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ゆたかの怪奇列島第12章「テケテケ」  作者: こうた


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第1話「接近」

夜の住宅街。

静かすぎるほど静かだった。

ななが歩きながら言う。

「ここ……なんもなさすぎへん?」

ゆたかは周囲を見ながら答える。

「“何もない”のが問題や」

神父が小さく頷く。

「空間情報が希薄です」

人面犬が鼻を鳴らす。

「嫌な感じするな」

その瞬間だった。

——音がした。

「カッ」

乾いた、何かがぶつかる音。

ななが振り向く。

何もない。

「……今の何?」

返事はない。

ゆたかが低く言う。

「音だけが先に来とる」

神父が続ける。

「距離情報にズレがあります」

ななが眉をひそめる。

「どういうこと?」

ゆたかは短く答える。

「近いんか遠いんか、分からん」

再び音。

「カッ……カッ……」

今度は連続している。

足音。

だが、おかしい。

方向が定まっていない。

前にも後ろにも感じる。

ななが息を呑む。

「どこから……」

その時だった。

神父の声が少し強くなる。

「来ています」

一拍。

「認識外の速度で」

ゆたかが一歩下がる。

「速いんちゃう」

「“距離の意味がない”だけや」

人面犬が低く笑う。

「厄介なタイプだな」

ななが後ずさる。

「見えへんのに、近いって何やねん……」

その瞬間。

“カッ”

すぐ後ろで音が鳴った。

ななが振り返る。

何もない。

しかし——

空気が違う。

重さがある。

神父が言う。

「存在が観測されました」

ゆたかが短く言う。

「終わりやな」

その時だった。

視界の端に“何か”が映る。

白い。

長い。

だが、はっきり見えない。

「テケ……テケ……」

音ではなく、認識のズレのように聞こえる。

ななが固まる。

「今の……人?」

ゆたかが答えない。

ただ目を細める。

次の瞬間。

“カッ”

一気に距離が詰まる。

ななの呼吸が止まる。

「え——」

神父が即座に言う。

「離れてください!」

しかし遅い。

“カッ”

また近い。

距離が消えていく。

ななが叫ぶ。

「走っても意味ないやんこれ!!」

ゆたかが言う。

「走る概念がズレとる」

人面犬が舌打ちする。

「時間じゃなくて“間”を食ってるな」

その時、桃太郎が前に出る。

動かない。

ただ立つ。

“カッ”

音が止まる。

テケテケの気配が、一瞬揺れる。

ななが気づく。

「止まった……?」

神父が静かに言う。

「認識が固定されています」

ゆたかが小さく言う。

「無心か」

テケテケの“気配”が揺れる。

だが、消えない。

そこにいる。

ただ、届かない。

ななが呟く。

「これ……見えてるのに届かへんやつや……」

ゆたかが言う。

「逆や」

一拍。

「近すぎて見えへんねん」

風が止まる。

“カッ”

再び音。

今度は遠い。

しかし同時に、すぐ後ろにもある。

距離が壊れている。

神父が言う。

「空間認識の崩壊です」

人面犬が笑う。

「逃げ場ねぇな」

桃太郎はまだ動かない。

ただ、そこにいる。

テケテケの“気配”が揺れる。

そして、どこかへ——

引いていく。

ななが息を吐く。

「……なんやこれ」

ゆたかが静かに言う。

「追いつくもんちゃう」

一拍。

「追いつかれるもんや」

夜の静けさが戻る。

だがもう、“元の静けさ”ではない。

■ 第12章 第1話 終

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