第八十六話
「アタタタタ……」
くそっ! 尻が痛い…… 穴に落ちた時、姫野さんたちの事を心配していたら受け身を取るのを忘れ、まともに尻から地面に激突してしまった。
「ここは…… どこだ。暗くて全く前が見えない」
暗闇で目の前すらまったく見えない。仕方がないので僕はしばらく目がなれるまでジッとしている事にした
確か、姫野さんとマリー王女、水口さんとエリノルさんとそれぞれ違う穴に落ちていったな。大丈夫だろうか…… 心配だなぁ……
それにしても僕だけが一人か…… ちと寂しいな。
あ! そういえばアメデと言う男、ジャンの部下と戦ってもらうとか言ってなぁ。って事はどっかにジャンの部下が僕を待ち変えているってわけか。
んじゃあ、その部下を探しにいくか…… 僕は暗闇に目が慣れると早速、歩き出した。
う〜ん、どうやらここは洞窟みたいんだな。あたりは石壁に囲まれている。
しばらく歩き続けると先の方で明かりが見えた。
どうやらあそこがゴールのようだな。僕は歩き続け光が差し込む場所に入ると、中は石壁に囲まれた大きな空間だった。そして、その先で僕と同じぐらいの身長で赤い目と髪をした男が立っていた。男は鋭い目で僕を睨んでいる。
僕はその男のところまで行き、話しかけた。
「えっと、君はジャンの部下かな?」
「そうだ。お前は黒羽龍斗だな?」
「ああ、そうだよ。じゃあ早速やるか?」
僕が剣を抜くと赤い目の男は右手を前に出した。
「おっと、待てよ。自己紹介ぐらいさせろよ」
「え?これから死ぬのにそんなの必要ないと思うけどな。まあ、したいのなら勝手にどうぞ」
僕はどうぞと手を差し出した。
「フン、随分と自信家じゃねーか。嫌いじゃあねーぜ。んじゃまあ、勝手に名乗らせもらうぜ。俺の名前はマルコルフ・ヴェッシャーだ。ジャン様のご下命により、お前を粉々にしてぶっ殺す。覚悟しろ」
そう言うとマルコルフと名乗る男は両腕を前に出し構える。
男の両手には青い色をした鋼鉄のグローブが装着されていた。そしてそのグローブの人差指から小指の根本部分に青白く光る球が付いている。
僕はそのグローブを見て眉をひそめた。
「おや、それはヘルブライトグローブだな…… お前、武闘家か?」
「ほう、このグローブを知っていたか…… 」
なるほど、ヘルブライトグローブは少々厄介だぞ。あのグローブに付いている青白い球が武闘家の正拳突きを2倍の威力に変え、それを衝撃波として出す事ができる。
しかし、その衝撃波の距離はせいぜい一メートルだ。威力はあるが、距離をとって戦えばなんとかなる……が、まあ、生きる伝説と言われたジャンの部下だ、そんな簡単にはいかないだろうな。
僕は剣の柄をギュッと握り気合いを入れた。それを見たマルコルフは軽く口角を上げ笑った。
「ケッ! どうやら少しはその呑気な態度が改まってようだな。だが、どんなに用心しようがお前は死ぬ!」
そう言うとマルコルフが両手を広げながらこちらに走りながら向かってきた。
僕は素早く剣を振り下ろす。すると剣はマルコルフの肩口を斬った。だが、何故か手応えがない。僕が驚いていると斬られたはずのマルコルフがまるで蜃気楼のように消えていく。
どうやら斬ったのはマルコルフの残像のようだ、僕は気配を感じ上を見ると頭上にマルコルフの姿が、彼は僕に斬られる瞬間、残像が残るほどのスピードでジャンプしたようだ。
マルコルフは僕を飛び越え背後から正拳突きを出した、僕は咄嗟に飛び退いてその拳を避ける。がしかし、ヘルブライトグローブの球から衝撃波飛び出てそれが僕に襲いかかる。
「やばっ!」
僕は咄嗟に剣の腹でその衝撃波を受けた。だが、その威力を殺しきれず剣を握ったまま腕は上方へ弾かれた。そしてそのまま後ろに吹っ飛ぶ
「うおぉ!!」
吹っ飛ばされた僕はゴロゴロと地面を転がるがすぐに立ち上がると切っ先をマルコルフに向け構えた。
「へへへへ。随分とかっこ悪りぃじゃねーか」
マルコルフがバカにした顔で僕を見ている。
なかなか手強いじゃねーか…… だけど、勝負はまだまだこれからだ!
僕は剣を振り上げるとジリジリ間合いを詰めマルコルフに近づいていった。




