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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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第67章 最初の失敗しない尾行

フェリクスは、歩きながら横目で隣を見る。


——正直、驚いていた。


「……そんなに楽しい?」


小声で言うと、

アイリスは足取りを緩めることなく、にこっと笑った。


「うん」


即答だった。


フェリクスは、内心で苦笑する。


アイリスは、普段は静かな子だ。

いつも穏やかで、控えめで、

隣にいれば自然と空気が和らぐような存在。


それが今は——


目が、やけに生き生きしている。


(……そういえば)


ふと、思い出す。


以前、家で何気なくした雑談。

昔の戦争の話。

王族の影の護衛の話。

他国の諜報員がどうやって動いていたか、という与太話。


その時、

アイリスの目が異様に輝いていた。


(試しに聞いてみたら……)


「尾行とか、隠密とか、やってみたかった」


「ずっと」


そう言われて、

フェリクスは言葉に詰まったのだ。


「……遊びじゃないぞ」


そう言ったら、


「分かってる」


「だから、ちゃんとやる」


と返ってきた。


今、その“ちゃんと”が、目の前にある。


「距離、これでいい?」


「うん。視線は合わせない」


「笑って、普通の二人組に見せる」


完璧だ。


フェリクスは、内心でため息をつく。


(……協力者は、多い方がいい)


(危険なのは分かってる)


だからこそ——

全ては話していない。


アイリスには、こう説明した。


「アデルが、怪しい」


「危ないことをしてる」


「国を裏から引っ掻き回そうとしてる、

 悪の親分みたいな奴だ」


子供じみた説明だった。


だが、

アイリスは目を輝かせてこう言った。


「任せて」


(……あながち、嘘でもないか)


フェリクスは、苦笑する。


もちろん、このことは

カイオンとリュシアにも伝えてある。


“変わったが、頼れる協力者が一人増えた”と。



前方を歩くのは、アデル。


教授の助役として、

書類を抱え、穏やかな足取り。


いつも通り。

あまりにも、いつも通り。


アイリスが、ささやく。


「今、空気が少しだけ動いた」


「でも、こっちは見てない」


フェリクスは確信する。


(“見てない”んじゃない)


(“見えないようにしてる”)


(あるいは——

 見ないようにされてきた)


今日は違う。


失敗していない。


いや、

失敗に気づけている。



一方、図書館。


カイオンは、魔法書を何冊も積み上げていた。


精神魔法。

記憶操作。

精神介入。


だが、答えはすぐには出ない。


「……難しいな」


向かいに座る友人——

アレックスが、ページをめくりながら何気なく言う。


「なあ」


「精神系の魔法ってさ」


「使われた側だけじゃなくて、

 使った側にも影響出ること、あるらしいぞ」


カイオンが、顔を上げる。


「影響?」


「うん」


「人によってはさ」


「感情が鈍くなったり」

「判断が極端になったり」

「“自分は正しい”って思い込みが強くなったり」


何気ない言葉。


だが、

カイオンの中で、歯車が噛み合った。


(……ローデリク)


(順調すぎる成績)


(ぼんやりした態度)


(そして、アデル)


「……盲点だった」


カイオンは、静かに言った。


「ありがとう」


アレックスは、首を傾げる。


「何の話?」


「いや」


カイオンは立ち上がる。


「でも、かなり重要な話だ」



同じ頃。


リュシアは、授業の合間に人と話していた。


質問は、あくまで自然に。


「最近、演習どうですか?」


「アデルさん、補助に来てましたよね」


返ってくるのは、好意的な言葉ばかり。


教授からも。

学生からも。

助役仲間からも。


(……広い)


(想像以上に、好かれている)


だが、

一つだけ共通していた。


「最近、来なくなった人?」


「……いたような」


「でも、誰だったかは……」


誰も、“いなかった”とは言わない。


だが、

誰も、はっきりと思い出せない。


リュシアは、胸の奥が冷えるのを感じた。



夕方。


三方向の情報が、静かに集まる。


フェリクスが言う。


「尾行は、失敗してない」


アイリスが、誇らしげに頷く。


「でも、何もしてない“ふり”が上手い」


カイオンが続ける。


「精神介入魔法だ」


「しかも、使った側も使う側にも影響が出るタイプ」


リュシアは、静かにまとめる。


「だから、誰も“異常”だと断言できない」


沈黙。


だが、それは恐怖ではなかった。


「……やっと、形が見えたな」


フェリクスが言う。


アイリスは、小さく笑う。


「ね」


「本当に、スパイみたいでしょ?」


学園は、今日も平穏だった。


だがその裏で——

“正しさ”を装った歪みが、静かに進行している。


次に消えるのが誰か。


それは、まだ誰にも分からない。

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