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IZANA  作者: 姫柊ほの
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第2章 海底の村 4

 「では、そろそろ参りましょう。」


 手際よく後片付けをしていた巫女の少女は、最後にクリスタルの周りにある、6箇所の脊柱に焰を灯し終え、出口へと誘った。


 巫女は、まず大きな石の門を潜った後に手を添え、「封じ」と思われる呪文を唱えた。すると、石の門は壁面と隙間が無いよう、しっかりと閉じられた。先ほどとは違い、今回は次の扉の間まで明かりが灯されており、次の扉の重厚さがと、入る時に見たものと同じ様な細工が施されている。

 巫女はその細工に向かって両手を掲げ、少しの呪文を唱えると、細工である筈の歴代の巫女達が光を帯び始めた。そして、それらの光は歴代の巫女達の姿を形取り、大きな石の門の扉に施された魔法陣を通り抜け、先ほどの部屋へと入っていった。

 大柄の男の話に寄れば、巫女の姿を形取った光は、先ほど灯した6箇所の明かりに宿り、封印保ち、クリスタルが壊れぬように守るのだという。


「あんな大きなクリスタルが壊れるなんてこと、あるんですか?」


 シェールは不思議に感じた。


 「そんなに不思議なことでもあるまい。形ある物はいずれ壊れる。例え、それが封印柱であってもな。」


 大柄の男はそう言った。


 「でも、あれだけ大きければ・・・。」

「あのクリスタルには、多数のクラックが入っていただろう?」


 シェールは先程の光景を思い出していた。確かに、そのクラックに反射した光が、虹色に輝いていた。


 「あの巨大なクリスタルは、以前はあんなクラックなど入ってなんかなく、神聖なほど透き通ってたんだ。」

「えっ?!」

「完璧なんてあり得ない。だから巫女はああやって努力を惜しまない。わかるか?」

「何か起こってからでは遅い・・・。と?」

「あのクリスタルが崩壊する事だけは、『避けなければならない事態』とだけ言っておこう。」


 大柄の男が、真剣な顔でそう言った。

 当の巫女は二人の先を歩き、洞穴の出口へたどり着いた。そこには、先程の2人が膝を折り、巫女を待っていた。


 「本日もつつがなく終わりました。」


 巫女が二人に声を掛けた。


 「ご苦労様でございます。」

「では・・・。」


 そう言って二人は洞穴に向かい、光の結界を張った。


 「なんとも・・・。 強烈な「光の結界」ですね。」


 シェールはその強い「光」に驚いた。辺りは暗い筈なのだが、魔力で灯された明かりだけで、それが虹色に反射しているのがわかる。


 「あいつらが使う『力』は、特別だからな。」


 大柄の男が、少しおどけて言った。


 「さて・・。 帰りは反対側の欄間を見ながら行くといい。」


 シェールは少し苦笑いをした。何故なら、こちらへ来るまでに見た「昔語り」は、学校の歴史の授業で習ったものと全く同じだったからだ。


 (まぁ、この欄間を見るだけでも、相当価値はあるだろうし、絵本や教科書で見るよりはきれいだしな・・・。)


 ここから先も、授業と同じ内容が続くのだろうと思いながらも、とりあえずは見事な欄間でもあるので、大柄の男の言う通り、先ほどとは反対の「昔語り」を見て帰ることにした。


シェールが思った通り、欄間に描かれているのは精霊たちと共に暮らす人々の姿だった。


この時代では、精霊はまだ人々の前に姿を現していた。人々は自分が置かれている状況、与えられる加護のありがたさを感じながら、「精霊の加護」を正しく履行していた。


だが、やがて人々の心の底に「よこしま」が生まれた。

自分が持つ能力以上のものを欲し、自分以外の人の存在を羨ましく思い、嫉妬し、そしてそれらは自我の範疇を越え、己を中心として欲望のままに全てを意のままにしようとした。

 元来、精霊は清らかな心の持ち主にしか加護を与えられない。姿を見せることも出来ない。何故なら、「邪」や「魔」に触れてしまうと、自らが消滅してしまう恐れがあるからだ。

 精霊たちは、自分たち自身を犠牲にすることは出来ないと哀しみながら、欲と邪心にまみれていく人々の前から姿を消した。その代わり、自分たちが加護を与えるに相応しい「人」を見つけると、それぞれの加護を与えた霊獣をその「人」の元に遣わした。

この霊獣が「守護獣」として存在することとなり、王族、貴族、平民問わず、その時代の最も力のある守護獣が選んだ者が、次代の王となった。

王は守護獣を伴い、精霊を敬う心を忘れず、他の守護獣を伴う臣下と共に国の繁栄を築き、人々の平等を守った。


 だが、時代の経過と共に、王族であるからこそ人を支配することに優越を感じ、全てを意のまま支配することに悦びを覚える者が現れた。

 他の者の心情を顧みず、自己中心的な態度で威圧し、父親である 『王』 の守護獣でさえ手中にし、操ろうとする狂乱ぶりを見て、その時代の全て守護獣は自分たちの身を守るべく、人々の前からその姿を消した。


 (あれ? なんか少し歴史書と違う・・・?)


 シェールは少し疑問を感じた。


 (確か授業では、「ある日、突然守護獣の守りが消えてしまったから、あの大災害が起こった」って教えてもらったけど・・・。)


 シェールは振り返って大柄の男を見たが、ただ静かに腕を組み、そのまま読み進めるよう、無言で促しただけだった。


授業では大災害が起こった後、人々が復興していく様を教えられた。

だが、ここに描かれている内容は、教科書には載せられていない、大災害が起こるまでの経緯が描かれていた。


 守護獣達が姿を消した後も、人々の心に住み付いた「邪」は更に膨れ上がっていった。

 「邪」たちは、人々に黒き影を落とす。

 その黒き影は、人の心の内に住み付いた「悪意」を餌にして強大化し、やがてはその心の持ち主である人を捉え、喰らいつくし、その体を媒体として、悪意の塊である「魔の物」を生み出した。

 「魔の物」に「義」は通らず、「理」は通らず、「情」も通らず、ただただ己の「欲」を満たすためだけの愚物となり、非道の限りを尽くした。


 「へっ?! ちょ、ちょっと待って待って!」


 シェールは一旦落ち着こうと、つい声を上げ、深く、深く、呼吸をした。


 「なんだぁ? 納得いかねぇって顔だなぁ。」


 大柄の男がシェールの様子を見て、腕を組んだまま話しかけてきた。


 「俺が教えて貰った中に、こんな内容無かったし。」

「真実は・・・、というか、都合の悪いことは、往々にして秘されるものなんだよ。」

「もし。。。 もしこの話が真実だというなら、今世界に溢れている『魔の物』と呼ばれる存在は、元をたどれば『人』だったってこと。。。だよね? じゃあ、世界中で魔の物として討伐しているのって。。。」


 そう言いながら、大柄の男はシェールに近寄り、肩に手を回し、耳元でゆっくりとした口調で囁いた。


 「ここから先は、お前が知らない、誰も教えてはくれない【真実】だ。嘘みたいに思うかもしれんが、しっかりと見て記憶しろ。」


シェールは少し身構えてしまった。先ほどまでとは違う、低く、静かで強い口調。

 ここから先の話を、本当に知ってしまっても良いのかどうかさえ不安に感じてしまう。不安というよりも、畏れに近いのかもしれない。

 横を見ると、大柄の男がシェールのこれからの行動を注視している。


 (これは、この先を確認しなければ解放してくれなさそうだ。。。)


 シェールは一度大きく深呼吸し、一歩前に踏み出した。



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