おじさまは一息つきます。
すみません暇が取れずにひと月も開いてしまいましたストック無いからこういうことが起きるんですご容赦((
ほぼ説明になっていない説明回です。
いつか改稿したいです、辻褄がアレなんで。
先ほどまで茫然としてたガルを振り返りみると、うむ、面白い顔をしていた。
「…俺は、何をすればいい?」
「なんでもかんでも私に任せ、聞けばいいと思わないでくれ。…まぁ、彼女を連れて島々、国々を放浪するがいいさ。この子は一か所に長くとどめておくには秘密が多すぎるだろう?あと、大きな町には入れない。大概の主要都市では門に魔物の魔力を感知する魔法師がいる。人に化けるほどの強力な魔物はそうそういないが、万が一のためにね。この子も感知される可能性が高い。」
面白い、真面目な顔で頷いたガルを一瞥し、また少女と向き合う。
忠告はガルのためではない、少女のためだ。
こんな頭の足りない兄を持ってしまった、哀れな少女。
足りない頭で、しかしそうするしか生きられなかった少女。
結局、彼女の頭もこの問題を抱えるには足りていない気がするけれどもね。
まだ二人は若いから死に物狂いで世間を知っていけばいいさ。
「さて、とりあえずとっとと呪ってしまおうか。私は呪術師なんてくだらないものではないが、聖人というには薄情すぎるだろう?君たちがこれからどう生きるのか、なにを目指すのかは私には関係がないからね、精々、頑張り給えとだけ祈らせてもらうよ。」
会話をしながら頭の中で組み立てていた魔術陣を魔力に乗せ、彼女の魔石に注ぎ込む。
「『静魔の波紋』」
たった今考えたにしては上出来だろう、黒と青と紫で描かれた魔術陣が魔石に浮かび上がる。
全て、“静”の魔術陣だ。
『黒の指輪』で魔力を抑え込み、『水妖精の雫』で魔物の本能を鎮静化、『紫苑の泉脈』で循環を促す。
これで、彼女の体は僅かな魔力で十分生き延びることができるはずだ。
「…すごい、体が重いです。」
「仕方がないよ、君の身体は魔力で支えられているのだから。慣れればもう少し楽にはなるだろうけどね。」
彼女の足元から伸びていた蔦はしなしなと萎れ、茶色くくすんでいった。
後は手首に埋め込まれたように沈んでいる魔石を隠せば、一応ただの少女に見えるはずだ。
「リシル…すごいなぁ。確かに彼女の中の魔力、少量のまましっかり循環して排出されて、ってなってる…。」
「彼女自身が発生させる魔力でほとんど賄えてるはずだよ。まぁ、人よりその分食事が多くなるかもしれないけどね。」
感心したように近づいてきたキョウが枯れた蔦を持ち上げる。
「これ、専門家に売れば売れそう。」
「そんなことしたら出所が危なくなるだろうね。」
「ですよねー。」
漸く一息付けた、という空気が流れだし、急にお腹が空いてきた。
…まだ片付けることはあったかな?
いや、周りに村人の亡骸やら何かはあるが、それは私がどうにかするものではないね。
他にも何か引っかかるような気もするけれど、とりあえず食事にしたい。
「…おい、」
「ん?なんだい、そんなに睨んで。なぁ?」
「なぁ?」
チラチラと屋敷を気にしながらキョウとアイコンタクトをとる。
そんな私たちを複雑そうな顔で見るガルには半分ほども注意をくれない。
「……くっ、その…ありがとうございました…妹を、助けてくれて。」
「どういたしまして?いやぁ、成り行きに近いものがあったけど、ねぇ。」
「うんうん。かなり危ないことに巻き込まれたけど、なぁ。」
腹が減った。
この一言に尽きる。
まだまだ夜も明けないのだけど。
「…あ、あの、リシル、さま?」
「なんだい?不安事を聞かれても私はもうなにも答えられないよ?」
「い、いえ、その…、みんな、は…、」
だから、私には関係がないだろうって。
「既に死んでいるだろうよ。いや、ずっと前から段々と死んでいったというべきかな。ジャスルの洗脳下、および君の隷属下にあったのだからね。洗脳して食事に君のトレントが生み出した種子でも交ぜたんじゃないかな、でないとここまで魔力が混じりあうこともないだろうしね。種子はジャスルと君の命令通りに村人に根を張り、養分を吸い取って、乗っ取る。そして、彼らは死んだという意識もないままに半魔物としてジャスルに仕えていた。…って感じかな、推測するにだけど。」
近くに倒れていた村人だったものを指先でつつくと、やはりその中には少女の魔力とトレントの魔力、村人の魔力、と混在している。
ガルの母であったジオは例外かな。
きっと彼女は元々この村でも重要な位置にいたのだろう、そして、彼女は彼女の意思を持ったまま隷属化した。傀儡ではなく自発的に村人を纏めて都合のいいように動かさせるために。
…なんてね。
「…私の、せい、ですよね…。」
「じ、ジル、考えんじゃねぇ!もう、終わったことだろう!?お前も洗脳されていたし、生きるためだったわけだし…!」
「そうだね、終わったことだし、もう戻れないよ。だから、安心して罪悪感に苛まれることだね。」
「クソガキ!」
自己中心的に騒ぎ立てる兄妹を傍目に、村人を飛び超えて屋敷に向かう。
ちらりとメメリに視線を向けるとこちらの意図を察したのか、兄妹を抱え上げた。
…さすがだな、軽々と子供二人を持ち上げている。
さて、どうにも、どうにもならない。
なんでだろうねぇ。
「なんか、リシルあいつらに厳しくない?ロリコンならジルちゃんドストライクだろうに。」
同じように村人を飛び越え、メメリより役に立たないキョウが隣に並んだ。
「ロリコン発言は置いておくとして。
なんでか、気に食わないんだよ、あの兄妹。あぁ、情が少なからず沸いてしまったから助けてしまったのはあるんだけどね。」
「ロリコnぐぁっ…っり、リシルさんの食指が動かなかったってこと、ですかね…?」
「そうだね…、まぁ、なんにせよもういいだろう?今私たちがすべきことは、食料調達と脱出手段の確認だよ。」
脛を押さえて飛び跳ねるキョウは放って、屋敷のホールから全体を見渡す。
いくら村の中では一番だとはいえ、オースアイレンの首都オーシァにある貴族の屋敷とは比べ物にならない。
東に応接室、西にリビングと食堂、厨房のようだ。
メメリが応接室のソファーに兄妹を下ろし、そのままついていてくれるようだ。
早速厨房に入ると冷蔵庫を開けてみた。天井についた魔石と、そこに掘られた魔術により常に食料が冷やされるという画期的な魔術具だ。
…肉が、ない。
はては、あれか?干し肉がある、とかか?それとも熟成中ということか?
「リシル?固まってどうした?」
「…」
薄気味悪い液体が入った瓶の並ぶ冷蔵庫を勢いよく閉め、その足で傍の扉から食糧庫に入る。
天井間際まである木棚には、緑や茶色、差し色に赤やオレンジといった野菜が並んでいた。
「…あいつ、菜食主義者かっ!」
思わず叫んでしまったが、仕方のないことだろう!
私は!今!肉が!食べたいというのに!
「リシルぅ、あの瓶の中身変な匂いがしたんだけどー…。」
シュンとした顔の馬鹿が食糧庫に入ってきて、その野菜のみの棚に絶句している。
「え、なに、ベジタリアンな感じ?」
「…らしい。あぁ、野菜だけでなんの腹の足しになるんだ…。ちなみに呪術具の中には匂いで呪うものもあるから気をつけろよ。」
「まじかよ早く言って!…て、あ、小麦粉発見~とりあえず麺でも茹でたるかー。」
と、キョウが数種類の野菜と小麦粉が入っているらしい袋を抱えて、厨房の綺麗に片付いた調理台の上に下ろす。
「なんだい、キョウ、料理できるのか?」
「はっはっはー、崇め奉るがぁっ…なんでそう暴力的なのお貴族様…、」
「ん?」
「なんでもないですごめんなさい。…えっと、俺、元々森の中で世捨て人ー…みたいなのに育てられまして?でもその人料理できなくて?仕方なく肉のさばき方から調理、ごみの処理まで自分でやってたんだよねぇ、十年くらい?ほんとちっさい頃から。」
なるほど。
思ったより苦労人だったんだな。
もちろん私は包丁さえ持ったことなどないので、料理などできるわけもない。
塩と砂糖の見わけもつかないだろうと私の子どもたちにも揶揄われたこともあるし、コーヒーに入れる砂糖まで使用人の領域だ。触らせてももらえなかった。
魔法で水を出して手を洗った後、手際よく何やらタンタンと切り刻み、焼き、練った小麦粉を食糧庫から出してきた金属製の器具で麺状にした。
「いやぁ、この機械いいよね…俺ずっとパスタ食べようって思ったら一人で一本一本よってたもん…どこぞの無人島のチネリみたいに…。」
なにやら、闇を背負っているようだ。