第三十二幕 闇夜に浮かぶ恐怖の陰陽師…朧影烈堂現れる
事件の黒幕である霧島仁左衛門が謎の死を遂げ…再び再調査を行う事になった流ノ介たちは、黒紙の形代が事件の鍵と睨み…その容疑者として朧影一族の長・朧影烈堂を探す事にした。
しかし、朧影烈堂は神出鬼没の陰陽師であるが為に…その正体を知る者は誰一人居なかった。
それでも諦める事なく流ノ介たちは身辺調査を続けていくが、そこで思わぬ急展開を迎える事になろうとは流ノ介たちも知る由も無かった…。
「流ノ介様、その朧影烈堂なる陰陽師はいったい何者なのですか…。」
「朧影烈堂…かつて京の都で名を馳せた天才陰陽師と呼ばれた男。しかし、五年前にある事件を引き起こし…陰陽寮から追放されてしまったんだ。」
「五年前のある事件…。」
「流ノ介殿、それはいったいどんな事件だったのですか…。」
今を遡る事五年前…当時京の都で般若面を付けた盗賊団による連続殺人事件が横行し、死者は三十人以上にも及び…朝廷や役人たちは盗賊団の正体を暴こうと必死になっていた。
だが、盗賊団の正体が掴めぬまま…頭を悩ませていた時の帝は、当時陰陽寮に在籍していた朧影烈堂に白羽の矢を立たせ…盗賊団討伐命令を下したのである。
「よいか、烈堂…。既に承知しておるとは思うが、最近京の都で正体不明の盗賊団による事件が相次いでおる…。これまでに三十人以上の犠牲者が出ており、もはや八方塞がりの状態に陥っているのだ…。そこで、陰陽寮随一の天才陰陽師であるそなたに盗賊団討伐命令を下そうと思うておるのじゃ…。」
「帝様…。この朧影烈堂、京の都を脅かす盗賊団を必ずや討ち果たしてご覧に入れましょうぞ…。」
「但し、盗賊団を一人たりとも殺してはならぬ…。必ず生きたまま捕らえて来るのじゃぞ…。」
そしてその日の夜、烈堂はたった一人で五条大橋付近を探索して行くと…南西の方角から怪しい頭巾を纏った集団が烈堂の前に現れ、すかさず烈堂は灯籠の陰に隠れて通り過ぎるのを待っていた…。
「もしや…あれが噂に聞く盗賊団なのか。」
烈堂は怪しい頭巾を纏った集団の後を追いかけようとしたが…既に盗賊団の姿は何処にも無かった。
「しまった…いったい何処へ消えたと言うのだ。」
幾ら探しても盗賊団の姿は何処にも無く…四方八方手を尽くして盗賊団の追跡をするも、まるで雲を掴むような現実を突き付けられる衝撃を受けるが…それでも諦める訳にはいかず、更に追跡を再開していった。
そして遂に、盗賊団が潜伏していると思われる羅城門近くの古びた民家にたどり着いたのであった。
「やっと見つけたぞ…。奴等はこの民家に潜んでいるに違いない…。」烈堂は敵に見つからぬよう…ゆっくりと足音を立てずに近づいていき、息を殺しながら身を潜めて部屋を覗いて見た。
そこで烈堂が目にしたのは…盗賊団の首領が京の都を脅かす妖怪《百目童子》であり、烈堂の父親を殺害した張本人でもあるのだ。
「あ、あれは百目童子…。私の父を殺害した憎き仇が何故こんなところに…。」
朧影烈堂は自分の父親を殺害した百目童子が目の前にすると…あの時の恐怖が走馬灯の様に甦り、沸々と怒りが込み上がり理性を抑える事が出来ない状況に追い込まれていった。
「うぉぉぉ…。百目童子め、亡き父の仇…今こそこの場にて恨みを晴らす時が来た。我が術の力を思う存分味わうがいい…。」
烈堂は盗賊団が居る部屋へ突入し、あまりにも無謀とも云える戦法で敵である百目童子に戦い挑もうとしていた…。
「百目童子、我が父の仇…いざ尋常に勝負しろ。」
『誰かと思えば、朧影玄蕃の小倅か…。まさかこんな所で会うとは…皮肉な運命に導かれたとでも言うのか、悪魔の徒とでも言うのか…とにかく此処で貴様を親父同様殺してやろう。』
「そう簡単に殺られるものか…。京の都を恐怖に陥れた悪事の数々…この朧影烈堂が断じて許さぬ。」
『たった一人で我々盗賊団を討伐するなど笑止千万…。貴様みたいな若造には神罰を与えて返り討ちにしてくれようぞ。』
すると、盗賊団の首領である百目童子は妖術を駆使して烈堂に攻撃を仕掛けていくのだが…烈堂も得意の陰陽術で応戦し、熾烈な戦いが続いていた…。
「くっ、このままでは百目童子に殺されてしまうのか…。だが、最後まで諦める訳にはいかないんだ。」
そう言って、烈堂は自身が得意とする陰陽術《爆雷双竜陣》を発動させ…百目童子は元より手下の盗賊団を一掃させ、これで完全に任務を果たしたかに見えたが…しかし、百目童子だけはほぼ無傷の状態で烈堂の前に仁王立ちしながらギロリと睨み付けていった。
「そ、そんな…。あれだけ打撃を受けても無傷でいるなんて…。」
『馬鹿め…。その程度の術でこの百目童子を倒せるとでも思ったのか…。』
「くそっ、このまま引き下がる訳には参らぬ…。もう一度我が陰陽術にて貴様に引導を渡してやる。」
『無駄な事を…。お前の親父同様…地獄に落ちるがいい。』
百目童子は妖術を施して烈堂に仕掛けていくのだが、烈堂も負けじと反撃を開始し…両者一歩も引かない状態が続いた。
「これで終わりだっ、百目童子…。」
遂に烈堂は百目童子を見事討ち果たし…これで事件は解決したかに見えた。
『お、おのれ…。よくもこの百目童子を殺したな…。こうなったら、貴様の身体に取り憑き…子々孫々の代まで永遠の呪いを受けるがいい。』
すると百目童子は、自らの魂を漆黒の煙に変化させながら烈堂の身体を包み込み…遂に烈堂は悪鬼の心を持つ闇の陰陽師として京の都を暗躍する事となったのであった…。
『ふふふ…。実に愉快だ…まさしく心地よい闇が生まれようとしている。京の都を闇の世界に変え…新たなる時代が始まるのだ。』
その後烈堂は、盗賊団の死体を生き返らせ…恰かも盗賊団が生きているように見せ掛けて帝の前に差し出したのである。
「烈堂よ、よくぞ盗賊団を捕らえてくれた…。これで、京の都に平和が訪れる事間違いないのぅ…。」
だが、悪鬼の心を持つ烈堂は帝に対してとてつもなく恐ろしい事を口にするのであった…。
『帝様…そう世の中上手く平和が訪れるとは限りませんぞ。』
「ど、どう言う意味じゃ…烈堂。お主が何を言っているのか分かっておるのか…。」
『分かっていないのは帝様で御座いますぞ…。既に京の都は闇の時代を迎えようとしておるのですぞ。』
「烈堂よ、お主いったい何があったのじゃ…。」
『別に何も変わった事など御座いませんよ…。ただ、此処に捕らえた盗賊団は…既に死んでいるので御座いますよ。』
「し、死んでいるじゃと…。では、お主は盗賊団を生きたまま捕らえず…その場で殺したとでも申すのか。陰陽師と言う神聖なる役職でありながら罪の無い人間を殺してもよいと言うのか…。」
『ええ…。何故ならば、この朧影烈堂…本日より闇の陰陽師として京の都を支配し、魔界都市を一夜にして築き上げてご覧に入れましょうぞ。』
すると烈堂は、印を結んで呪文を唱え…帝の居る京都御所を中心に半径15km範囲で地獄に潜んでいた魑魅魍魎の妖怪たちが現れ…想像を遥かに超える地獄絵図が繰り広げられようとしていた。
烈堂の卑劣な行為に業を煮やした帝は…朧影烈堂を陰陽寮からの追放命令を下していったのである。
それ以来…京の都に蔓延った魑魅魍魎の妖怪は多くの陰陽師によって撃退され、再び京の都に平和が訪れようとしていた。その後朧影烈堂の姿を見た者は誰一人無く、五年の歳月が流れようとしており…京の都の人々の記憶から消えていったのであった…。
「そんな事があったとは全然知りませんでした…。」
「朧影烈堂…とてつもなく恐ろしい陰陽師だったのですね。」
「流ノ介様、その後朧影烈堂は何処へ消えたので御座いましょうか…。」
「分からない…。だが、あの祭壇があると言う事は…ついさっきまでこの道場に居たのは間違いなさそうだ。と、なれば…まだ朧影烈堂は近くに居る可能性が十分あるな。」
「では早速…朧影烈堂を探しに行きませんと、また新たな犠牲者が増えてしまいます。」
しかし、流ノ介は既に朧影烈堂は別の場所へ逃亡した可能性が濃厚だと推察するのである…。
「朧影烈堂はもう此処には居ない…。恐らく、何処か遠くへ逃亡を企てたに違いない…。」
「では、奴はいったい何処へ逃げたと言うのですか…。」
「それとも、既に朧影烈堂は死んでしまったのではないでしょうか…。」
「馬鹿な…。闇の陰陽師であるあの男が死ぬ訳ないだろう。これだけの大事件を起こして逃亡まで図っているんだから…必ず何処かに潜んでいるのは絶対に間違いない。」
「でも、どうやって闇の陰陽師を探すとでも言うのですか…。」
「その必要は無い…。直接本人に聞いて…真相を聞き出す他に手は無さそうだな。」
「どう言う事だ…。」
この時流ノ介は、晴明から授かった《霊冥召喚符》を使って直接呼び出そうと考えていた…。
「そ、その霊符は…。」
「これも、晴明様から授かった霊符で…こいつを使って朧影烈堂を此処へ呼び出すつもりだ。」
「流ノ介殿は、そんな事まで扱う事が出来るのですか…。」
「いや、実際に扱った事は無いけど…やり方は晴明様から直々に教わっているから心配ないよ。」
「そ、そうで御座いますか…。晴明殿は先々の事まで考えていらっしゃっていたとは…さすがは稀代の陰陽師と呼ばれている御方。」
「それなれば、早速朧影烈堂をこの場に呼び出して下さいませ…。」
「先に言っておくけど、どんな事があっても決して驚いてはいけない…。相手が闇の陰陽師であろうと…毅然とした態度で戦い挑まねばこちらが殺られてしまう可能性が高いでしょう。その時は、私たちの力だけで何とかこの困難を乗り越えていきましょう…。」
早速流ノ介は、霊冥召喚符に呪文を唱え…直接朧影烈堂を呼び出して直接対決へと持ち込もうとしていた。
「あの世とこの世を繋ぐ冥界の門を守りし神よ…我が命令に従い、闇の陰陽師・朧影烈堂を我等の前に導きたまえ…。」
流ノ介が呪文を唱え終えると…突如空が晦冥〔真っ暗な闇になる事。辺りが暗くなる事。〕になり、空全体に雷鳴が轟き…しばらくしてその雷鳴が地面に直撃しながら爆音が鳴り響き、それと同時に白煙の中から闇の陰陽師・朧影烈堂が姿を現したのであった…。
「お主が、闇の陰陽師・朧影烈堂なのか…。」
『如何にも…。我が名は朧影烈堂…史上最強の陰陽師なり。』
「一つ訊ねたい事がある…。虎狼館に置いてあった祭壇は、そなたが何らかの術を施して薬種問屋・霧島仁左衛門を殺害せし事…よもや身に覚えがあろう。」
『さて、何の事やらさっぱり分からぬのう…。』
「惚けるのもいい加減にしやがれ…。貴様があの祭壇の前で術を施し、口封じの為に霧島仁左衛門をその場で亡き者にしようと殺したんじゃないのか…。」
『馬鹿な事を申す輩共だな…。何処にその様な証拠があると言うのだ。もし、その証拠があると言うのであれば…今すぐ此処で証明して見せるがいい。』
「流ノ介殿…奴は証拠を見せろと言っておりますが、どうなさいましょうか。」
「このままでは奴の思うツボに御座います…。流ノ介様、一刻も早く証拠を奴に見せませんと…。」
「流ノ介様…。」
しかし、流ノ介は既に証拠の品である〔極楽水仙〕を持っており…朧影烈堂の前に差し出し、烈堂を窮地に追い込ませようとするのであった。
「朧影烈堂…残念だがこっちには決定的な証拠を持っているんだ。」
『ほほう…その証拠とはいったい何なのか、この場にて見せてもらおうか。』
「証拠は…この極楽水仙の花びらさ。貴様が術を施す際に…この極楽水仙を使って毒薬を処方し、南蛮舶来の妙薬と称して霧島仁左衛門に飲ませ…毒殺させた事は既に明白であるぞ。」
『ば、馬鹿な…。たったそれだけの証拠でこの朧影烈堂が毒殺させた証拠にはならぬぞ…。』
「ふっ…まだ証拠はこれだけではないぞ。霧島仁左衛門の口に付着していた極楽水仙の粉末が微量ではあるが採取する事が出来た。たったこれだけの量で約50人分の致死量に相当する恐ろしい劇薬だ…。これだけ証拠が揃えば文句は無いだろう。潔く罪を認めたらどうなんだ…朧影烈堂。」
『其処まで見抜いていたとは…お前たちはただの輩では無いな。我の秘密を知られたからには、もはや生きて返す事すら許されぬ…。潔く我が術の餌食となるがいい。』
遂に事件の確信に迫った流ノ介たちは、烈堂の悪事を全て暴露していく中…最後まで悪あがきをする烈堂は流ノ介たちに刃を向けようとしていたが、果たして流ノ介たちは朧影烈堂に勝つ事が出来るのだろうか…。
果たして、流ノ介たちの運命や如何に…。
第三十三幕に続く…。




