表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/76

突っ伏す私

 突っ伏す私


 二六の私と三二の私の間に横たわる海峡は深いようで浅い。

 などとどうでも良いことを、動き回るバーテンダーを見ながら思う。

 洒落た店じゃない。洒落てると言えば洒落てる。

 スーツは似合わないが。

 故に、一般的な洒落てるという感覚とはだいぶ離れているかも知れない。

 バーテンダーというよりかは、友達だ。

 友人に会いにいく感覚で私は此処に通ってる。

 彼の腕がコップを掴み、勢いよく初めのビールが飛び出す。慣れた所作で、しばらく置き、再度キレイに泡を盛りつける。私からすれば呑み込めば一緒なのだから、別にいいのにとも思うが、そこはそれ。気分的なモノだろう。


「お待たせ」


 華奢なイメージなのに、その腕はしっかりとして見える。注意深く見れば、お腹も引き締まっているのが見える。まぁ、引き締まってるのかただ痩せているのかと聞かれれば、多分、痩せているだけだと思う。失礼。それほど、私は男を知らない。三二なのに。


 ただ、そう。

 良い体をしている。

 健康であり、何かが表面を弾けてる身体を見るのはそれだけで楽しい。

 跳ねればいいのに。

 飛べばいいのに。

 そんな事を思い浮かべながら、つまみのポテトをつまむ。

 しまった。

 ケチャップをつけ忘れた。

 とは言え、咥えたモノを出してつけ直すというのもなんだか恥ずかしい。

 例え、カウンターで一人にせよ。

 そういうモノだ。


 二六の時と違って、三二になると、傷つくのがだいぶ怖くなくなる。

 性欲に身体が追いついたとでもいうのかな?

 コントロールする事に慣れた、というか、コツを掴んだというか。

 二一くらいの男の子の気持ちが少し分かる。

 だからといって、誰彼構わず、と思う程ではない。


 多分、充足してるからだろう。

 

 泡が弾ける。

 跳ねればいいのに。


 そんな事を考えながら私はビールを飲む。

 時々忘れるが、アルコールは胃に温かみをくれる。

 ほっと。

 一息つく。

 目が合う。

 可愛い笑顔だ。

 きゃーっと騒がれる男じゃない。……いや、騒がれるか。

 決してサービスが、テクニックが、というのではなく、もう少し厄介な感じ。

 

タイミングが良い。


 来て欲しい時に来てくれる。

 それは、こないな、と感じる一歩手前。

 欲しいな、と思った時に声をかけてくれる。

 ま、接待が好きなおじさまには人気がでないだろうけど。


 何せどちらかと言えば安居酒屋だ。

 でもま、私はこういう雰囲気が好きだ。

 まるで知らない他人とカウンターで相席し、乾杯する。

 そういう空間はあるようでない。

 それが彼のおかげなのは間違いがない。

 一人じゃ私はそういうことをしない。


「仕事は?」

「順調」

「そう言えば、彼氏は?」


 そんな話を交わす。

 寝たら楽しいだろう。多分だけど。

 彼氏も居るのに、と言う人も居るだろう。でもまぁ、妄想は自由だ。

 実際にやるわけじゃない。

 で、帰って彼と燃え上がるワケだ。

 我ながら……まったく。


 彼の手を思い出して。


「……偉い可愛い表情してるね」

「まぁ……ね」


 ビールを舐め取る。

 舌が熱を持つ。

 やれやれ。

 彼が通りかかる。

 個人用に注いだ鍋だ。

 私は彼に微笑む。


「へっ――ってあちっ」


 あっ、跳ねた。

 もったいない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ