第十五幕 純金の簪(かんざし)に隠された殺意、暗躍する謎の覆面集団の陰謀
恐山近くの村で起きた怪死事件の謎を追って探索していた晴明たちの前に、突如として現れた吸血妖怪彊屍が現れた事により事態は急展開を迎えていた。
だが、太公望の機転により彊屍軍団を全滅させる事に成功した晴明たちは…三つの事件に何らかの共通点があるのではと推理を開始した。
最初は何の関連性も無いと疑っていた晴明は、しばらくしてある共通点に辿り着いたのであった。
その謎を解明するべく、大木に打ち込まれた藁人形を徹底的に調べていくうちに一枚の呪符を発見し、そこには《三つ首龍》の絵と《呪殺》の文字が書かれていたのであった。
「やはりそうだったか…。こんなところに呪いの札が隠されていたとはな…。」
「晴明、その不気味な札はいったい何なんだ…。」
「こいつは《厭魅呪咒符》と言って、丑の刻参りをする際に藁人形と一緒に使用する札の事で、その威力は半端ないくらい絶大な効力を発揮する恐ろしい呪いの札だ…。」
「晴明、何故あの藁人形の中に呪いの札が入っていたんだよ…。」
導満は藁人形の中に呪いの札である厭魅呪咒符が入っていたのかを晴明に聞いてみると、晴明は厭魅呪咒符には相手を呪い殺すだけではなく…その呪符には妖怪の魔力が加わる事によって効力が発揮するのだと説明した。
しかし、厭魅呪咒符が何故藁人形に入っていたのかは不明だが…晴明の推測によると殺された娘に怨みを抱いた何者かが藁人形に厭魅呪咒符を入れ、その後娘は殺害された可能性があると導満たちに話すのであった…。
「だけど、あまりにも不自然な点が多すぎるんじゃないのか…。」
「確かに…。この厭魅呪咒符だけでは確たる証拠とは言えないが、導満の言う通り…不自然な点が在りすぎて何が何だか分からなくなってしまいそうだ。」
「晴明、一回休んだらどうだ…。相当疲れが堪っているみたいだぞ…。」
「そうですよ。今日の晴明様は少し疲れているみたいなので、しばらく休まれた方がよろしいかと…。」
「兄弟子、流ノ介…ありがとう。だが、全ての謎を解き明かさない限り…休む訳にはいかないんだ。」
晴明は旅の疲れで疲労感を漂わせていて相当無理をしていたのにも関わらず、一度決めたら最後までとことん貫き通すのが晴明の性格なのであった。
「晴明様、あとは私にお任せ下さいませんか。」
太公望は藁人形に仕組まれた厭魅呪咒符が何者の仕業なのか心当たりがあると言い…しばらくの間自分に任せて欲しいと懇願していった。
「太公望殿、その厭魅呪咒符を藁人形に仕組んだ人物をご存知なのですか…。」
「ええ…。あの藁人形に呪いの札である厭魅呪咒符を入れる事が出来る唯一の人物こそ…冥府十神の一人・闇の傀儡使い《幻隱導師》…。」
「そ、そんな馬鹿な事があるもんか…。」
「冥府十神が関わっているなんて信じられません。」
「でも、今度の事件と冥府十神…それに土蜘蛛党との繋がりがどうも分からないんだよな。」
「いや、どうやらその謎が解明出来そうだぞ。」
「晴明、謎が解けて来たのか…。」
「ああ…。全ての謎は…この呪いの札に書かれている三つ首龍の絵だ。」
「三つ首龍…。」
「晴明殿、その三つ首龍の絵って…まさか冥府十神の紋章の事では…。」
「その通りだ…。以前三つ首龍に関する書物を読んだ事があって、これに似た紋章をとある場所で見掛けたんだ。」
「その場所って何処なんだよ…。」
「確かあれは、京都御所より南南西にある《餓龍山》と言う山があって…その山頂にその絵とそっくりな彫刻を見た記憶があるんだ。」
「まさか、その彫刻に髑髏の紋様が施されているのでは…。」
正親は餓龍山にある三つ首龍の彫刻に髑髏の紋様が施されている事に疑念を抱いていた。
実は正親は、かつて餓龍山に冥府十神が封印されていた事を思い出し…その後崑崙山を襲撃して仙界の神や道士を滅ぼしたのではと推測するが、未だにその兆候は見られず…正親は違和感を覚えていた。
「兄弟子、何だか顔色が悪いみたいですけど…。」
「いや、何でもない…。」
「正親様、何か隠しているのではないのですか。」
「別に隠し事なんかしている訳じゃないんだが…どうもあの餓龍山には何か秘密がある様な気がしてならないんだ…。」
「その秘密って…まさか二十年前に起きたあの事件の事じゃあ…。」
「兄弟子、二十年前に起きた事件とは…。」
「晴明はたぶん知らないと思うけど、今から二十年前…餓龍山に封印されていた《鵺》が甦り、それ以来京の都は魔物に支配されていたんだ。しかし、ある一人の術師が鵺を退治した事によって京の都は救われたとされていたが…その裏には決して表沙汰に出来ない秘密が隠されているらしい…。」
「正親殿、その表沙汰に出来ない秘密とは…。」
「人類滅亡計画…。」
正親の衝撃的発言に晴明たちは困惑の表情を浮かべ、如何に冥府十神が恐ろしい存在なのか改めて思い知らされる事となる。
「まさか、そんな恐ろしい事が裏で行われていたとは…。」
「奴等は最初からそのつもりで人間界を襲撃しようと…。」
「婆沙羅将軍め、とんでもない事を考えていやがったとはな…。けど、冥府十神がいつ復活するか分からないが…まず先に土蜘蛛党の名を騙る輩の正体を暴き、殺された娘の無念を晴らそうじゃないか。」
「そうだな…。このままでは成仏しようにも成仏出来ないからな。何としてでも下手人を探しだし…事件の真相を解明しなければ…。導満、流ノ介、お前たち二人は周辺の聴き込みを頼む。」
「分かった…。」
「晴明様はこのあとどうなさるおつもりなのですか…。」
「私はもう少し調べておきたい事がある。どうやらこの三つ首龍の絵に因縁があるからな…。三つ首龍…想像するだけで身震いしてきそうだな。」
すると飛鳥は、不安な表情をしていた晴明の顔を見てすかさず晴明の左手を握りしめ…そっと寄り添う様な形で晴明を安心させていったのである。
「晴明様、もう怖がる事はありません…。例え晴明様が恐怖に怯えていても、私は晴明様をお守りします…。」
「飛鳥どの…。」
その翌日、事件は急展開を迎え…遂に謎の怪死事件の真相が明らかになろうとしていた。
事件当日、遠山村の村長の家に怪しげな覆面を被った謎の集団が訪れ…娘を渡すよう催促したが、村長はそれを断り命を狙われたのではとの事だった。
その後も村長の娘に嫌がらせを続け、遂に村長の娘は謎の覆面集団に殺害されたと導満は晴明に告げた。
「それで、その覆面集団は何処から現れたんだ。」
「分からない…。そいつ等がいったい何処の何者かは全く見当がつかないんだ…。」
「流ノ介、他に何か変わった事とかないのか…。」
「そう言えば、三日ほど前にも同じような事件が連続二件起きていて…何れも現場から簪が消えていたんです。」
「簪が消えただと…。」
「しかも、ただの簪ではなく…純金で出来た簪なのです。」
「純金の簪…。」
「その純金の簪って、そうそう手に入る代物じゃないだろ…。相当身分の高い公家の姫君や皇族の者でなければ持つ事すら許されないんじゃないのか…。」
「しかし待てよ、現場から簪が消えたって言う証言が得られてないんだ。その簪が何の目的で盗まれたのか…。」
「晴明様、その純金の簪が現場から盗まれたとなれば…益々(ますます)事件の真相が深まるばかりで捜査は難航を窮めると思われます…。」
「だが、村長の娘が殺された当日…純金の簪を刺していたとの目撃情報もあるみたいですし、その純金の簪が何の意味を示すのか未だに分かりません…。」
「晴明、消えた純金の簪に秘密があるって言っていたが…殺された村長の娘の頭に刺していた簪は本当に純金の簪だったのかな。」
「どう言う事だよ…。」
「だって、もし仮に純金の簪を刺していたのであれば…敵に見つかる前に安物の簪を刺すのが普通だろ。だけど、純金の簪を刺していたって事は…余程特別な事がない限り簪を刺すって有り得ないだろ。」
「確かに普通だったら安物の簪を刺して出掛けるのが女性としての身嗜みなのかも知れないけれど、純金の簪を刺して出掛けるなんてどう考えても矛盾な点が多すぎる。」
「でも、仮にその覆面集団が現場から純金の簪を持ち去ったとしたら…奴等はどうやって純金の簪を奪ったのかを徹底的に調べる必要があると思います。」
「晴明殿、こうなったら式神の術で覆面集団の居場所を探索して一味の一人を捕まえて白状させてみては如何でしょうか…。」
太公望は晴明に式神の術で覆面集団の居場所を探しだし…一味の一人を捕らえて白状させた方がよいのではと提案すると、晴明は太公望の提案に賛同してすぐさま式神を飛ばして探索を開始していったのである。
「晴明、本当に奴等を探す事が出来るのか…。」
「心配するな…。もうすぐ式神からの知らせが来るはずだ…。焦らずゆっくり待とうじゃないか。」
「晴明様、もし見つからなかったら…おそらく永久に事件は解決出来ないでしょう。そればかりか、また多くの犠牲者が増えてしまう可能性があります。」
「数馬殿、ご心配召されるな…。必ず事件の真相を解き明かし…謎の覆面集団の正体を暴いて見せる。」
その数分後、晴明が放った式神が戻り…謎の覆面集団が隠れているとされる根城を発見したとの連絡を受け、早速晴明たちは謎の覆面集団の隠れ家へと向かっていった。
しかしその場所は、山奥深い樹海に囲まれた絶界と呼ばれる禁断の地に謎の覆面集団の根城があった。
「此処が、奴等の根城なのか…。」
「まさか、こんな所に建てられていたとは…。」
「普段立ち入る事すら出来ない絶界に謎の覆面集団が居るとは正直不思議でなりません…。」
「でも、奴等がいったい何者なのか…その正体を暴く為にわざわざ来たのですから、最後まで見届けなければなりません。」
「しかし何だな、こんな不気味な所まで来て怖い思いするとは考えても見なかったぜ…。」
「兵馬殿、私も同じ考えです。何だか背筋がゾッとする様な嫌悪感がして…正直逃げ出したいくらいです。」
「数馬様、大丈夫に御座います…。何かあったら、この流ノ介がお守り致しますのでご安心を…。」
「忝ない、流ノ介殿…。」「晴明様、あまり深入りしては帰って敵に見つかってしまいます…。なるべく慎重に行動なされた方がよろしいかと…。」
「飛鳥どの、私は大丈夫です。如何なる時でも冷静に行動するよう心掛けていますので、どうか飛鳥どのは安心して私を信じて下さい…。」
「分かりました…。」
と、その時だった。
突然晴明たちの前に巨大な蜘蛛の妖怪が現れ、黒い煙を吐きながら襲い始めたが…すかさず晴明は術を唱えて反撃をするも、その巨体さ故に全く打撃を与える事すら敵わなかったのである。
「駄目だ…。これじゃあ倒すどころか、こっちが全滅してしまう可能性があるみたいだぞ…。」
「晴明、諦めるのはまだ早いぞ…。必ずどこかに弱点があるはずだ…。」
「だけど、あれだけの巨体でどうやって倒すと言うのですか…。」
「晴明様、一つだけ妙案がございます…。」
「太公望殿、その妙案とはいったい…。」
太公望が晴明に告げた妙案とは、八人全員で鬼門遁甲・八陣迷宮を術を唱え…蜘蛛の妖怪を一気に封印して倒すと言う方法だが、しかしそれには莫大な体力を消耗すると言うリスクを背負わなければならないと太公望は苦言を呈するのだった。
「晴明様、それに皆さん…。かなりの体力を消耗すると思いますが、あの蜘蛛の妖怪を退治するには皆さんの力が必要なのです。」
「太公望殿がそこまで申されるのであれば、この兵馬…太公望殿の力となってあの蜘蛛の妖怪を倒しまする。」
「私も兵馬殿と同じ、この数馬も太公望殿に助力致します。」
「俺も太公望殿の意見に賛成だぜ…。みんなが力を合わせて敵を倒すって事なんて滅多にないからな…。」
「太公望様のお役に立てるかどうか分かりませんが、この飛鳥も微力ではありますがお力添え致す所存に御座います…。」
「そうと決まれば、あの化け物を一気に片付けようぜ…。」
「ええ…。あまり時間がありませんので、急いで倒しましょう…。」
「晴明様、心の準備はよろしいですか…。」
「ああ…。みんな気を引き締めてあの蜘蛛の化け物を倒すぞ…。」
突如晴明たちの前に現れた巨大な化け蜘蛛を相手に、果たして彼らは無事この危機的状況を脱する事が出来るのであろうか…。
第十六幕に続く…。




