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84.(最終話). そして、カロリナのオープニングも開かれた。(2)

歴史が深いラーコーツィ寮とセーチェー寮が学園に一番近い敷地を貰っていた。

それは領館というより巨大なお屋敷であった。

本館は当然のようにカロリナが使い、2番館は来年入学する分家トルン家のジャネタの為に空けてあった。

他の分家は3番館以降を使っており、分家ルブリン家のイェネーら4人は4番館を利用している。

本館と2番館のみダンスホールなど来客用の施設を備え、3番館以降は寮としての機能しかない。

世話役、料理、洗濯、掃除といった寮の管理をするスタッフは本館10人、その他の寮に各4人、総勢22人で館を運営していた。

(本年度は2番館に人はいない)

特に5番館は大型の領館であり、その特徴として個室が多く備えられている。

個室のいい所は従者を一人入室させる事ができる。

学園が用意した寮に入れなかった他の領の子息・令嬢がラーコーツィ家を頼って来てくる。

王族の子息・令嬢などが入館している。

本来ならカールやイグナーツも5番館に住むべきなのだが、何故かイェネー、クリシュトーフと一緒に4人部屋に入居していた。

一緒にカロリナに付き従い、ダンジョンでも一緒にレベル上げをしている。

今ではイェネーやクリシュトーフと一緒の方が気楽だそうだ。

因みに、4番館の従長はイェネーのルブリン家から派遣されている。


カロリナ付きの従者オルガは寮館長ではない。

なぜなら、父のラースローと兄のレヴィンがカロリナにお願いで、週の半分を自宅で過ごす事になっている。

オルガが寮館長になるとカロリナと一緒に帰り難く、それでは王都屋敷が困るらしい。

暴走するカロリナを止められる貴重な人材だからだ。

と言う訳で、何故かラーコーツィ領、王都屋敷、寮館で一番偉い領主代理、執事、寮館長がオルガに頭を下げて相談にくる。

どちらが偉いか判らない。

オルガはカロリナ付きの従長に過ぎない。


さて、2番館の主。

ジャネタはカロリナより1つ年下であり、可愛い妹としてカロリナのお気に入りの一人であった。

カロリナの予備として、王子の側室として入る為に教育がされており、失礼な話だがカロリナが子供を産まない場合は側室になる事が決まっている…………いた過去形だ。

状況が変わった。

最近はヴォワザン家の次期当主であるアンドラとの婚約が上がっている。

ジャネタ本人はアンドラとダンスを踊って以来、アンドラの甘いマスクに射とめられ、恋する乙女になっている。

まぁ、本人がどんなに望んでも上級貴族の令嬢は自分の望みで相手を決められない。


でも、ジャネタはがんばっているそうだ!


ラーコーツィ寮を出ると学園前が騒がしい。

先頭にヴォワザン伯爵家の馬車が止まり、2台開けて王家の馬車が2台も止まっている。

学園前で馬車が数珠繋(じゅずつな)ぎで並ぶ事などあり得ない。

トラブルだ。

入学式前に王子達に詰め寄られるのを避けて、余裕を持たせず寮を出たのが仇となった。

カロリナは足を止めた。


「エル、寮に一度戻るのは無理でしょうね!」

「不可能ではありませんが、講堂が開いてからの入場になります」

「下級貴族の後ろから入る事になるのね!」

「はい、お嬢様が些細な事を気になさらない性格なのは存じ上げておりますが、上級生や先生方はあまり良い心証を持たないと思われます」


式典の後から登場するのは下級貴族のようで美しくないらしい。

諦めるしかない。

カロリナを先頭に一団となって正門の方に歩いてゆく。


不思議に思うかもしれないが、特別な護衛は必要ない。

学園(貴族・魔法・騎士)と寮を囲う敷地は城壁で囲まれており、東正面に凱旋門、その脇に普段使いする東門、王城側に北門と3つの出入り口がある。

寮を含む学園の敷地はすでに学園内なのだ。


その貴族学園の正門の前で騒ぎが起こっており、人盛りが出来ていた。

南側にある魔法学園と騎士学園に行く生徒が通行できず、馬車道を迂回して走ってゆく姿が目に付いた。

ホント、迷惑な話だ。

そんな事を思っていると、ちらりとオリバー王子の顔が見えた。


「場所を考えて欲しいですわ」

「王子にそれを求めるのは無理かと思えます」

「俺はクリフ王子でまだ良かったと思う」

「あはっ、オリバー王子は猪突猛進で、クリフ王子は優柔不断だからな!」

「正義感の塊、猜疑心の塊」

唯我独尊(ゆいがどくそん)右顧左眄(うこさべん)

「お前ら、はっきり言えよ! 要するにどっちも馬鹿だから(うごぉ)」


クリシュトーフがイェネーの口を咄嗟に押さえた。

気持ちは判るが、他の生徒がいる所で口にする言葉でなかった。

クリシュトーフが「場所を考えろ!」と言うと、後ろの二人もうんうんと頷いている。

もう人壁で進めない。

そう思っていると、突然にオリバー王子がそう叫んだ。


『そう思わないか、カロリナ!』


カロリナの方に手を差し伸べると、人盛りが二つに分かれて視界がクリアーになってゆく。

急にふられても困ってしまう…………えっ!

カロリナの目が輝いた。


オリバー王子の前に黒髪の女の子が倒れており、その脇に手を差しのべている騎士学園の生徒、王子の後ろには何人かの従者が控え、対するようにヴォワザン伯爵家のアンドラと海戦の英雄の一人であるトーマが立っていた。

アンドラとトーマは二度目の勲章を頂き時に一緒だったのでカロリナもよく覚えていた。


なんと言ってもジャネタの愛しの君だからね!


秋の王宮晩餐会で会って以来だから6ヶ月ぶりになる。

アンドラは会う毎に美しさに磨きが掛かっている。

横にいるトーマも少し背が低い事を除くと、馬鹿四人に負けていない美青年ぶりだ。

自信の現れか、王子達とオーラが違う。


それよりも目に付いたのが、その後ろの可愛らしい美少女であった。

赤い瞳に赤い髪、健康そうな肌色、調和の整ったスタイル、そして、何より姿勢も美しい。

目が釣り上がっていて怖い印象を受けるが美人さんであった。

いいえ、とびっきり可愛い美少女だ!


「エル、エル、あの可愛い女の子は誰ですか?」

「あの特徴から言えば、エリザベート令嬢だと思われます。お嬢様には及びませんが、綺麗な方だと思います」

「ですわね!」


エリザベートがカロリナの方を向いて睨み付けてくる。

目が合った!

きゃぁ、カロリナのテンションが上がる。

子猫がはじめて会った者を警戒するように威嚇する瞳が可愛らしい。

それは子供が見栄を張って精一杯の背伸びをしているように思えたのだ。

慌ててエリザベートが目を晒し、再び、ちょっとだけカロリナを見る。

その仕草も愛らしい。


エリザベートは別に敵意を向けた訳ではなかった。

2周目で初めて見るカロリナに鑑定を掛けた。

レベル48。

聞いていた通りだった。

溜息を付きたくなる。

とにかく、ステータスの高さにビックリだ。

スキルと称号の多さも驚きに値する。

何もよりも“何ぃ、幸運値100でカンストしているの? あり得ないでしょう。”と叫びたかった。

声が出そうなったので顔を逸らした。

そして、もう一度ちらりとカロリナを見て鑑定を掛ける。


『幸運な王妃』


公爵家のカロリナが手に入れているのが謎だった?

ゲームではマリアが王妃になった時に貰える称号で、平民が王妃になった事で得る。

マリアの幸運値36が倍に跳ね上がり、2周目以降で幸運値72になるとクリティカルヒットとドロップ確率が上がって、ダンジョンの攻略が凄く楽にできるようになる。



何故、侯爵だった彼女にあるの?


エリザベートは目を丸くして焦った。

挙動不審な行動が子供っぽく見えて、カロリナの心を直撃していたとは知る由もない。


一周目のカロリナは、エリザベートの策略で麻薬犯罪の連座で父親らと一緒に牢獄に入れられた。ラーコーツィ家の本家・家臣方々は蟄居し、ライバルのヴォワザン家が反逆罪で一族が処刑されて没落した。


南方交易などの交易品が途切れ、聖女を処刑した事に教皇から苦情が上がった。

一方、『救国の英雄』を牢に入れた事でラーコーツィ領民から不穏な空気が流れた。

信用取引が停止され、国内の経済がガタガタに崩れた。

貴族達の不満が爆発し、責任を感じた国王は退位してオリバー王子が王位を譲った。

しかし、誰も王妃になりたがらない。

次の王妃は西の英雄を支持する民衆と聖女を讃える信者達から恨まれる。

そんな危険な王妃に誰がなりたがるだろうか?

結局、誰も王妃にならず、罪一等を減じられてカロリナが王妃に返り咲いた。

犯罪者から王妃に戻る。

称号『幸運な王女』を得る条件を満たしていたのだ。


エリザベートは困惑して考え込み、カロリナは可愛いエリザベートの仕草に見惚れていた。 

しばらくの沈黙が続いた。

王子がキョロキョロと二人を見ていた。


「俺を無視するな!」


切れたオリバー王子が怒鳴った。

オリバー王子は決して頭が悪い訳ではない。

むしろ、優秀な方だ。

しかし、正義感が強く、短慮で直情的な性格なのだ。

一度、こうと思うと融通が利かない。

自分が皇太子になるのを阻んだエリザベートを憎むあまり、エリザベートのする事をすべてよくない事と思うようになっていた。


さらに、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い!


オリバー王子の憎悪はアンドラとトーマにも及んでいる。

アンドラは学年主席を取っていた。

貴族学園の入学試験は簡単なモノであり、上級貴族なら全員が満点を取っていた。

つまり、レベルと魔力量が順位を決める物差しになった。


アンドラのレベルは51、魔力量は測定不可能。

次点がカロリナでレベルは48、魔力量は測定不可能。

3位、エリザベート:レベル45、(魔力量)測定不可能。

4位、エル:レベル45、(魔力量)測定不可能。

5位、アザ:レベル43、(魔力量)測定不可能。

6位、イェネー:レベル38、(魔力量)測定不可能。

7位、クリシュトーフ:レベル38、(魔力量)測定不可能。

8位、カール:レベル38、(魔力量)測定不可能。

9位、イグナーツ:レベル35、(魔力量)測定不可能。

10位、オリバー第一王子:レベル28、(魔力量)888。

11位、クリフ第二王子:レベル27、(魔力量)799。

12位、マリア:レベル26、(魔力量)601。


王子達が決して努力をしていない訳ではなければ、無能でもない。

他が異常過ぎた。

レベル30で卒業した生徒は最優秀と言われ、入学時点でレベルが25なら優秀とされていた。

14歳でレベル28まで成長した王子は最優秀であり、指導する騎士達はどちらの王子達も天才ともてはやした。

オリバー王子も自分が主席を取った気になっていた。

しかし、蓋を開ければ、10位だった。


自分の妻になるカロリナは『ゴブリン・スレイヤー』の称号を持つ英雄なので仕方ない。

そう諦める事ができた。

オリバー王子の頭の中は都合よく改変できた。


その主席を奪った男がアンドラであり、憎きエリザベートの義弟だった。

エリザベートの家臣である2年のトーマも去年の優秀賞を取っている。

何故、俺の邪魔をする!

オリバー王子の怒りは頂点に達していた。


「おまえらは俺の命に従えばいいのだ! 何故、その邪魔をする。従おうとしない」

「何度も申しますが、貴族には貴族の礼儀がございます。王子がそれを否定されるのは、自らの足元に穴を掘るようなモノです。どうかお控え下さいませ」

「意見せよと言っておらん。カロリナ、おまえからもこの糞チビに言ってやれ!」


カチン、カロリナはオリバー王子のその言い方に頭来た。

こんな可愛い子を糞チビですって!

カロリナの心のメモ帳に『オリバー王子は敵』と記さられ、カロリナは声を上げる。


「オリバー王子、事情は判りませんが、学園の正門で騒いでいては生徒が中に入れません。直ちにお止め下さい」

「カロリナ、これは見過ごす事はできない」

「いいえ、入学式を滞りなく終わらせる事が王子のお役目です。自ら学園行事の障害になるのは感心致しません」


そう言うとカロリナは前に出て、マリアに手を差し伸べた。

マリアは怪我をして様子もない。

カロリナはマリアの手を取ると立たせ上げた。


「お行きなさい」

「ありがとうございます」

「待て!」

「待つ必要はありません」


カロリナはオリバー王子の前に立つと、手を前に合わせて姿勢を正した。


「オリバー王子も早く式典に向かって下さい。優先すべきは入学式をつつがなく終わられる事であります。他の皆様も同じです。入学式の時間が迫っております。急がず、優雅に中にお入りなさい」


カロリナがそう言うと皆が従って一斉に入ってゆく。

まだ、納得していないオリバー王子がエリザベートを睨んでいる。


「エリザベートさんもどうか先に中に入って下さい」

「ありがとう存じ上げます」

「これからも仲良くしてゆきましょう」

「ありがとうございます」


エリザベートは心の中で舌を打った。

してやられた。

見ていた生徒達はカロリナの存在感を嫌でも感じただろう。

それに比べて、エリザベートは背丈の低い少女の姿だ。

同情的に思って貰えても神々しく感じる人はない。

それは仕方ない。

11歳秋から14歳秋まで、時間跳躍のアイテムで跳んでしまったエリザベートの実年齢は12歳のままだった。

浦島太郎の玉手箱でもない限り、1日で15歳に成長できない。

どんなにレディーぶっても身長140cmの女の子である事は変わらなかった。

オリバー王子達は170cm以上あり、マリアを含めて160cmより小柄な女生徒はない。

女性らしいカリスマが足りない。

その一点で完全にカロリナに負けている事を見せ付けられた。

一周目とまったく違ったハンディーを背負わされた。

少なくともエリザベートはそう感じていた。


クリフ王子がやってくると、オリバー王子はさらに不機嫌そうな顔をした。


「兄上、入学式に最初に入場する兄上が行かないと式が始められないのではないですか?」

「黙れ! それくらいは心得ている」

「では、お急ぎになって下さい」

「うるさい、行くぞ!」


手を出すオリバー王子にカロリナは首を横に振った。

判っていた。

オリバー王子は、まだカロリナの婚約者ではない。

悔しそうにマントを翻すと中に入ってゆく。

カロリナはクリフ王子とあいさつを交わす。

もちろん、丁寧に断り、一緒には入って行かない。

まだ、優劣を付ける訳に行かない。


カロリナはクリフ王子を見送って、他の生徒の邪魔にならないように中に入ってゆく。

憂鬱だった気分が晴れて、目を輝かせて歩いていた。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「私、エリザベートさんの応援団長になる事に決めました」


エルの目が点になった。

エリザベートはカロリナのライバルであり、その手腕はカロリナの頭脳であるラファウに匹敵すると本人に言わしめている。

しかも、その義弟のアンドラは騎士団長と互角に戦った強者であり、カロリナの右手であるルドヴィク、あるいは、左手である近衛マズルより強いかもしれない。

経済力もラーコーツィ家とヴォワザン家は拮抗しており、大戦で多くの借財を抱えているラーコーツィ家より順調に勢力を伸ばしているヴォワザン家の方が勢いもあった。


「オリバー王子はエリザベートさんをお嫌いのようだから可哀想じゃない。私はエリザベートさんを応援します」


エルは心の中で首を横に振っていた。

オリバー王子は誰が何と言おうと長男であり、ヴォワザン家には金があった。

長男を皇太子にするのが妥当だと主張し、エリザベートがセーチェー家の養女になる事で障害もなくなる。

二人が協力すれば、カロリナを王妃候補から落とす事ができた。


オリバー王子とエリザベートの仲が悪い事が最大のネックだった。


なのに?

カロリナは手を貸すと言い出したのだ。

驚きもする。


「ねぇ、エル。あの可愛らしいエリザベートさんと一緒に学園に入れたのは、運命の配剤ではないかしら!」


カロリナの悪癖、それは食い意地が張っている事、もう1つの悪癖は可愛い子に目がない事だ。

エルは乾いた笑いしか出ない。


そして、エリザベートは気づいていない。

最大のライバルであるカロリナが応援団長になった事を!


どんな学園生活が待っているのか?


カロリナが陽気な足取りで学園の門をくぐって歩き出す。


さぁ、ゲームの始まりだ。


第3章『侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!』(終)


■『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したからと言って悪女を止めたら、もう悪役令嬢じゃないよね!』

<エリザベートは悪役令嬢を目指す>


■『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したからと言って悪女を止めたら、もう悪役令嬢じゃないよね!2』  <侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!>



3ヶ月間、お読み頂いてありがとうございます。


これにて一旦終了です。


どちらもまだ学園編を書いていませんね!


ごめんなさい。


続けて書く気力がないのでお休みさせて頂きます。


また、機会があれば、学園編を書こうと思っています。


学園編は同じイベント、同じキャラクター、でも条件が違ってまったく違う物語になるのが楽しい所なのです。


でも、プロットで完成していても、実際に書くと大変な作業です。


3日で完成したプロットを小説にすると、8分の二しか書いていないのに3ヶ月も掛かっています。


また、機会をお待ち下さい。


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― 新着の感想 ―
[一言] クソ王子暗殺しようぜ
2022/02/28 06:15 退会済み
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