魔王と最終回発情期(ファイナルファンタジー)と躊躇
「か、カップルって……よ、よもや、余とスウィッシュの事か……?」
「そうじゃ」
ヴァートスは、驚くギャレマスに向けて大きく頷いた。
「ワシらがここまでお膳立てしてやったんじゃ。お前さんがビシッと最終回発情期して、氷のお姐ちゃんの想いに応えてやるんじゃ!」
「え、ええ……?」
ギャレマスは、ヴァートスの叱咤に顔を赤らめながら、困惑の声を上げる。
「い、今からか……? いくら何でもいきなりすぎる……。ま、まだ早いのでは……」
「何を言っとるんじゃ、このヘタレ。早いどころか遅すぎるわい!」
ヴァートスは、躊躇するギャレマスを一喝した。
「そんな調子で、いつまで氷のお姐ちゃんの事を待たせるつもりなんじゃい! いくら魔族の寿命が長いと言っても気長が過ぎるわい!」
「……そうだぞ、王」
老エルフの叱責に頷いたのは、アルトゥーだった。
彼は、部屋の隅でファミィと話しているスウィッシュの顔をチラリと見てから、魔王を諭すように言う。
「氷牙将の気持ちは、王も既に知っているのだろう? なのに、いつまで答えを待たせるつもりなんだ?」
「そ……それは……」
「……もし、王が氷牙将を受け入れる気が無くても――」
「そ、そうではない!」
アルトゥーの言葉を途中で遮り、ギャレマスは激しく首を左右に振った。
「そうではないのだ……だが――」
「ひょっとして、まだ年の差がどうとか、下らん事をを気にしておるのか?」
煮え切らない様子のギャレマスに、ヴァートスは呆れ声を上げる。
「この前も言うたじゃろうが。年齢差なぞ小さな話じゃと。月並みな格言じゃが、『愛があれば年の差なんて』とは良く言ったものでな」
「いや……それは、重々分かっておるのだが……」
「……分かっているのなら、何故まだ躊躇うんだ?」
なおも煮え切らないギャレマスの態度に首を傾げながら、アルトゥーは言った。
「……もしも、民や家臣たちの目や口を気にしているのなら、それは取り越し苦労だぞ」
「……」
「つい先ほど、王は己とファミィに言ったではないか。『余も我が国も、互いに愛し合っている男女の仲を裂くほど、無粋でも狭量でもない』……と」
アルトゥーはそう言うと、彼には珍しい微笑を浮かべ、大きく頷いてみせる。
「王の言葉が偽りや気休めでは無いのなら、王と氷牙将との事にケチを付けるような無粋者はこの国には居らぬはず。違うか?」
「い、いや、違わぬ。違わぬが……」
「――万が一、どこかにそのような無粋者が居るのなら、陰密将の己自ら粛清してやる。だから安心しろ」
「い、いやいや! そ、それには及ばぬ! 物騒な事を申すな!」
その瞳に剣呑な光を宿したアルトゥーを見て、ギャレマスは慌てて制止の声を上げた。
そして、力無く肩を落とすと、ふるふると頭を振る。
「余が躊躇しているのは、そんな事が理由では無いのだ……」
「じゃあ……何じゃと言うんじゃ?」
ギャレマスの言葉に、ヴァートスが苛立ちを隠せぬ様子で首を傾げた。
「もうまだるっこしいから、何が原因でそんなに躊躇しておるのか、お前の口でハッキリ言ってくれ。どんな理由であっても、怒らずに聞いてやるから」
「…………そ、その……実は」
ヴァートスに促され、ギャレマスは重い口を開いて、理由を述べる。
「ちょっと……」
「ちょっと?」
「ちょっと……恥ずかしくって……」
「「いい年こいたオッサンのクセにナニ気色悪い事言ってる!」んじゃいッ!」
「ぁ痛いッ!」
見事にシンクロしたアルトゥーとヴァートスのツッコミを後頭部に食らったギャレマスは、悲鳴を上げながら円卓に突っ伏した。
そんな魔王の姿を冷ややかに見下ろしながら、ヴァートスとアルトゥーは呆れ果てる。
「まったく……えらく思いつめた顔をしとるから、どんな心配事を抱えておるのかと思うたら……」
「てっきり、亡き妃に操を立てて――とかいう感じの理由かと思ったら……まさかの『恥ずかしくって』だとは……」
「魔王の面汚しもいいところじゃ。大魔王バー〇様やピッコ〇大魔王や魔王リム〇に百万回土下座して詫びんかい、このヘタレ!」
「……正直、王の部下である事を、過去最悪級に後悔した」
と、ギャレマスの事を好き勝手ボロクソに貶したふたりは、大きな溜息を吐くと、おもむろに扉の方へ歩き出した。
「こんなビビリヘタレ凡骨ヘボ魔王の事なぞ、もう知らん。行くぞ、ネクラの兄ちゃん」
「ああ。――王よ、後は自分で何とかするんだな」
「ちょ……! い、行くな! 待つのだ、ヴァートス殿、アルトゥー! よ……余の事を見捨てないでくれ――」
「ちょ……ちょっと待って、ファミィ! まだ行かないでよ! い、いきなりすぎて、まだ心の準備が……!」
青ざめたギャレマスが慌てて二人を引き止めようと懇願するのと同時に、大広間の隅からも狼狽を極めた叫び声が上がる。
ハッとしたギャレマスが、声の上がった方に目を向けると、ヴァートスたちと同様に扉へと向かうファミィの背中に向けて必死で手を伸ばすスウィッシュの姿が映った。
と、ギャレマスが向けた視線の気配に気付いたスウィッシュが、何気なく頭を巡らせ――ふたりの視線が交錯した。
「「――っ!」」
その瞬間、ふたりは青ざめていた顔を茹でダコのように真っ赤に染め、激しく目を瞬かせながら、慌ててお互いへ向けた視線を逸らすのだった……。




