゃない」


 愉快そうな声がして振り返ると、そこにはソファに座る聖女シリーと鎖と魔法の束で繋がれたボロボロになったアーサーの姿がある。


「アーサー!」


 思わず駆け寄ろうとすると、足元に火花が飛び散る。


「ちょっと、誰が勝手に動いていいなんて言った?大人しくしてなきゃダメじゃない。ねぇ?」


 そう言ってシリーはアーサーの繋がれた鎖を強引に引っ張り、グエッとアーサーの嗚咽が漏れた。


「アーサー!どうして、どうしてそこまで酷いことができるの?あなたの目的は一体何?異世界から転生してきたって言うけれど、聖女の力のギフトを持っているのだとしたらこの国をよりよく導くためにその力を使うのではないの?」


 私の言葉を聞きながら、シリーの顔はどんどん歪んでいく。


「この国をよりよく導くため?笑わせないでよ。つまらないあの世界からせっかく異世界に転生してきたのに、どうして自分を犠牲にして国に尽くさなければいけないの?これだから生粋の聖女ってやつは嫌いなのよね。偽善で、傲慢で、誰かのために尽くす自分に酔ってるだけの、愚かで浅はかな存在」


 ザシュッ!


「アアアアア!!!」


 いつの間にか片手に持った剣で、アーサーの肩をひと突きした!アーサーの悲鳴が部屋に響き渡る。アーサーの苦しむ姿を見ていられなくて、思わず目を瞑ってしまう。


「なんで目を瞑っているの〜?ダメじゃない、大切なお友達の苦しむ姿はちゃんと見てあげなきゃ。あなたのせいでこんなになっているのよ?」


 まだ刺さったままの剣をグリグリと押しつけるシリー。アーサーはあまりの苦痛に絶句している。気を失ってしまわないか心配になる。血も出ているし、このままでは本当に死んでしまう!


「お願い、アーサーを解放して!私は一人でここに来たわ!私を殺せば気が済むのでしょう?だったら早くアーサーを解放して、私を殺せばいいわ!」


 シリーは私を見て手を止めた。


「そうね、その減らず口、さっさと黙らせてしまいたいものね」


 そう言って、シリーは剣をアーサーの肩から抜いた。そして、次の瞬間、私の目に信じられない光景が映る。


 シリーはとびきりの笑顔を浮かべ、アーサーの胸を剣でひと突きした。




お読みいただきありがとうございます!

とんでもないところで12話が終わりましたが、ちゃんとハッピーエンドになります(なりますから!)。

更新は不定期になりますので、ブクマしてお待ちいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。



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