死んでいる私と生きている彼 上
死んでいる私と生きている彼 上
――『アンタの事を呪ってやる。今この場で。今すぐに!』
彼はそう言い放って、私を呪ったわけです。
今となっては、私が何故呪われて、こんな境遇に至ったのかさえ遠い昔の話で……
そもそも、本当にあった事なのか、
その事実さえ、曖昧としています。
その時の絵はまるでもやがかかっているようで……
鮮やかなのは精々がその時のその言葉くらいです。
けれども、現に私は幽霊で、
道を歩く皆さんに意識もされず、すかすかと身体を通り抜かれていきます。
相も変わらず彷徨っている、ということは、まだまだ呪われて死んでいるのでしょう。
だからその日も、私は普通に宙を漂い、
その日を過ごしていました。
私の呪いは、こうである、という事と、一つの条件を除いて、
何かある、という事はありません。
例えば、動く度に足の指が痛む、とか、
肝臓をえぐられるようなブローが打ち込まれるとか。
そういう事は全くありません。(ある条件を満たせば別ですが)
私がよくやる事は本を良く読む人を見つける、という事です。
幽霊って基本やる事がないのです。
幽霊同士で会話が出来る、わけもなく。
というか、私自身、同類に出会った事がありません。
まぁそもそも呪われているのですから、厳密に言うと、いわゆる幽霊と違うのかも知れません。
住んでる階層が違うというか。
話す周波数が違うとか。
そういう事なのでしょう。
けれど、ごくまれに。
私の事が見える人が居ます。
その誰かは、少しだけ私の事を見てくれます。
けれど、だからと言って、私から目を合わすことは出来ません。
気付かないふりをします。
私のもう一つの条件がある限り、
私は自分を許せないのです。
――『なのに。』
そのまた昔の記憶に比べれば少し前――
呪いの性で私は……
やめましょう。
そんな事より、現状報告です。
ふみふむ。
私は電車に乗り入れ、文庫本を取り出した彼の肩に腕を乗せて覗き込みます。
今日は火曜日で、気分的にラノベ寄りなので、普通にカバーをつけずに読み出した彼に決めました。
勿論、週刊少年ジャンプも、マガジンも、サンデー(りんねくんは割と好きです。サンデー売れてないらしいですが。勿体ない!)も読みます。りぼんにちゃちゃに、……まぁとにかく。週刊、月刊の漫画本の発売日は大体それを持ってる人についていきます。時間はひたすらありますからね。しかし、私という存在はいい加減です。普通にだれんとしてればその場にぽつねんと留まってしまうような気がしますが、電車の動きに合わせてちゃんと動いているのですから。ちなみにつり革に掴まることも出来ます。
けれど、感覚はありません。
最も重要な五感と言われる、触覚は失われ、そこには空虚な空間があるだけです。
けれども、不思議な事に掴まってる事を真似る事は出来るわけです。
まぁそんな事がわかったところで、出来た所でどうしようもないんですがね。
電車が駅に乗り入れ、私は半兵衛ちゃんが果たしてどうなるのかをめちゃめちゃ気にしながら、彼と一緒に降ります。ふんふん。妖弧の召使いも好きですが、やはりこれも良き物です。ていうか泣けます。……涙もろくなった気がしますが。待った甲斐がありました。
昼過ぎの微妙な時間帯だからなのか、その線は空いていて、一番前の車両に居たのは、親子連れが一組。
にも関わらず、彼は座りません。
そのまま壁際に寄りかかり、立ったままラノベを開きます。
一瞬、いぶかしく思った私ですが、
……まぁ、続きを見なきゃ、と丁度山場で気になっていた私は文庫本を覗き込み、
折りたたまれ、それを惜しく思い、視線が流れた所へ、
「生き返る気、ある?」
そう言って、彼は振り返り私の瞳を覗き込んできました。




