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ゆたかの怪奇列島第12章「テケテケ」  作者: こうた


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第3話「接触点」

夜の住宅街は、もう“場所”として成立していなかった。

ななの足元の感覚が曖昧になる。

「ここ……ほんまに地面?」

ゆたかは短く答える。

「たぶん、な」

神父が静かに言う。

「空間情報が再構成されています」

人面犬が鼻を鳴らす。

「境界が溶けてるな」

その瞬間。

“カッ”

音がした。

だが今回は、誰も振り向かない。

もう慣れてしまっている。

ななが呟く。

「……またか」

ゆたかが小さく首を振る。

「違う」

一拍。

「今のは“来た”んちゃう」

神父が補足する。

「位置が確定しました」

ななが眉をひそめる。

「どういうこと?」

ゆたかは前を見る。

暗闇の中。

そこに“線”があるように見えた。

いや、線ではない。

境界。

空間の歪みの“切れ目”。

人面犬が言う。

「やっと“形”が出てきたか」

その時だった。

ななの視界の端に、白いものが映る。

細い。

長い。

そして、歪んでいる。

ななが息を呑む。

「……あれ」

ゆたかが言う。

「見えたな」

一拍。

「それが“接触点”や」

神父が静かに分析する。

「現象が固定化される座標です」

ななが一歩下がる。

「つまり……そこに近づいたら……」

ゆたかが答える。

「終わる」

短く。

その瞬間。

“カッ”

音が真横で鳴る。

ななが反射的に振り向く。

何もいない。

だが違う。

“そこにいる”

距離が壊れている。

近いのに遠い。

遠いのに近い。

神父が声を強める。

「干渉点が増加しています」

人面犬が笑う。

「囲まれてきたな」

ゆたかが一歩進む。

だが——

止まる。

「……くそ」

ななが気づく。

「動けへん?」

ゆたかは答えない。

ただ視線を動かす。

空間そのものが“重い”。

その時だった。

桃太郎が前に出る。

ゆっくりと。

何も考えずに。

“接触点”へ向かって歩く。

ななが叫ぶ。

「ちょ、待って!!」

神父が言う。

「危険です!」

しかし止まらない。

桃太郎はそのまま進む。

“カッ”

音が重なる。

だが、桃太郎には届いていない。

ななが呟く。

「なんで……当たってないみたいに見えるん……」

ゆたかが言う。

「当たってへんのちゃう」

一拍。

「当たる概念がないだけや」

神父が静かに言う。

「無心状態では接触が成立しません」

その瞬間。

白い“線”が揺れた。

接触点。

それが、わずかに歪む。

人面犬が目を細める。

「効いてるな」

ななが呟く。

「これ……止めてるん?」

ゆたかが答える。

「ちゃう」

一拍。

「“成立させてへん”だけや」

空気が一瞬だけ静かになる。

“カッ”

音が遠くなる。

そして——

近くにもなる。

ななが震える。

「もうわけわからん……」

神父が言う。

「空間が折り重なっています」

人面犬が笑う。

「接触点ってのはな」

一拍。

「境界そのものだ」

白い線が、ゆっくり揺れる。

まだ“完成していない何か”。

ななが小さく言う。

「これ、壊したら終わるやつ?」

ゆたかは短く答える。

「壊すんちゃう」

一拍。

「通すか、止めるかや」

夜は続く。

だがその夜は、もう一つの“境界”に触れていた。

■ 第12章 第3話 終

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