007_師匠との出会い
「やったぞ!」
ついに狼を仕留める事が出来た。
肩で息をしながら、俺は狼が死んだ事を確認する。
ふと気がつくと、持っている剣を見ると手が震えてるのに気づく。
緊張してたんだな。
「いよぉー、お前すげぇな」
突如として、後ろから声をかけられる。
俺は驚きすぐに後方へと向き直る。
振り向くと、ハゲ頭の鬼がいた。
狼を倒して、安心しきってしまったからだろう、気力も体力も使い果たした俺は崩れ落ちた。
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ガタッ
思い切り身を起こす。
足元から振動を感じ、木材で作られた大きな箱を想像させる場所にいる。
初めて乗っていたからだろう、俺は次第にここが荷馬車の中だと気づく。
寝ちゃってたのか。
俺は狼との戦いの後、気を失ってしまっていた。
周りを見渡すと、気を失う前に見たハゲ頭の鬼がいた。
「よっ、起きたか」
「はい・・・」
「お前がウィーウルフを倒して、声かけたら気失っちまってな」
「はぁ」
「しょうがねぇから、連れてきたってわけよ!」
俺はまだ頭がしっかりと働いてない中、このハゲ頭の人に話しかけられる。
スキンヘッドに顔の彫りが深く、パッと見の印象はすごく怖いが、話してみると何だか気さくな印象だ。
「あの、この馬車はどこに向かってるんですか?」
「あぁ、近くの街へ向かっている」
「そうですか。あの、助けてくれてありがとう」
目的地からこの人が城からの捜索隊ではない事が分かり安堵する。
おそらくは街道を進んでいくとある街へと向かっているのだろう。
俺はこの世界の常識にはかなり疎いが、馬車にタダで乗っけてもらえる程、この異世界の住人は優しすぎないだろう。
運賃を後で請求されるかもな。
俺はそんな事を考えていると、ハゲ頭の人が何かを見せようとする。
「ほら」
ハゲ鬼・・・、ハゲ頭の人は俺に向かい突然、綺麗な石をこちらに放り投げてきた。
「あの、これは?」
「お前が倒したウィーウルフの魔石だ。冒険者ギルドに行けば買い取ってもらえるぞ」
「魔石・・・?」
さすがは異世界だ、おそらく倒したモンスターの体内から採取したのだろう。
俺は狼との戦いを思い出しながら、手にした魔石をじっくりと見る。
全体的に半透明だが紫色にくすんでいる小粒の石、これが俺が初めて倒したモンスターの証か。
「ところでよ、ウィーウルフとの戦闘。お前、あれが初めてだったのか?」
「あ、はい、初めての実践でした」
「ハハハ、なるほど!いやー、ウィーウルフとあそこまで真剣に渡り合ってる冒険者は初めて見たからよ!」
情けない、、、話から察するに狼…つまりウィーウルフは雑魚モンスターに違いない。
狼相手にあそこまでの大立ち回りで、俺はこの先、無事に生きていけるか不安になる。
「お前、この先どうするんだ?」
「あ、えーっと、冒険者ギルドに行って魔石を換金ですかね。あとは古銭を換金しに換金所へ行こうかなと」
「古銭・・・、変わったもの持ってるな。コレクターとかに行けば意外と高値になったりするからすぐに換金所ってのもなぁ・・・」
「はぁ」
そんな事言われても金が無い、、、それに腹も減っているのだ。
「なぁ、お前が良かったら俺に雇われねぇか?」
「え?」
「なんかよぉ、ウィーウルフとの戦闘を見ててあそこまで真剣に戦ってる姿を見たら、もっと鍛えてお前の戦闘を見てみたくなってなぁ」
ハゲ鬼の突然の提案に俺は困惑した表情を浮かべる。
しかし、こんな見ず知らずの行き倒れている男を拾って、この人には何か得があるのだろうか。
考えてみたが、、、悲しい事に一つしか思い浮かばなかった。
「違うぞ、俺はノンケだ」
声が漏れてるのか!?
と、心の中でそう叫んだが、ハゲ鬼は話を続ける。
「まぁ、突然の話ですまないな。一応、俺も冒険者として名がそこそこは通ってるんだが、もうそこまで若くないしな。後進育成の第一歩として、お前を選びたいと思ったわけよ」
「な、なるほど」
「まぁ、しばらくは俺のいる街で適当にクエストをこなしながら、ある程度慣れたら旅だな。街を出てからは俺の弟子兼使用人っていう事で日当をやるから飯はしっかり食えるぜ。あとは空いた時間で修行もつけてやる」
、、、悪くない。
これがゲームやアニメの世界では、このまま修行して強く慣れるパターンだと思い出しながら納得する。
「ちなみに街っていうのは今から行く街ですか?」
「いや、違うぞ。王国外の街になる」
俺は目的地を聞き出すと、思わずホッと息を漏らしてしまう。
色々と思い当たるところがあるとは言え、勢いで城から抜けだしている身だ。
一生懸命修行しているところを、衛兵に見つかって王様と勇者たちの前に引っ張りだされたら情けない。
「んん、なんだ王国は嫌な思い出もあるのか?というか、お前の名と経歴を聞いてからこの話をするべきだったな」
確かに。
もし俺が犯罪者で、それを修行して強くしてたりしたら、このハゲ鬼も世間様から目も当てられないだろう。
「名前は京。岡崎 京といいます。その、、、なんというか記憶を失ってしまって、気付いたらあの狼と戦っていました!犯罪者じゃない事は確かです」
「京・・・か!しかし記憶がないとは、本当か?」
ハゲ鬼は名前を聞くと俺の眼を真剣に見つめてくる。
「、、、まぁそういう設定という事にしとくか!・・・それに本当に犯罪者なら冒険者ギルドで一発で分かるしな」
このハゲ鬼が、意外と話を分かってくれる人に感謝する。
「犯罪者って冒険者ギルドでバレるもんなんですか?」
「あぁ、冒険者ギルドにも鑑定石があってな、それに手をかざした際にな。知ってるかも知れないが、犯罪者っていうのは刑期を全うしないと消えないんだよ。詐欺などの軽犯罪ならともかく、殺人などのひどい犯罪者の場合は前科もしっかり残るから冒険者ギルドには信用されなくなっちまう」
「あぁ、なるほど」
城を抜け出す際の一件で、犯罪者に落されてないか、俺はステータスプレートを確認するが大丈夫だった。
「あとな、ステータスプロフィールには裏ワザがあってな。名前や職業の表示だけ変更するってのがあるんだよ」
「という事は、簡単に詐欺が働けるって事ですよね?」
「さすがだな、その通りだ。ま、そんなことを例え冒険者ギルドで正式な依頼に対して、受注でもして発覚したら詐欺師扱いだな。そうなると簡易的だが犯罪者扱いになっちまうな」
「あぁ、なるほど。そんなリスクを犯すやつはいないって事ですね」
「そうなんだがな、こういった軽犯罪は罰金を支払えば消せる。まぁギルドは信用第一だから、罰金で消した犯罪者を消した冒険者は基本出禁になるけどな」
なるほど、実際俺もプロフィールを弄ってみたから分かるが、素性を偽って騙せばこういう目に合う訳か。
しかしあの城で生活するよりも、遥かに全うな常識を入手出来てる気がする。
「で、話は途中だったな。どうだ、俺の弟子にならないか?」
ハゲたおっさんに少女のような眼差しで見つめられる事がこんなに気色悪いとは・・・。
「分かりました!不肖ですが、俺を弟子にしてください!だからそんなに近づかなくても大丈夫ですから!」
「おぉぉ!歓迎するぞ、我が弟子よ!」
この人は話を聞いていないのか、近づくどころかその鍛えあげられた腕で俺を抱きしめる。
「イテテテ」
「おっと、すっかり忘れてた俺の名前はハルエルだ!」
「グヌゥォ、ヨロシクオネガイシマス、ハゲエルさん」
「ハルエルだ!」
俺は師匠を持てた喜びに感激し気を失ってしまう。
気を失う前に見たのは、ハゲ鬼ことハルエルさんの眩しいくらいの笑顔だった。
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