第十六幕 暴かれた真実!事件の裏に隠された盗賊集団の秘密
晴明たちの前に現れた巨大な化け蜘蛛を相手に、苦戦を強いられてしまうのだが、太公望の機転で鬼門遁甲・八陣迷宮の術で一気に退治しようとするが…その巨体さ故に化け蜘蛛を相手に攻略するのは困難を窮めていた…。
しかし、それでも諦めない晴明たちは全ての霊力を高めて再び化け蜘蛛を相手に獅子奮迅の如く戦い挑んでいこうとしていた。
すると、太公望は陰陽仙術《太極霊空覇》を施し、晴明たちの霊力を高めて再び化け蜘蛛に攻撃を仕掛けていったのである。
「晴明様、諦めるのはまだ早いです…。」
「しかし、あの化け蜘蛛を倒すのはかなり難しいのでは…。」
「大丈夫です。私には取って置きの秘策があるので必ずあの化け蜘蛛を倒す事が出来ましょう…。」
「太公望殿、その秘策と言うのは…。」
「陰陽仙術・太極霊空覇と言う術を使って皆さんの霊力を増幅させて、一気にあの化け蜘蛛を退治すると言う方法です。しかし、それと同時にかなりの体力を消耗するので…相当な覚悟でない限り、皆さんの体力は完全に衰弱する可能性があります。」
「それなら心配いりません…。我々も太公望様を信じておりますので、是非その太極霊空覇の術を掛けてください。」
「無論、拙者も流ノ介殿と同じ…太公望殿を信じておりまするぞ。」
「晴明、一か八かやってみようじゃないか…。」
「晴明様、私も太公望様に全てを掛けていますので…どうか太公望様を信じてみては如何でしょうか。」
すると晴明は、仲間を信じると言う言葉に共感し…八人全員の力を一つにして化け蜘蛛を倒すとの決意をするのであった。
「太公望殿、貴殿の思い…この晴明しかと受け止めました。みんな、太公望殿を信じてもう一度集中してあの化け蜘蛛を倒すぞ…。」そして再び、晴明たちは太公望の術で霊力を増幅させていき…化け蜘蛛に目掛けて鬼門遁甲・八陣迷宮の術を繰り出していった。
『鬼門遁甲・八陣迷宮。』
晴明たちは全ての霊力を集中させながら化け蜘蛛に目掛けて鬼門遁甲・八陣迷宮を放ち、化け蜘蛛の周りには立体的に浮かび上がった八卦陣が現れ…ゆっくりと化け蜘蛛を徐々に締め付けながら消滅させていったのである。
「あの化け蜘蛛…いったい何処から現れたのでしょうか。」
「さあ…。何れにせよ、我々の命を狙っているのに変わりはない。」
「ところで、肝心の覆面集団の姿が見えませんが…それに、何だか我々の動きを読まれているのかも知れません。」
「動きを…読まれている。って、まさか…奴等は最初から俺たちを陥れる為に仕組まれた罠だって言うのか…。」
「気をつけろ…。どうやらあの小屋に、我々を狙っている敵が潜んでいるらしいぞ…。」
と、突然晴明たちの前で小屋が大爆発を起こし…その爆煙の中から謎の覆面集団がいきなり襲撃を開始していったのである。
「しまった…。」
「よりによって周りを取り囲まれるとはな…。」
「だが、油断するなよ。奴等の戦闘能力は差ほど大したことはないはずだ…。」
「ですが、奴等は相当手強い相手に御座います故…決して油断召されませぬように。」
「それは分かっている。奴等がどんな攻撃を仕掛けようと…絶対負ける訳にはいかないんだ。」
「晴明様、相手はかなりの手練れ者だと思われます…。こうなったら、手分けして攻撃した方が合理的かと…。」
数馬は纏めて攻撃するよりも、双方に分かれて攻撃した方がより合理的なのではと晴明に提案すると…晴明は数馬の意見を取り上げる形でそれぞれ攻撃していったのであった。
「なるほど…。確かにその方が逆に戦い易いかも知れないな…。」
「晴明殿、かなりの大人数ではありますが…奴等めどの様な戦術を繰り出すか予想もつきません。」
「兵馬殿、我々は少ない人数ではありますが…戦術にかけてはある程度心得ているつもりです。」
「晴明殿がそこまで考えていらしていたとは…この兵馬感服致しました。」
「晴明、お前がそんな考えをしていたなんて正直驚いたぞ…。」
「晴明様、私も兵馬様と導満様と同じ考えで御座います…。私たちの力は小さいですけど、みんなで力を合わせれば大きな力となるでしょう。」
「晴明、やっぱお前は凄いよな…。今までのお前とは随分成長したって感じだよな…。」
「兄弟子…。」
「晴明殿、あまりぐずぐずしている時間はありません…。急いでこの者たちを排除せねばなりません…。」
「ああ…。みんな、一気に攻めるぞ…。」
晴明たちは迫り来る覆面集団を蹴散らそうと、それぞれ手分けして攻撃をしていくのだが…覆面集団は晴明たちが見た事もない奇妙な戦術で苦戦を強いられようとしていた。
だが、晴明はこの戦術に見覚えがあった…。
実は晴明がまだ十代の頃にとある場所でこれに似た戦術を幾度となく遭遇し、何度戦っても打ち破る事すら出来なかったが…遂にその戦術を撃破する秘策を編みだし、難なく回避する事が出来たである。
『あの時と同じだ…。確かこの近くに、あの戦術を操る黒幕がいるはずだ。』
すかさず晴明は、式符を手に持って術を唱えながら一直線に投げ…見事命中するのと同時に覆面集団の頭が姿を現した。
「やはり貴様だったか…。されこうべ党・党首…天竺屋藤兵衛。」
『そう言うお前は、もしやあの時の小僧か…。まさか、こんな所で再会するとは思わなかったが…お主また我々の邪魔をするつもりではなかろうな。』
「藤兵衛、一つだけ聞きたい事がある…。貴様、遠山村の村長の娘を殺したのはお前なのか。」
『いったい何の事だ。』
「惚けるな…。貴様たちが事件当日に、現場から純金の簪を持ち去ったのを何人も目撃しているんだ…。」
『違う…。だが確かに純金の簪を持ち去ったのは認めるが、村長の娘を殺したなど全く身に覚えがない。』
「嘘じゃないだろうな。」
『この天竺屋藤兵衛、悪党共からお宝を奪う事はあるが…人を殺める物騒な事をする訳がない…。』
「本当か…。」
『ああ…。だが、純金の簪を持ち去ったのには理由があって、ある人物から依頼を受けたのだ…。』
「その人物とは…いったい誰だ。」
『上総屋太左衛門と言う肥前国〔現在の佐賀県と長崎県の一部〕の薬種問屋を営んでいる豪商だ…。』
「その上総屋太左衛門が、何故純金の簪を欲しがっているのか…その理由を知りたいんだ。」
『詳しい理由はよく分からないが、ある日突然上総屋が現れ…純金の簪を是非とも探して欲しいと頼まれたんだ。純金の簪なんて余程の事のない限り…入手するのは難しいと思われていたんだ。』
「だが、上総屋太左衛門より依頼を受けたお前たちは…遠山村の村長の娘が純金の簪を刺していた事に気付き、その場にて殺害して簪を奪ったんだな…。」
『だから、殺してなんかはいないと言っただろ。簪を奪う時には村長の娘はまだ生きていたけど…その後気になって引き返した時には既に死んでいたんだ。』
「既に死んでいた…。」
『まさかあんな事になるとは…さすがの俺でも肝を潰したぜ。』
「お前たち、この三つ首龍の絵に見覚えはないか。」
導満は三つ首龍の絵が描かれている紙切れを藤兵衛に見せると、藤兵衛はその三つ首龍の紋章は〔邪龍一族〕の紋章である事を導満に話したのである。
「邪龍一族と言えば、確か全国を股に掛けて金品を強奪する盗賊一味の事じゃないか…。」
「藤兵衛、その邪龍一族と言う盗賊一味に…何か心当たりはないのか。」
『そう言えば、つい先日にも邪龍一族による強盗事件が発生し…両替商の主人とその家族、それに数人の使用人が殺害されたと聞かされている。』
「何て卑劣な犯行なんだ…。人の命を平気で奪うなんて、邪龍一族…名前を聞いただけでも身震いしてきやがる。」
「だとしたら、邪龍一族の誰かが村長の娘を殺害し…恰かも土蜘蛛党の仕業に見せかけて態々(わざわざ)現場に証拠を残していく手口は、素人でも真似できない芸当だな。」
「ですが、邪龍一族の素性が分からなければ…今後の捜査に支障を来す可能性があります。晴明様、これからどう致しましょうか。」
「うぅ〜ん、奴等が現れないとなれば…こちらから罠を仕掛けるしか方法があるまい。」
「晴明、罠を仕掛けるったって…どうやって奴等を誘き寄せるんだよ。」
「それに、奴等は何処の何者かも分からないのに…探すのは無理なんじゃないかと思うんですけど。」
「晴明様、邪龍一族は神出鬼没の盗賊集団…。連中は恐らく姿を見せるとは思われませぬが、何しろ素性が分からないだけではなく…その正体すら不明と言う謎多き盗賊集団。油断召されますと逆にこちらが危ない状況に…。」
「太公望殿、その心配には及びません…。既に作戦の準備は整っておりますので…。」
「晴明様、その作戦とはいったい…。」
その作戦とは、晴明自身が天竺屋藤兵衛に変装して邪龍一族の正体を暴こうと言う作戦なのだが…実はこの時、晴明は邪龍一族の頭が上総屋太左衛門ではないかと憶測していったが、確たる証拠がない為自ら命を張って捜査しようと考えていたのだった。
「藤兵衛、邪龍一族が現れそうな場所とか分からないか…。」
『さっきも言った通り、奴等は神出鬼没の盗賊集団だ…。そう簡単に現れる連中じゃない。だが、奴等が現れるとしたら…恐らく上総屋に現れるはずだ。』
「そいつは好都合だ。上総屋へ行けば、何か手掛かりが掴めるかも知れないな…。藤兵衛、上総屋の別宅へ入るにはどうすればいいんだ。」
『晴明、こいつを持ってゆけ…。』
藤兵衛は晴明に《道中手形》と呼ばれる身分を明かす際に使われる手形を渡し、これを上総屋の手代に見せると中に入る事が出来ると言うのであった。
「この道中手形を見せれば、上総屋の中へ入れるんだな…。」
『ああ…。こいつさえ見せれば、すんなり通してくれるはずだ。だが、気をつけろよ。相手は名うての豪商だ…。もし正体がバレたらとんでもない目に遇うぞ。』
「藤兵衛、俺は決してドジを踏む様な事を真似はしない…。万が一正体がバレたとしても、すぐに次の一手を講じるつもりだ。」
「晴明様、上総屋へ潜入なさるのであれば…我々もお供させて下さい。」
しかし、晴明は単独で上総屋へ潜入すると断固として頑なに拒むが、導満たちはどうしても晴明と共に上総屋へ乗り込むと懇願していくと…しばらくして晴明は導満たちを藤兵衛の手下として連れていく事を提案していったのである。
「お前たちがそこまで言うのなら、天竺屋藤兵衛の手下として連れていく事にしよう…。但し、決して声を発してはならぬ…。何も喋らなければ上手く事が運ぶかも知れないからな。」
「晴明殿、我々も晴明殿と同じ…共に上総屋へ潜入して敵の正体を暴いて真相を解明致します。」「そうか…。だが、連れていくのは導満と流ノ介…それに兄弟子の四人で上総屋へ乗り込む。他のみんなは藤兵衛を連れて安全な場所へ隠れているんだ。」
「晴明様、どうかお気をつけてくださいませ…。」
「あまり無理をなさいませぬように…。」
「もし何か御座いましたら、すぐにでも駆けつける所存にございます…。」
「晴明殿、御武運をお祈り申し上げます…。」
「みんな、心配してくれてありがとう…。必ず事件の真相を解き明かし、亡くなった村長の娘の無念を晴らしてみせる…。」
すると、突然藤兵衛が懐から純金の簪を取り出して…それを晴明に渡していったのであった。
『晴明、大事な忘れ物だ…。上総屋へ行くには、こいつを持って行った方がいいだろう…。』
「忝ない、藤兵衛…。これさえあれば、上総屋がどんな反応を示すか…出方次第によっては奴が邪龍一族の頭目である可能性があるかも知れない。」
「晴明殿、我々は藤兵衛と共に安全な場所へ隠れています。何かありましたら、すぐに知らせて下さいませ…。」
「分かった…。お前たちも敵に見つからないよう、十分気をつけて身を隠せよ…。」
「心得ました…。」
「では、一刻も早く我々も上総屋へ参りましょう。」
「ああ…。」
遂に事件の真相に辿り着いた晴明たち四人は、藤兵衛から純金の簪を受け取り…敵の本陣である上総屋別宅へと乗り込もうとしていた。
しかし、藤兵衛の口から邪龍一族の存在が明らかになり…益々(ますます)混迷を窮めるのだが、果たして晴明たちは無事事件の核心に迫る事が出来るのであろうか…。
第十七幕に続く…。