番外・元王子の独白
フランツの話です。フランツ嫌いな方は引き返して下さい<(_ _)>
完結から1年以上たっても変わらぬ読者様に感謝をこめて…
―――親愛なるエレナへ、君は今どうしていますか?
そこまで書いて手が止まる。ため息をついて机から離れて窓の外を眺める。
外は今日もいい天気だ
この国に来てから大分経つ。色々迷ったが彼女に手紙を書こうと思った…がいまいち良い文面が浮かばない。何と書けばよいのだろうか?
彼女と初めて会った時から今までを思い返してみる
彼女に初めて会ったのは夕暮れ時のアルデリア公の庭だった
帰り際庭の隅で泣いてる君を見て何故かその泣き顔が忘れられなかった……今思えば一目惚れというやつだったんだろう。気になってその後も何度か通いつめては色々話しかけたり理由を聞こうとした。最初は中々打ち解けてくれなかったけどある日を境に笑ったり君からも話をしてくれるようになってとても嬉しかったのを今でも覚えている。そのうちアルベルト達も加わってますます楽しくなった君もいっそう笑うようになった
…けど君が本当は僕の事を好きじゃないのは薄々気づいてた。だって君は僕がいくら「好きだ」「愛してる」と言っても「ありがとう、嬉しい」と返すだけで一度も「好きだ」と言ってくれなかった、婚約も決まった時は喜んでくれたけど式の日取りや衣装など全部僕や他人任せでどうでもいい感じだった…それでも嫌われてるようには見えなかったから希望を持っていた。きちんと夫婦になって一緒に過ごせばそのうち僕を見てくれるようになると
だけど公爵の悪事が発覚して父上に婚約破棄を言われた時僕は――諦めてしまった
父上から「大罪人の娘と王族を婚姻するわけにはいかない、逆らうなら王子の身分を剥奪し絶縁する。一庶民として好きに生きるといい」と言われて諦めてしまった。先の見えない片想いの為にすべてを捨てる勇気がどうしても持てなかった
だからずっと後でフローレンスの事を知った時羨ましいと思った。彼女は一切見返りを求めることなく恋人の為に自分自身さえも捨てた。彼女は今でも死んだ事になっておりアルベルトの話では彼女の友人達は今も彼女を止められなかった事を悔やんでいるらしい…彼女は生きていると伝えようかとも思ったがどこで漏れるか分からないからやめておけと言われた
婚約破棄の後僕は「2度も婚約破棄した見る目がない傷物王子」と嘲笑の的になり遠く離れた他国に婿入りすることになった。初めは異国で1人苦労することにさせられたけど落ち着いた頃エレナの様子が知りたくなりアルベルトに頼んで調べてもらった。その流れで彼女達の目的やその後を知ることになった
あぁ…君が本当に断罪したかったのは公爵と公爵家そのものだったんだね
アルベルトは君達のせいで僕が笑いものになった挙句1人異国に追いやられたと怒っていたが不思議と僕は恨む気にならなかった。利用されていたのは事実だけど4人で過ごした時間や君の笑顔までもが嘘だとは思えなかったから……僕は少しでも君の力になれていたんだろうか?アルベルトも公爵が君達にした仕打ちを知ってからは何も言わなくなった
結局僕が出来た事と言ったら彼女の復讐の手助けと破棄の後「婚約破棄の慰謝料」というこじつけで彼女の生活資金を出すことくらいだった…止められるかと思ったけど父上達は何も言わずかなりの金額を出してくれた。当時は父上達がエレナに慈悲を与えてくれたのだと思ったが実際は慰謝料という名目の手切れ金だったのだと今ならわかる
アルベルトもエレナには会っていないらしい会ってるのはフリッツぐらいだ、フリッツは騎士団長に嫌な顔をされてるそうだが気にせず通い詰めてるそうだ「彼らしい」とアルベルトが言った正直僕もそう思う
「どうやらフリッツはエレナの事が好きらしい」とアルベルトから聞いた時は本当に驚いた、僕はつくづく周りの事が見えてなかったんだなと思い知らされた
再び机に戻りペンをとる。今度はスラスラと書けた
内容を確認し問題がなかったので封筒に入れて封をする。宛名はアルベルト宛だ女性相手だと妻が機嫌を悪くする。アルベルトなら察してエレナに渡してくれるだろう
宛名を確認したところでメイドがやってきた
「失礼します。奥様が準備が整ったのでお呼びするようにと」
「あぁわかった、今行く」
僕は部屋を出て庭に向かう
庭では妻と娘が用意されたテーブルについて僕を待っていた
「遅いわよ!あなたが「私の焼いたクッキー食べたい」と言ったから焼いたのに」
「のに~」
娘が妻の真似をする。最近やたら大人の真似をしたがる
「ごめんごめん。手紙を書いていたらつい時間を忘れてしまった」
謝りながら席に着く
今日は僕の誕生日だ。初めてこの国で誕生日を迎えたとき彼女に「何が欲しい?」と聞かれてふとエレナが手焼きのクッキーを差し入れてくれたのを思い出し「君の手作りのクッキーが食べたい」と言ってからずっと続いてる習慣だ
初めて食べた時はエレナのクッキーとは似ても似つかぬ………いや正直に言おう、とても食べ物とは思えない物が出てきた。彼女は真っ赤になって「王女にクッキー焼かせるとかバカじゃないの!?」とか「人に作らせたんだから文句なんか受け付けないわよ!」とか悪態ついてたけど僕が食べ始めると青くなって「バカ!お腹壊すからやめなさいよ!」と止めに入った……もちろん完食したけど
食べ終わった後「正直に言え」と言われて感想を述べたら「来年こそは『美味しい』と言わせて見せるわ覚えてらっしゃい!」と言われたのは良い思い出だ
「何笑ってるのよ」
妻が僕を見て言う
「いや君が初めてクッキーを焼いてくれた時の事を思い出してね」
言いながら1つ取り食べる
彼女のクッキーは相変わらずエレナのクッキーとは似ても似つかないけど不思議とエレナのクッキーを食べた時と同じ気持ちになる
瞬間彼女が真っ赤になった
「わ、わ、忘れなさいよそんな昔の事!」
「嫌だよ忘れない、君との大切な思い出だからね」
そう言って笑い返すと彼女がクッションを投げてきた。最初は何て乱暴なんだろうと思ったけど今では彼女の照れ隠しだとわかるようになった
「おかあさま、おかおまっか~どうして~??」
娘が追い打ちをかける
「な、な、何でもないわよ!い、いいから早くお茶にしましょう冷めちゃうわ!」
どもる彼女が面白くて笑ってると睨んできた……おっとこれ以上はまずいかな
「そうだね。せっかくのお茶が冷めちゃったらもったいない」
笑いを収めると妻も気を取り直す
「それじゃあ改めて…お誕生日おめでとう」
「でとう~~」
「ありがとう」
微笑みながらカップを手に取る
(今日は良い日だ)
隣に妻と娘がいて一緒に笑っている、とても幸せだと感じる
空を見上げると青空に白い雲が浮かんでいた
僕の人生はあの雲のように流されたものだけどそれでも悠々と空を流れていく
そしてもう会う事のない彼女の事を考える
彼女は家族と幸せを失ってしまったけれど、またいつか彼女が愛する家族と幸せを得られるように―――
僕達の道は別れて遠く離れてしまったけれどこの空はずっと続いているから―――
どうか僕の願いと想いをこの空が君の元まで届けてくれるように
僕は今幸せだ―――
これで本当に完結です。ありがとうございました<(_ _)>