第六十四話
「ありがとうございました」
「ワシが乗せていけるのはここまでじゃ、気をつけて行くんだよ」
「はい」
キグラシ草原まで行く手段がなかった遥は、途中の道で偶然この近くを通る馬車をヒッチハイクし事情を説明してここまで連れて行ってもらっていた。
馬車を運転していたおじいさんと別れてしばらく進んでいくと道の両脇が二メートルほどの雑草で生い茂っている場所に着く。
(ここがキグラシ草原ね。すごい大きな草、この草むらの中にレイジドッグが隠れているのね)
「よいしょっと」
遥はバッグからギルドの依頼書を取り出し、改めて内容を確認した。
(この草原で人を襲うレイジドッグは一匹かぁ…… 基本、他のウルフ系と違ってこの魔物は群では行動しないようね)
あたりを警戒しながら遥が草原の道を進んでいくと広い場所に出る。
「ここら辺でいいかな?」
広い場所の中央に腰をかけるとバッグからライミから貰った魔物の餌を取り出した。
(これを撒けば本当にレイジドッグが現れるのかな)
袋をあけクンクンと匂いを嗅いだが何の匂いも感じだれない。
(ライミさんが言ったように本当に無臭だ。大丈夫かな?)
ライミの話の通りだと人間には無臭だかレイジドッグのような鼻が利く魔物には美味しそうな匂いを感じるとの事だった。
早速、遥は魔物の餌を地面にばら撒こうとした。が、その時、後方で草がガサッと揺れる音が聞こえた。
「なに?」
驚いて後ろを振り向く遥。しかし、誰もいなかった。
(気のせいかな……)
そう思いながら遥は改めて魔物の餌をばら撒こうとした。すると、突如、男性の声が聞こえた。
「姫野…… 遥だな」
「きゃ!」
遥が悲鳴を上げながら前を見ると切れ長の目で美しい容姿をした長髪の男性が目の前に立っていた。
「だ、誰?」
咄嗟に後ろに飛び男と距離を取る遥。男はそんな遥を見てニヤリと軽く笑う。
「フフ、ギルドで君を見たと言う男から魔物退治へどこぞの草原に向かったと聞いた。ここいらには魔物がでる草原はいくつかある。そのせいで私は部下と別れて君を探す事になったがどうやら私が正解だったようだ」
「おじさん…… なに? 私をなんで探しているの」
遥が怯えた表情で聞くと長髪の男は名を名乗った。
「私の名前はジャン・ドラットル。君を殺しにきた」
恐ろしい事をアッサリ言って退けるジャンに遥は恐怖を感じた。
「こ、殺すって、なぜ私を?」
殺される覚えなどない遥は理由を尋ねる。しかし、ジャンは軽く笑うだけど答えない。
「理由などこれから死ぬ君が知ってもしょうがない、さっ、さっさと終わらせるよ」
「烈火弾!」
いきなり遥は火魔法を放つ。突然の火魔法攻撃だったがジャンは軽く横に飛んでアッサリと避ける。だが、少しだけ驚いた表情をしていた。
「おっと、いきなり魔法で攻撃とは怯えて何もできないと思ったが油断できないな」
遥が放った火の玉は草むらにぶつかると草が燃え始める。
「おいおい、考えなしに魔法を放つな、火事になるだろう」
そう言うとジャンは右の蹴りを燃えている草に向かって放つとその風圧で火があっという間に消えてします。
火が消えるのを確認したジャンは改めて遥の方を向く。だが、そこに遥の姿はなかった。
「ほう、面白い女だな」
ジャンは辺りを見回すと草むらの雑草が折れ人が通ったような跡を見つけた。
「姫野遥、子供と思って油断してしまったな。だがこの私から逃げられんぞ」
ジャンは遥を捕まえるため草むらの中に入っていった。




