第九十九話
「ジャン様、ジャン様、起きてください。起きてくださいってば」
ジャンを揺すって起こそうとしているのは彼の部下、双子のエーリカとカルラだった。
「う、ううん…… やあ、エーリカとカルラか、おはよう」
なんと驚くことに遥に殺されたはずのジャンがまるで昼寝から目覚めたように目を開けた。
「何を呑気に挨拶してるんですか。ジャン様、死んでたんですよ」
エーリカが呆れた顔でジャンを見ていると彼は上体を起こし苦笑いしながら頭をかいた。
「そうか、いや、参ったな。やられてしまったか……」
「いや、この部屋に入っていきなりジャン様が死んでるから驚きました。それにしてもまさか、ジャン様が殺されるなんて、さすがはマリー王女ですかね〜。あっ! すみません……」
失礼なことを言ってしまったとカルラが咄嗟に謝る。しかし、ジャンはまったく気にして様子もなく笑っていた。
「ははは、謝らなくて良いよ。実際、やられてしまったんだからね。ただね。実は、私を殺したのはマリー王女ではなくて、姫野遥なんだよ」
「ええ!!」
流石の双子もその事実には驚いたようだ。信じられないといった表情でお互いの顔を見合わせている。
「私たち奴らが屋敷に入る所を見てましたが、姫野遥って一番幼いあのガキンチョですよね。 そんな…… ジャン様があんな小娘にやられるなんて信じられません、冗談ですよね?」
エーリカの言葉にジャンは軽く首を振って答えた。
「いや、本当だよ、エーリカ。あの娘は単純なレベルでは推し量れない何かがある。あの方が姫野遥を殺さずに連れてこいと言われた理由が少しわかったような気がする。きっとあの娘には何か秘密がある」
「え!今回の任務はあいつらを殺す事じゃなかったんですか?」
「エーリカ、実は最初の任務はアメデ様から人身売買に関わった人物を消すよう言われていたのだが、途中からあの方の指示に変わったのだよ。今の我々の任務は姫野遥を殺さず捕まえる事だ。言うのが今になって悪かったね。急な指示だったもんでね」
「とんでもないです。なるほどそうだったんですか…… う〜ん…… だけど、あんなガキンチョになんの秘密があるんですか?」
「さあ、それはわからない。だが、姫野遥をこのまま逃すわけには行かない」
「どうします、追いかけますか?」
「いや、姫野遥は彼女に任せよう。所で君たちが相手をした二人はどうした?」
ジャンが聞くとエーリカが申し訳なさそうな顔で答える。
「すみません、私たちもやられてしまいました。おかげで命を一つ失ってしまいました」
エーリカの言葉にジャンは優しい口調で返す。
「エーリカにカルラ、謝ることはないよ。私だってやられてしまったんだから、これからはもっと修行して強くなろう。そして次はリベンジするんだ。良いね?」
ジャンの言葉に双子の顔がパッと明るくなる。
「ジャン様、やさしいぃ〜〜。だからカルラ、ジャン様大好き!」
「私も大好き! ありがとうジャン様〜」
「ハハ、礼を言うのはこっちの方だよ。二人ともありがとう。まあ、我々が本当の姿で戦えばなんて事ない敵なのだけどね。まあ、今はそれを出来ないので仕方がない」
「はい、残念ですけど仕方がないですね」
カルラが悔しそうな顔で答えた。
「おっとそうだ、二人ともマルコルフはどうした?」
ジャンが聞くとエーリカとカルラが首を傾げた。
「いえ、残念ですが見ていません。確かあいつは黒羽龍斗と戦っていたはずですが…… もしかしたら倒されてしまったかもしれませんね」
ジャンは神妙な面持ちで指を顎に当てる。
「うむ、多分そうだろう。彼は私達と違って普通の人間だ。一度、死んでしまったら終わりだ」
「はい、それにしても私たちよりも数段弱いレベルでしたが、まさかDランクの冒険者程度に遅れをとるとは……」
エーリカの言葉にジャンは静かに頷く。
「うむ、マリー王女仲間で一番弱いのが彼だと思ったのでマルコルフに任せたのだが…… どうやら私たちは彼らの戦力を見誤っていたようだ」
「これからどうしましょう?」
エーリカがジャンに指示を仰ぐ。
「私たちの任務は姫野遥を捕らえることだ、それを最優先に彼女を捕らえたらアメデ様と一緒にここを脱出しよう。二人ともアメデ様の所に行くぞ」
「はい」
ジャンが起き上がると壁の方へと歩く。そして壁に手をかざすと光と共に扉が現れた。
「さあ、二人とも行くぞ」
ジャンが扉を開けると三人はその中に入っていく。




