死んでいる私と生きている彼 中
死んでいる私と生きている彼 中
唐突だった性で、
「はぁ……?」
と思わず反応してしまいました。
「で?」
と尋ねてきます。
私は慌てて『はっ』、と思い返し、とりあえず視線を向こう側へと移そうとしたら、
がっと肩を掴まれました。
「とりあえずこのラノベ貸すし」
条件の意味がわかりません……!
「いや、結構です……!!」
ぐぐぅ、と身体を捻ります。が、がっと掴まれたままびくともしません。
「まぁまぁいいじゃん」
完全に仕留められそうになってますよ!私ぃ!
以前もスマホでメイドちゃん(巨乳。けしからん!全くもってけしからんボディだ!)を脱がしてる変な仏法師に勝手に成仏させられそうになりましたからね!
だから私は未練で残ってるじゃないっていうのに!って言ってるのに、私の言葉に耳を貸さずに成仏させようとするからもう大変。呪いがちょーフィードバックですよ!服は破けるわ、頭は痛くなるわ、肝臓にブロー的な痛みが入るわ、幽霊なのに吐瀉物がフィードバックして現世に降臨しそうになるとか……、思わず、その仏法師を呪い殺そうかと思ったくらいですからね……思わず!思わずですよ!
でもまぁとにかく。
わたわたと身体を動かしますが、事態は好転せず。
「後楽園でも行かない?」
そんな事を言ってます!後楽園に行って何をしろと!?ていうか何ですか!?この状況!?私は由緒正しき幽霊なんです……!!
「俺幽霊見えるけどモテないんだよね」
「聞いてませんよ!」
ていうか多分その要素はモテに関係ないですよね!?
「友達も居ないし」
「関係ないですね!?」
「だからデートしよう」
「どんな口説き文句ですかっ!ていうか私幽霊ですよ!?」
「んー……最近の少女漫画の口説き方を参考にしたんだけど……」
「ていうか其処で友達云々はどうでもいいですよね!?しかもネタもとは少女漫画なんですかっ!?」
「やっぱり見た目がアレ?」
「いや見た目がどうとかではないですっ!」
「あ、良かった。そうそう変わってはないんだ?」
「何がですか!?」
「ていうか少女漫画って結構アレだよね。少年漫画に比べるとアダルトっていうか……具体的」
「言わなくていいです!なんか少女漫画が好き!な私が言われもなく恥ずかしくなります!」
「まぁそうだよね。それはそれとして。後楽園に着いたし、デートしよう」
「ていうか離れませんっ!?何ですこの状態!?なんか周囲二メートル(目測、体感)以上から先に進めませんよ!?結界!?結界なんですか!?無駄能力!マジ能力の無駄遣い!」
私はそのまま連行されていきます。幽権侵害(幽霊権利侵害)ですよ!おまわりさーん!おまわりさーん!?
少し、昔を思い出しました。
「良し、じゃあ、二人で田んぼ道を歩こう」
「……いや、ていうか背中にめちゃめちゃ農作物が背おられておりますが」
「まぁまぁいいじゃんいいじゃん。二人でぶらぶら」
とても軽そうには見えないんですがね。
でもまぁ仕事帰りに私を送ってくれる彼は優しかったです。
それが本当の意味での優しさなのかそれとも情なのかは別として。
少なくとも、私が感じた感情は、優しさでした。
感情というのはどこから来るのかわかりません。
何かを手に入れたいと望むのはごく普通の、当たり前の感情なのでしょう。
それが――
一方通行でなければ。
私が呪われたのは、私を手に入れようとした男性の告白を受け入れなかったからです。
どこぞの神話なみにひどい話だと思います。
欧州の初夜権も反吐が出て、それを顔に塗りたくってやりたくなる制度ですが。
そして、呪われた私は、
その場ですぐさま、
私が好きな彼以外に見えなくなってしまい――
今こうしてジェットコースターに乗っているわけですが。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
……嫌なら乗らなきゃいいのに。
さっきまで強引王子風だった彼はすでにノックアウト。
涙をその目の端に乗せながら私の身体に抱きついてます。
後ろのカップルが物凄く胡散臭い目で見ています。ちょー見てます。
確かに一人きりでなんか虚空に抱きついてがちで震えているなんて光景はある意味ホラー。むちゃくちゃホラー。ていうか私がもし同じ立場だったなら完全スルーです。絶対目を合わせない。
私……目を遭わせません!
気にはなるかもですが。
ちびるんじゃないかというくらい怖がった彼は震える膝のまま、
「いやー、……うん、全然怖くなかったよね」
涙目のままそんな事を言います。
ちょっとドキっとしました。
あの時の……
彼と被ったのです。
そのままぶらぶらと歩き、珈琲屋さんで何某かのラテ何某を頼み、彼は外にあるベンチに腰掛けます。風が出てきました。夏ですからね。台風でも来るのでしょうか?
「で、どう?」
「どう、とは?」
彼は私にラノベを貸してくれました。
普通に触れます。
あぁ、やばいです。感動です。
他人の目を気にしなくてもいいような結界を張ってくれてるそうです。
自分のペースで文字を追えるという感覚に私は感動しながら、彼の言葉に耳を傾けます。
「……ま、いいや」
「はぁ……?」
なんだか知らないですが、話は終わったようです。
両手を頭の後ろに回し、のびをしながら、彼の髪を風が撫でていきます。
私は少し、手を止め、そんな彼の横顔を凝視します。
「いやいや良い天気だよね」
「いや全くそうは見えませんが……?」
空は完全に曇り空になってきました。
先ほどまでは確かに良い天気でしたが。
何故か笑顔の彼。
しばらくそのままだらーんと過ごし、
先ほどのカップルが前を通りかかりました。手を握り合って、楽しそうです。
彼はそれを見ながら、
「じゃあ、ちょっと歩こうか」
そう呟きました。
「まぁいいですけど」ラノベとか少女漫画とかハードカバーを読ませてくれるなら。
ていうか離れられませんし。
何故かにやにや顔を彼。
「……なんです?」
「別に?」
何故か嬉しそうです。
その笑顔を見ると、……私も嬉しくなります。
別に条件を忘れたわけではありませんでした。
けれど、……
それでも。
というか、私は疲れ切っていたのかもしれません。
私は呪いを受け入れ、そうであるべき、という姿で有ることを受け入れてしまっていたのかも知れません。
結局――
道を歩き、どこへともなく、話しながら、私(幽霊)と彼は歩きます。
私には時間がありますし、彼がどこへ向かってるのかも定かではありません。
ていうか彼メンタルつよっ!……まぁそれは置いといて。
けれど、それが間違いだったのでしょう。
私は、自分の心が警告をあげるのを何度聞いた事でしょう。
でも、もういいや。
そういう自分も居たのです。
空は今はもう完全にどんよりと緞帳を降ろしたのかとでも思うくらい、暗くなりました。
まるで太陽がお隠れになったかの如く、です。そして――
彼は、
「そういやさ、名前聞いて良いかな?」
そう言って私の手を握りました。握って、しまいました。
私の心をはすでに傾いていて、
私の心は受け入れていて、というべきでしょうか?
そして、確かに私の心のもう一方は叫んでいたのです。
次の瞬間――
一陣の突風が吹き、
路上に止まっていた車を動かし、
車は私の身体をすり抜け、
壁に彼の身体を押しつけ、潰しました。
――ぐしゃっ
具体的な音だけが鮮明に聞こえます。
飛び散った肉片が目の前を横切り、血痕が飛沫となって私の身体を濡らすことなく、撒き散らされます。
――『また、繰り返したのです』
これが呪いです。
私への呪い。
私が好きになった人を殺す呪い。
あの男性が――
私に課した呪い。




