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ゆたかの怪奇列島第12章「テケテケ」  作者: こうた


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第8話「共存条件」


固定された“それ”は、動かない。


白い歪みは、そこに“ある”。


ななが息を整える。


「……止まってる」


ゆたかが頷く。


「見てる限りな」


神父が静かに言う。


「観測により状態が維持されています」


人面犬が鼻を鳴らす。


「見続けるしかねぇってことか?」


ゆたかは首を振る。


「それやと終わらん」


一拍。


「見続ける=関わり続けるや」


ななが眉をひそめる。


「じゃあどうすんの」


神父が言う。


「条件を整理しましょう」


静かな声で、順に並べる。


「テケテケは——」


一つ。


「観測されないと不安定になる」


二つ。


「観測されると位置が固定される」


三つ。


「位置が固定されると、距離が成立する」


一拍。


「距離が成立すると接触の危険が発生する」


ななが呟く。


「……全部つながってるやん」


ゆたかが言う。


「せや」


一拍。


「どれか一つでもズラせばええ」


人面犬が笑う。


「全部満たさせなきゃいいってことだな」


ななが少し考える。


「見ぃひん → 無視」


「見る → 固定」


一拍。


「どっちも極端やな」


ゆたかが頷く。


「せやな」


その瞬間。


“カッ”


音がわずかに鳴る。


固定されているはずの“それ”が、微かに揺れる。


神父が言う。


「干渉が再開しています」


人面犬が舌打ちする。


「黒幕だな」


ななが呟く。


「またルール変えてくるん……?」


ゆたかが低く言う。


「変えるんちゃう」


一拍。


「“崩す”んや」


“声”が響く。


「どちらでも、届く」


空気が歪む。


固定されていたはずのテケテケが、ぼやける。


ななが叫ぶ。


「また消える!!」


神父が言う。


「観測の安定が崩れています」


人面犬が笑う。


「極端が通じねぇってことか」


ゆたかが小さく言う。


「なら——中間や」


ななが振り向く。


「中間?」


ゆたかが静かに言う。


「見るけど、追わん」


一拍。


「気づくけど、意味づけせん」


神父が補足する。


「弱い観測状態」


人面犬が笑う。


「曖昧に扱うってことか」


ななが深く息を吸う。


そして、ゆっくりと“それ”を見る。


だが、凝視しない。


ただ、“そこにある”と認識するだけ。


距離を測らない。


怖さを広げない。


「……おるな」


それだけ。


“カッ”


音が鳴る。


だが、動かない。


完全には止まらない。


完全には消えない。


中途半端に“存在する”。


神父が言う。


「安定しています」


一拍。


「干渉が成立していません」


人面犬が笑う。


「これだな」


ゆたかが小さく頷く。


「共存条件や」


ななが呟く。


「……消さんでええんや」


ゆたかが答える。


「せや」


一拍。


「消されへんもんは、付き合うしかない」


“声”が再び響く。


「それでいい」


空気が静かになる。


テケテケの歪みが、ゆっくりと後退していく。


消えない。


ただ、離れていく。


関われない位置へ。


ななが息を吐く。


「……終わり?」


神父が答える。


「収束です」


人面犬が笑う。


「消えてねぇけどな」


ゆたかが言う。


「それでええ」


一拍。


「“おるけど来れん”」


ななが小さく笑う。


「変な終わり方やな……」


ゆたかも少しだけ笑う。


「それが答えや」


夜は静かに戻る。


だがその静けさの中に、確かに“何か”は残っている。


消えないもの。


だが、恐れる必要もないもの。


■ 第12章 第8話 終

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