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死んでいる私と生きている彼 下

 死んでいる私と生きている彼 下


――『大丈夫?』


 私はその時、


 何も言えず、ただ、


血だらけで、砕けて、引き裂かれて、ぐちゃぐちゃとなってしまった彼に触れられもせず、おろおろするばかりでした。


 右腕は吹き飛び、足は最早足と呼べなくなっていて、左腕は先が千切れています。胴は半分なくなっていて、だらだらと赤い血――すでに変色していて、地面に染み込んでいる血が辺りを染めています。


 彼はとめどなく溢れる私の涙を拭おうと手を伸ばしましたが、触れられず、どぼどぼと口の中から溢れる血を咳き込みながら、


 私に『大丈夫?』と尋ねてから、自分の惨状を見て、


『あぁ、……ごめんな』


 悔しそうにそう呟いてなくなりました。


 

 私は――

 またも繰り返したのです。


『呪いなんて気にしない。俺はトメコが好きだ』


 そう言ってくれた彼と同じく――


 やはり、また殺したのです。


 いえ、違います。


 殺したのです。ではなく。そう、――

 最早私は、人を殺すあやかし――

 なのでしょう。

 殺すのです。そうやって。

 呪いは私の内側を蝕みます。私は呪いを受け入れ、さらなる犠牲者を生み出すべきなのです。そういう存在になるべきなのです。もう、ガンガン殺す。どんどん殺す。殺しちゃう。

男という男を殺す――

そういうあやかしになれ――


そういう呪いを――……?


 そこで、私は足元をふと見てしまったのです。


 其処には――


 うぞうぞと芋虫のように動く小指が其処にいました――

 見れば周囲にうにょうにょと蠢く飛び散った肉片――


「――ひっ!?」


 思わず悲鳴が漏れました。

 さらには飛び散った血痕――それと、飛び出した身体の破片がうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞと動いて、


――「ぃっ!?……嗚呼……っ!!」


 こんな事を言うのもなんですが……私は細かい虫がびっしりとかマジ無理です。苦手。

皮膚細胞のマクロ化とかちょー苦手。

 だから思わず息を呑んだわけです。ギモぢワルイ……。


 ぐちゃぐちゃとしていた肉片が蠢き、うぞうぞと自動車の下から這い出てきます。


「嗚っ……呼、嗚呼……ぁっ……嗚呼……」


 ……はっきり言って、気持ち悪いです。

 私はあまりの光景に逃げ出す事も忘れ、腰へたり込んでしまいました。


 そして蠢いていた肉片が、


「あー……いたぁ……」


 いやそんなリアクションでは済みませんよ!?


 顔面からはまだぽたぽたと血が垂れていますが、落ちた瞬間、また血がうぞうぞと登ってくるというもうなんて言うか特殊仕様……。

 其処には先ほどの彼が――


「いやー、……久しぶり。(にこっ)」

「いや(にこっ)じゃないです!死んでましたよね!?まだ血が垂れてますし!」

 私はおたおたとしながら、血を止めようと手を伸ばします。けれど、触れません。

 当然なのですが。

 何故か涙が溢れてきます。

 拭えない。

 彼の身体から落ちる血を止められません。

「あぁ?うん。だいぶ早くなったよね」

「何がですか!?」

「此処だけの話、一度死んだ時にひげもじゃの妖精と契約したからね」

「そして何の話ですかっ!?」ていうかそれは妖精なんですかっ!?

「いやだからさ俺だって俺。あの時の俺で、生まれ変わりとかじゃないよ?」

「……」


 そう言って、彼は、私を抱きしめます。


「いやーめちゃめちゃ待たせたね」

「……相変わらず、」

 その先は言葉に出来ませんでした。

「血痕とか指とかなんやかんやが犬やら烏やら狼やらに奪われていて、集めるのにすげー時間が掛かったんだよね。で、甦ってみれば、行く先々でトメコは全速力で逃げ出すし」

「アレは逃げたわけじゃ――」

「知ってる」


 そう言って、さらに私をきつく抱きしめます。

 私はこみ上げてくる何かを押しとどめる事が出来ません。


 ――で、


 いやまぁその後も結局呪いを解くためにやれ西に行ったり東に行ったりしたんですがね。まぁそう言った豆腐小僧、もとい豆腐美少年やパンツ妖怪、ひげもじゃ妖精(どっかの管理官としか思えないんですがね!)、妙に露出度の高い女神様、の話は置いといて。


「不便です」と私は漏らすわけです。

「なんて台詞!?」

「幽霊の時は髪型とか気にしなくて服装だって好きな形に出来たのに。お化粧一つとってもとっても面倒くさい」

「いや、そのコメントはどうだろうか!ていうかおい!焦げてる!焦げてるよ!」

「料理もめんどくさい。なんで食べないといけないんですかね?幽霊の時は食べなくても良かったのに」

「便利だね!とかなんとか言いながら嬉々としてお化粧してるのはどうだろうか!今日だって服買いに行くんだよね!?可愛いね!今日も!ていうかとりあえず俺作るよ!俺作っちゃうからね!お腹空いたから!」

「嫌です。お嫁さんは私です」

「めんどくさいぃいいいいいいい!」

「電子レンジって凄いですね」

「手抜き料理になりそうな予感が俺を襲ってくる!」

「リアル百鬼丸だった気分はどうでした?」

「ていうか此処でその伏線を回収するの!?投げっぱなしで良くない!?しかも戦ったわけじゃないからね!近づいていって、構成物を取り出すっていうどちらかと言えばピノキオさん的だから!しかも描写はもっとグロテスクだし!」

「それでその後はずっと私を探してたんですか?」

「何回目!?そうだよ!ずっと探してたよ!すぐに俺に似たヤツだと気付いたトメコが逃げだしていたからね!」

「その話はメッです!」

「可愛い!けど、……まぁそうだよな。こうなってるとは思わないものなぁ……」


 そう言って彼はこっちを見ます。

 その顔に浮かんだ表情が……うん、何て言うか、


「濡れます」

「具体的っ!」

「えぇい!据え膳は食わねば!」

「どんなノリ!?」

「肉体って素敵!」

「言ってる事が入れ替わり過ぎる!そして玉子焼き!」

「とりあえず一発!」

「いやまぁ嬉しいけどね!」


 そんなオチです。


 いやまぁ……オチてませんがね。


「快楽の道にはオチてます!」


 どやっ!(←私のどや顔)


「何処に向かっての台詞!?」


 下で突っ込みをいれる彼のほっぺを引っ張り、私は、口を彼の耳元へ近づけ、

 空気を揺らすべく息を吸い込み、


「ありがとっ」

 と囁きます。


 ――


 とまぁ美しい感じでまとまったところで、再開するわけですっ!


「いきますっ!」

「顔真っ赤じゃん!」

「いいんです!大丈夫!」

「その大丈夫の意味がわからない!」


 おしまい


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