炎の王子と燃える距離!ですわ
「次は俺だな!!!」
「お、お手柔らかに・・・アレクサンダー様」
「アレクサンダーかなり激しく躍るから、シフォンちゃん気をつけてね」
「そんなことするかよ!ったく!」
一曲踊り終わると、見てるこっちが気持ちの良い笑みを浮かべながらアレクサンダーがやってきた。
メフィストの忠告にも、少し眉間に皺を寄せて文句を返していたが流石は王子の中では最年長で、根っからの兄気質のアレクサンダーはメフィストの煽りなんか気にしない様だ。
「何か変化あった?」
「簡単にグルッと回ってきたが、警備の数も報告された人数がちゃんと命令した場所にいるぜ。けどまだ離れとか控え室の方はまだだ。今ウィルとアンタークが手分けして探してる」
「わかった。中庭の方は?」
「あー、そっちもまだだ。悪いな」
「無駄に広いからね。じゃあねシフォンちゃん、アレクサンダー頼んだよ」
手短に報告を済ませたメフィストは、すぐさま私達の元を離れていってしまった。
王子として色んな人に挨拶したりする事もあるはずなのに。
「それにしてもシフォン。凄く似合ってるぞ、そのドレス」
「本当ですか?有難うございます!父より靴をプレゼントされまして、それに合わせましたの」
「まるで夜の女神だな」
「・・・そんな口説き文句をアレクサンダー様から言われるだなんて、思ってもみませんでしたわ」
私がそう照れ臭しで意地悪気に言えば、ピュアな女の子のように頬を染めた。
「わ、悪い!!!そんな下心とかは!!」
「分かっていますよ。アレクサンダー様もお素敵ですよ。特にそのブローチと装飾か凄くお似合いです」
燃え上がる炎のような赤毛をオールバックにしたアレクサンダーの顔はよく見える。
グリフィンのよう荒々しいながらも、決して曲がらぬ強い意志を閉じ込めた金色の瞳。
炎を操るアレクサンダーは、まるで炎の神と言っても過言ではないだろうな。
やっぱり顔が良い。
こんな顔のいい、しかも王子達に変わる変わるダンスを踊っていたら、私は確実に尻軽だと思われないだろうか。
他の令嬢達の目線が痛い・・・。
「よし、そろそろ新しい曲が始まるな。シフォン、アクアは何処にいるかわかるか?」
「えっと、確か聖女のルネ様と一緒に」
アクアとルネの方を見ると、アクアは相変わらず嫌そうな顔をしながら口を閉じている。
しかしルネはそんな事気にしていないのか、忙しなく口を動かしている。
その様子に、普段険悪気味のアレクサンダーも流石に同情したのか、苦笑いを零した。
「よくもまぁ、あんなに喋る事があるよな」
「ルネ様が異常だと思いますよ・・・もう20分以上経つのにずっとあぁして話題が尽きていないんです。アクア様はたまに相槌を打つ程度です」
「助けに行ってやりてぇが、あの聖女に警戒されずに会話が出来るのはアクアぐらいだし。何より仲が悪い俺が助けにいけば余計に煩わしくなる」
アレクサンダーは溜息を零しながら、熟慮しているようだった。
しかし、アクアの手助けの算段が出来る前に曲が終わってしまった。
「一先ず俺らの仕事はシフォン、お前を守る事だ。行くぞ」
「はい・・・」
アレクサンダーに手を引かれる形で私はダンスホールの真ん中へやってきた。
今から3回目のダンスを踊る事になる。
多分こうして踊れるのはこれで最後だ。
体力が、もう・・・。
結構踊るのって体力いるから・・・。
恐らく次来るのはウィルかアンタークた。
頼んで事情を説明すれば、少しだけ休憩させてくれるだろう。
少し弾む息を整えて、奏でられる音楽に合わせて足を動かす。
テンポ自体はゆっくりなワルツなのに、やはりヒールだし、ドレスもまぁまぁ重いのが私の体力をジョリジョリ削っていく。
乗馬もしていたし、他の御令嬢よりは確実に体力はあるはずなのに。
「シフォン大丈夫か?疲れたか?」
「少しだけ・・・でも大丈夫ですわ。でも流石に次は休ませて頂きたいです」
「そうしろ。次来るのは確かウィルのはずだから、サロンに行って休んでろ」
「サロン、ですか?」
「あぁ。椅子に座って話が出来る場所があったんだ。夜のお茶会みたいな雰囲気だったぞ」
父がオーダーメイドで作ってくれたお陰で、靴擦れなどは起こしていない。
しかしやはりヒールというバランスの取りにくい靴でずっと立って、踊るのは難しい。
何より足がズキズキという悲鳴を上げている。
このまま踊り続けたら確実に怪我をするし、何より次の日足がパンパンになってしまいそうだ。
「なんかこうしてシフォンと話すことなんてあんまりなかったから何だか新鮮だな」
「そう言われればそうでしたね」
「最後に会ったのは俺がシフォンの家に行った時か?急に兄離れするって言って、あの人凄いショック受けてたもんな」
「今でも兄離れは継続中ですわ」
「程々にな。家族は仲良くあるのが一番なんだから」
そういうと、アレクサンダーは微笑んだ。
相変わらずイケメンの笑顔は心に悪い。
遠目から見る分ならまだ良いが、目の前で自分に向けてそんな笑みを浮かべられたら、圧倒的に消滅する可能性がある。
思わず見惚れていると、疲労により既に限界を迎えた足がもつれる。
「あ」
「シフォン!」
体が傾き、バランスが崩れる。
重力に任せて、白い床に倒れていくのを感じる。
全てがゆっくりに見える。
しかし、その遅れた世界も背中に添えられた手と支えられた衝撃で終わりを告げた。
アレクサンダーの手でどうやら床とキスするような事件は免れたようだった。
「大丈夫か?シフォン」
「へ?」
アレクサンダーの声が凄い耳元で聞こえるような気がする。
恐る恐る声が聞こえた方に顔を向ければ、ほんの数センチ先にアレクサンダーの顔があった。
心臓が冷えていくのに対して、私の体は血が沸騰していく。
筋肉が固まっていき、足がまるで棒になったようで動かない。
「おーいシフォーン?」
「あ、あぁ!ご、ごめんなさい!!!」
アレクサンダーの心配そうな声でようやく私は我に帰る事が出来た。
肩を大袈裟に揺らして、足に力を入れてバランスを取る。
私がしっかりと立てるようになった事を確認したアレクサンダーは、私の手を引いてダンスホールから離れた。
「本当に大丈夫か?足とか痛めてないから?」
「はい、何とか。ご心配おかけでして本当に申し訳ありません」
「いいや、気にするな。俺もシフォンが疲れてた事知ってたのに無理やり踊らせちまったからな」
「ほんとほんと。シフォンが怪我したらアレクサンダーはボロボロになってたよ」
急な声にアレクサンダーと私は驚いて同時に振り向くた、そこには髪の毛と同じミントグリーン色のコートに身を包んだウィルの姿があった。
愛想のいい、蕩けるような笑みを浮かべている永久中立国グリスの王子様だ。
「ウィル・・・お前いつの間に」
「少し早めに来たんだよ。そしたら丁度シフォンがバランスを崩したところでね。アレクサンダーがちゃんと受け止めてなかったらビンタしてたね」
「お前のビンタ、ものすっっっっごく痛いから回避出来て良かったよ。それで、なんか進展あったか?」
「うーん・・・実は気になる事があって。一番奥にある、白百合の花を持った女神の彫刻が隣にある控え室にどうやら魔法が掛けられてるみたいで、入れなかった」
「・・・と言う事は防御魔法か?」
「それはまだ分からないけど、パッと見た感じかなら強力だった。今はアンタークが見張ってるはずだからアレクサンダー、行ってあげてくれる?君の方が戦闘は得意でしょ」
「おう任せとけ!ウィルも、シフォンの事頼んだぜ。疲れてるみたいだからサロンの方に連れて行ってくれ」
「了解。シフォンもそれで良い?」
「あ、はい!」
空気を読んで蚊帳の外にいた私だったが、どうやら怪しい部屋があるということは理解した。
そして今それをアンタークが見張っているという事を。
「でも大丈夫でしょうか。アクア様に何も言わず此処を出ても」
「僕がついていくから平気だよ。さぁ行こうか」
そうして私とウィルはダンスホールを後にした。




