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第一章 屋上からのプロローグ その壱

誤字、脱字、気になる点などあればご指摘の程よろしくお願い致します。

では本編をお楽しみ下さい。

「ねぇ…私と付き合おうっか」


 夕日が差し込むビルの屋上で、出会い頭、唐突にそう言い放つ女性、たった今出会ったばかりの、見ず知らずの君は、長く伸びた綺麗な黒髪を生暖かい春の風で揺らし、俺を見つめる。


 そんな彼女を見つめ俺は呆然と立ち尽くしている。というよりか、彼女に見惚れているが正しいのだろうか。


 俺の名前は逆月 涼(さかつき りょう)

 三十二歳、独身、しがないコンビニ店員、いつも休憩時間に屋上にタバコを吸いに来るのだが、誰か先に屋上に居たとしても今日は先客がいるのか、と思うぐらいだ。この五階建ての小さなビルは、一階が俺の働いているコンビニでその上の二階は空きで、三階と四階にはそれぞれ別の会社が入っており五階は空きである、俺はてっきりどちらかの会社の社員さんがタバコでも吸いに来たんだろうと思った、実際たまに出くわし、目が合えば挨拶ぐらいはするようにはしている、一応同じビルのコンビニ店員として、最低限の振る舞いは意識はしているつもりだ。

 なので今日もいつも通り屋上にいた先客に軽くあいさつしようと、女性に目を向けた瞬間、『付き合おうっか』と唐突に告げられた訳だ。現状、俺は固まる事しかできずにただ彼女を見つめてしまっている。


 「ねっ、ちょっと」


 「っえ?あっ、はい……」


 「だから付き合おうかって」


 えっ付き合う?さっきも出会い頭に言ってきたが、こんな綺麗な女性が俺と付き合う?いやいや!ないない!なんのいたずらだ?自慢じゃないがこれまで人付き合いは避けて生きてきたんだぞ。友人はたった一人、俺には語るほど取り柄もエピソードも持ち合わせがない。なんなら貯金すらスズメの涙程度だ。

 これは何のいたずらだろうか、もしくは俺が知り得ない最先端の詐欺に、たった今遭遇しているのだろうか。不安そうに見つめる彼女と目が合い、俺は慌てて目を逸らし口を開く。


 「お、お金は…」


 「ん?お金?何言ってるの、ごめん、聞こえない」


 彼女は全く何の事かわからない顔をして答える、そもそも声が小さくて聞こえていないようだ。


 「お金はありません!すみません!!」


 俺は叫び、頭を下げ、すぐに彼女に背を向けて走り出す。驚いて目を丸くしている彼女を一瞬視線に捉える。(驚いている彼女も綺麗だ)なんて事を心の中で呟くが、どうしていいかわからずビルの階段へと続く屋上の扉に向かって走った。だが扉の前で足が止まる。

 目に焼き付いた彼女が脳裏によぎると同事に感じる違和感、そしてただ一人しかいない友人の言葉を思い出したからだ。


 友人の名は、安倍あべの 清正きよまさ。小さい頃からの幼馴染だ、性格は大雑把というか破天荒。見た目金髪のロン毛でチャラく見える。あんまり人と群れるのが好きではなく「一人の方が楽だわぁ」と言うのが口癖である。何の波長が合うのか昔からいつも一緒にいた。


 それは学生時代の昼時間だった。


 「なぁ清正、グランドの端に立ってる人こっちずっと見てない?なんか怖いんですけど」


 「ん?あー気のせいだろ、おやすみ」


 そう言って清正は机に顔を突っ伏し涎をたらす、そんな清正に呆れてしまう俺であったが、再度窓に顔を向けた瞬間状況が一変する。


 「はっ走ってきた、こっちに走ってきた!清正起きろ、走ってきたって」


 寝ている清正の肩を揺すり、必死になって起こした。


 「ったく気にするからあいつらは寄ってくるのさ、つーか涼は見えるのね、そっかぁやっぱり見えるのかい、よしっと」


 清正はそう言うと、だるそうに窓を空け片手を顔の近くまで上げ親指と人差し指で丸をつくる。もう片方の手はポッケに突っ込んだまま片手でつくった丸に片目を覗かせ、まるで写真でも撮るかのように「じゃぁ撮るよぅ、はいチーズ」と言った。


 「あれっ消えた、清正!見て消えた、消えたよ」


 急に消えた事に驚き、何が起きたんだと問いただすように清正を見つめる


 「まぁまぁ慌てなさんな、涼は気にしなくていい、気にすると寄ってくるのさ、あいつらは、たくさんねぇ、一人の方が楽だわぁ」


 「なんだよ寄ってくるのさって、何が寄ってくんだよ清正、教えろよ」

 

 はっきりとしない清正の返答に煮え切らないまま、ジッと清正を睨む。それに気づき片目を俺に向け面倒くさそうに清正が答える。


 「まぁ一番わかりやすいのは足だな、なんか変だなと思ったら足を見ろ、もし足首辺りに黒い糸が結んであってその糸が地面から来てるものなら、それはもう人じゃない、関わるんじゃないよって事で、おやすみ」


 いつもだるそうな清正が最後は少し真剣な目で俺を見つめ返してきた。ついでにその目はもうこの話しは終わり、とでも言うかのように鋭くなった。最後はいつも通り寝てしまったが。


 「あぁわかったよ、でもまた今みたいに出くわしてしまったら、俺が一人の時ならどうすんだよ」


 「まぁそんときは、俺が助けに行ってやるよ」


 清正が寝ながらボソッと寝言のように呟く、清正の家系は陰陽師で名高い安倍晴明あべの せいめいの本家に当たる、言わば清正は安倍晴明の末裔になる。「俺は偉いんだぞ」と昔言っていた事を思い出す。まぁこの昼時間の後にもう一騒動あったのだが、それはまた別のお話し。


 そんなツッコミどころ満載の一コマを急に思い出し、俺は今屋上の扉の前に立ち止まっている。

 俺は確認しておきたい事がある、その為にまずは振り返り、不安そうに俺を見つめる女性の綺麗な顔立ちに目線をおくり、そこから足元へと目線をおろす。


 「あっ!黒い糸あった」


 屋上に立ちすくむ女性は、目の前の男性が急に走り去り、立ち止まり、今度は振り返り際に突然言い放った言葉に混乱気味である。


 「い、糸?これ何かわかるの?私が何かわかるの?」


 「ごめん…はっきりとは分からないけど、君はその…生きてる人とは違うよね?」


 なぜだろう、俺はストレートに『幽霊なんだよね、死んでるんだよね?』なんて言葉は口にできなかった。きっと夕日を背に風に吹かれる女性が単純に綺麗であったこと、これは直感であるが決して悪いものでない気がしているからだ。

 

 そんな俺を気にかけるように女性は話し始める。


 「えっと、私死んじゃったみたいで、なんで死んだかまでは思い出せなくて…あっでもあなたのことはわかるの、あなたと付き合う事ができたら、きっと私は未来であなたを助けることができた」


 「死ぬ直前の記憶がないって事か、それより未来でって事は君は未来から来たって事?ちょっと待って情報が多すぎて…俺は未来で何かやばいことになるのか?」


 待て待て情報が追いつかない、未来から来た、死んでいることは自覚している、死ぬ前の記憶は思い出せない、俺を助けることができなった、俺は目の前の女性とは初対面である。でも念の為、これだけは聞いておかないと。


 「新手の詐欺ですか?」


 「あなたは…涼さんはこの先死にます」


 「えっ」


 完全に(新手の詐欺ですか?の件)はスルーされたようだ。むしろ返答の内容に関しては詐欺の方がまだマシだったかもしれない。


 「だから私と付き合って、涼さん」


 長く伸びた黒髪を綺麗な指で耳にかけ、そこから見える頬を伝う涙を風がさらっていく。

 そんな彼女が今一度何か伝えようと口を動かそうとした時であった。


 屋上の扉が開く。


 「全く涼は優しんだから、気にしないのが一番、だから一人の方が楽なんだよ」


 「清正?なんで?」

 

 屋上の扉を開け、タバコに火をつけ、俺を片目で見ながら長く伸びた金髪を後ろで束ねる。相変わらずだるそうに清正が現れた。


 「何故か四回結線よんかいけっせんが歪んだと思って来てみたら、ったく面倒くさっ、そんで涼は何してんの?まっ話しは後でいっか」


 清正はそう言うと片手を顔の近くまで上げ親指と人差し指で丸をつくる。もう片方の手はポッケに突っ込んだまま片手でつくった丸に片目を覗かせ、まるで写真でも撮るかのように「じゃぁ撮るよぅ、はい」


 「ちょ、ちょっと待て清正、ストップ!」


 「はぁ?ちょっ何してんの涼離せって!」


 俺は咄嗟に清正に飛びつき清正を静止させた。清正がしようとした事、それをしたら彼女がどうなるか、おおよそ察しがついた。


次回更新は本職の都合上未定となっております。

時間を作ってなるべく早く更新していきたいと思っております。

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