第五十七話
「う、うう…… く、くそ。う、動け……」
僕は血を吐きながらも何とか右手を動かしバッグから傷回復薬を取り出そうとした。
だが、手が震えて取り出すことができない。
な、なんてことだ。や、やばい…… このままだと全滅だ。
僕はヴァンパイア・ルガトと戦っている姫野さん達の方を見た。するとクレアさんがスキル『トラッキングアロー』を放っていた。
しかしルガトはその攻撃を軽くジャンプをしながら避けている。クレアさんの『トラッキングアロー』はまだレベル2だ。それだと矢の追跡攻撃は5回までしか行わない。それ以上だと魔力が切れて追跡をやめてしまう。
ルガトは旋回し再度、襲ってくる矢を軽々と避けていた。
ダ、ダメか…… ルガトにはクレアさんのスキルは通用しない…… と思ったが、なんと姫野さんがやってくれた。ルガトが矢を避けて着地した場所を予め予測して、その場所に向かって姫野さんが火魔法レイジングブレッドを放ったのだ。
ドンという火魔法がぶつかる衝撃音が聞こえるとルガトは後方に吹っ飛ぶ。アンデット系の魔物に火属性の攻撃は非常に有効だ。ルガトはゴロゴロと地面を転がった。
その隙をついて神父が僕に回復魔法をかけるとすぐさま防御魔法の「エンタープロテクト」をかけ全員の防御力を上げる。
傷が回復した僕はなんとか立ち上がった。
「大丈夫、黒羽くん!」
姫野さんたちが僕の元へ走ってきた。
「ああ、素晴らしい戦い方だ。姫野さん、驚いたよ」
「もう、だから私達と連携して戦いましょうって言ったのに」
姫野さんが口をとんがらせて僕を軽く睨んでいる。
「ご、ごめん」
どうやら僕は姫野さんたちを軽く見ていたようだ。
「龍斗、だけど。どうやって奴を倒す」
そう、確かに姫野さんはよくやったがあれだけではルガトは倒せない。その証拠にルガトは何事もなかったようにスクッと立ち上がった。
ルガトは倒された事に腹が立ったようで憤怒の表情で僕らを睨んでいた。
「や、やばいな。どうやら怒らせちまったようだ」
そう言いながら僕は剣を構える。
「とりあえず僕がアイツと正面から戦う。みんなは隙を見て左右から攻撃してくれ」
「それで大丈夫か。さっきも全く歯が立たなくて死にそうになったじゃねーか」
神父がそう言うと僕は何も言い返せずに黙ってしまった。
確かに、ルガトの強さは桁違いだ。正直、今の僕では真正面から戦ったら瞬殺される可能性の方が大きい。しかし、他に方法がない。そう僕が悩んでいると姫野さんが何かを思いついたのかハッとした顔をする。
「そうだわ。確かクレアさんは『蒼目族』ってやつなんだよね。確かその一族は覚醒できるって言っていたけど、クレアさんそれ出来ない?」
姫野さんの突然の申し出にクレアさんはビックリして首を左右に振った。
「で、出来ません。と言うかその『蒼目族』って何ですか、私は初めて聞きました」
「そ、そうなんだ。ごめんなさい」
姫野さんがションボリしてクレアさんに謝った。
『蒼目族』の覚醒は発動すると全ステータスが短時間だが急激に跳ね上がる特殊能力だ。しかし、その覚醒が発動するには今のクレアさんでは残念だがレベルが足りない。
「そんな、気にしないでください。ただ、私、本当にわからなくて。こちらこそごめんなさい」
クレアさんは慌てて落ち込んでる姫野さんをフォローしている。そしてそのクレアさんを神父が思いつめた表情で見て何かを呟いている事に僕は気づいた。
「……『蒼目族』。まさか、モンジュの村がその一族の人間だったとは」
「どうしたんだ。何を呟いてるんだ。ベネディクト神父?」
僕は気になって声をかける。
「いや、別に…… それより向かってくるぞ!」
「ああ」
僕は戦いに集中した。
「とりあえず、やるしかない。俺が行く! あとは成り行きだ!」
ルガトに向かって僕は走り出した。
「えい!」
僕は水平に剣を振る。しかし、ルガトはそれを長い爪で簡単に受けた。
「フン、その程度か」
ルガトの蹴りが僕の腹に入ると衝撃で後方に吹っ飛んだ。しかし、クルリと一回転して見事に着地する。
危ない、危ない、どうやら神父の防御魔法のおかげでダメージを軽減することが出来たようだ。
しかしルガトの攻撃は休むことがない。その伸びた両手の爪を広げ僕に向かってきた。
「来やがれクソッタレ!」
僕は自分を奮い立たせるように汚い言葉をルガトをぶつける。そして軽くジャンプをすると落下する勢いを利用して剣を振り下ろした。ビュンと風を切る音が聞こえると僕の剣はルガトの顔面を捉えた。
しかし、呆気なく僕の剣はルガトの爪に防御された。そしてルガトは受けた爪をクルリと回転させると鋼の剣は僕の手から離れ宙に飛んでいく。
「しまった!」
まずい! 僕が無防備になるとルガトは爪を振り上げ攻撃してきた。が、その攻撃は途中で止まる。そして何かが飛んでくる気配を察知したルガトはサッと後方へ飛び退いた。すると、左右から弓矢と火の玉が横から飛んできた。
「黒羽くん!大丈夫?」
どうやら姫野さんとクレアさんのサポートに助けれたみたいだ。
「ああ、大丈夫だ!」
僕は宙に舞った鋼の剣をジャンプして掴むと剣先をルガトに向けた。いいぞ、このまま仲間を信じ戦えば相手が上級魔物のヴァンパイア・ルガトだろうときっと勝てる!
仲間に勇気を貰った僕は剣先をルガトに向け叫んだ。
「さあ!来い!」




