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姫と古龍種と送迎

 「ええと……」


 ポルンの背に括りつけられた鞍に跨り、ニコニコしながら手招きしているサリアに、ジェレミィアがおずおずと尋ねた。


「その……『どうぞ』って……ひょっとして、その古龍種の背中に乗れって……事?」

「うん、そうだよー、ミィちゃん!」


 ジェレミィアの問いかけに、サリアは元気よく頷く。


「みんな、ポルンちゃんで送ってあげるよ! 遠慮せずにどうぞー!」

「ぶふうううん!」


 サリアの誘いの声に、ポルンもまるで「乗って乗って!」と言うかのように鼻を鳴らした。

 だが、彼女たちから誘われたジェレミィアとエラルティスは、困った様子で顔を見合わせる。


「い、いや、遠慮せずにって言われても……」

「ねえ……」

「あ、大丈夫だよー!」


 そう言って躊躇するふたりを見て、サリアは慌てて声を上げた。


「ポルンちゃんは大きいし力持ちだから、みんな乗っても平気だし、乗り心地もいいよ! それに、スピードも速いから、国境まであっという間に着けるし!」

「ぶふううううんっ!」


 サリアのフォローに、ポルンも再び高らかに鼻を鳴らす。

 だが、それでもふたりの“伝説の四勇士”たちは躊躇していた。

 ――と、その時、


「じゃあ、お言葉に甘えるとするかな」


 そう言いながら、シュータがポルンの背の上に飛び乗った。

 そして、サリアに向かってぎこちなく笑いかける。


「って事で、国境まで頼むぜ。別にそんなに急がなくていいからよ」

「……うん、分かった!」


 シュータの言葉に、サリアは弾けるような笑顔を浮かべて大きく頷いた。

 彼女に頷き返したシュータは、目を丸くしているジェレミィアとエラルティスに向けて人差し指を振る。


「お前らもさっさと乗れよ。マジで歩いて帰る気か?」

「あ……うん。分かったよ、シュータ」


 呆気に取られていたジェレミィアが、おずおずと頷きながら立ち上がり、エラルティスの肩を軽く叩いた。


「ほら、リーダーもああ言ってるから、早く乗ろ、エラリィ」

「……仕方ありませんわね」


 ジェレミィアに促されたエラルティスも、しぶしぶといった様子で立ち上がると、声を潜めてジェレミィアに囁いた。


「……なんか、以前とはずいぶん変わりましたわね、シュータ殿」

「まぁ……ね」


 エラルティスの言葉に頷きながら、ジェレミィアは意味深な微笑を浮かべるが、それ以上は何も言わなかった。

 そして、彼女たちが純白の古龍種の背の上に乗った直後――、


「ちょっとお待ちなさいな。ワタシたちも一緒に行くわよん」

「わ、ワシも同行する!」


 そう言いながら相次いでポルンの背に上ったのは、マッツコーとイータツだった。

 それを見たシュータが顔を顰めた。


「何でテメエらまでついてくるんだよ?」

「フンッ! そんなの、決まっておる!」


 咎めるように訊ねたシュータを睨みながら、イータツは毅然と言い放つ。


「我ら魔族の大敵である“伝説の四勇士”が三人もいるのに、サリア姫おひとりで行かせる訳にはイカンだろうが! だから、ワシとマッツコーが護衛としてついて行くんじゃ!」

「まあ、ワタシは、護衛よりも恋する勇者ちゃんのウブい様子を思う存分堪能する方がメインの目的だけどね、うふふ……」


 イータツの答えに紛れるように、マッツコーがこっそり付け加えた。

 そんなふたりに、シュータはあからさまに渋い顔をして、犬でも追い払うように手を振った。


「安心しろ、護衛なんて要らねえよ! クソ魔王の方ならともかく、サリアとツカサに危害を与えるつもりなんて、俺には更々無――」

「いいよー」


 だが、シュータの拒絶の言葉は、サリアの声によって途中で遮られる。


「ふたりとも一緒に行こっ! たくさんいた方が、きっと楽しいよ!」


 そう言うと、サリアは後ろに座るシュータに向けて訊ねかけた。


「ね、いいでしょ、シューくん?」

「……勝手にしろ」


 サリアの問いかけに、シュータは憮然としながらも頷く。


「ふふ……これは、もし一緒になったら尻に敷かれちゃいそうだね、シュータ」


 そんなふたりのやり取りを見ながら、ジェレミィアは微笑みを浮かべてこっそり呟いた。

 ――と、


「あ! あたしもお供します!」


 スウィッシュも慌てて立ち上がり、サリアに向かって叫ぶ。

 ――だが、


「ダメ―! スーちゃんはお留守番だよー」


 さっきはイータツとマッツコーの同行を快く認めたサリアだったが、スウィッシュの申し出には態度を一変させた。

 サリアに同行を断られたスウィッシュは、ショックを受けた様子で訊き返す。


「な、何でですか? どうしてあたしは留守番なんですか?」

「ごめんね、スーちゃん。ポルンちゃんの背中って、実は六人が定員なんだー」

「えっ? そ、そうなんですか? でも……まだ結構余裕がある様に見えるんですけど……」

「とにかくダメなのー!」


 当惑の表情を浮かべるスウィッシュに、サリアは頑なに首を横に振った。

 と、彼女はスウィッシュに向けて、思わせぶりにウインクをしてみせる。


「だから……スーちゃんは、()()()()()()()()()

「え……?」


 サリアが念押しするように言った言葉を聞いたスウィッシュは、ハッと目を見開いた。


「さ、サリア様? それって、まさか――」

「じゃあ、行ってきます、お父様!」


 スウィッシュの問いかけを遮るように声を上げたサリアは、ギャレマスに向けて手を振ってから、鞍から伸びている単車の絞りハンドルを象った取っ手を握る。


「ぶふふふふうううううんっ!」


 それに応えるように、ポルンも鼻を鳴らしながら背中の大きな翼を羽搏かせ、ゆっくりと浮上していく。

 そして、国境へ向けて飛び立つ直前、もう一度スウィッシュの方に振り返ったサリアは、彼女を勇気づけるようにニコリと微笑みかけながら、


「スーちゃん、がんばれっ!」


 と、激励の言葉をかけたのだった。

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