第87章 残りたがらない者たち
夜の学園は、昼よりも正直だった。
灯りの落ちた回廊。
静まり返った寮。
誰にも見られていない時間帯にこそ、人は本音を漏らす。
「……やっぱり、そうだ」
リュシアは、低く息を吐いた。
エリアスの手紙を読んでから、
彼女は“消えた名簿”を見直すのをやめていた。
代わりに見ているのは——
**残っている生徒たちの“態度”**だった。
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翌日から、やり方を変えた。
カイオンは、授業後に何気なく声をかける。
「最近、勉強どう?」
それだけだ。
成績の話でも、事件の話でもない。
すると——
返ってくる反応に、はっきりとした差が出た。
「まあまあかな」
「次は頑張るよ」
そう答える生徒は、目が前を向いている。
だが。
「……別に」
「どうでもいい」
そう言う者は、
視線が、必ずどこか遠くを見ていた。
⸻
フェリクスは、より露骨な場所を選んだ。
ラウンジ。
人の多い、笑い声のある場所。
「将来、何したい?」
軽い調子で投げる問い。
冗談みたいな口調。
だが、答えは重い。
「……分からない」
「考えたこと、ない」
中には、笑いながらこう言う者もいた。
「ここ、楽だしね」
「言われた通りやってれば、怒られないし」
フェリクスは、その笑顔から目を逸らさなかった。
(……“選ばれたい”んじゃない)
(“考えなくて済みたい”んだ)
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リュシアは、授業の合間に質問を装って回った。
内容は、あえて抽象的に。
「この学問、どう思いますか?」
「難しいですか?」
返答は、二種類に分かれる。
「難しいけど、面白いです」
「分からないところがあって……」
——そして。
「正直、意味あります?」
「向いてない気がして」
その言葉の裏に、
**“ここに居続ける理由を失いかけている”**気配があった。
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三人は、夜に集まった。
いつもの場所。
誰にも聞かれない、静かな一角。
「……共通点がある」
カイオンが、淡々とまとめる。
「成績不振だけじゃない」
「“自分で決めたくない”って感覚だ」
フェリクスが、壁にもたれながら続ける。
「アデルの思想、残ってる」
「“選ばれることが救い”ってやつ」
リュシアは、ゆっくり頷いた。
「だから、消えるのは」
「連れ去られた人じゃない」
一拍、置く。
「——連れられてもいいと思った人です」
沈黙。
それは、恐怖ではなく、理解の沈黙だった。
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「止め方は?」
フェリクスが聞く。
リュシアは、はっきり答えた。
「“選別”を成立させない」
「残りたくない人を責めない」
「でも、“代わりに選んであげる”仕組みを壊す」
カイオンが、目を細める。
「つまり」
「ここに居てもいい理由を、見せる」
リュシアは、静かに言い切った。
「学園は、試験場じゃない」
「逃げ場でもない」
「——学ぶ場所だってことを」
窓の外では、夜風が木々を揺らしていた。
次に消える前に、
彼らは、間に合うだろうか。
静かな決意が、
三人の間に、確かに灯っていた。




