Episode3-3
1937年(昭和12)
中学を卒業したあとの進路について明確になってきた頃、飛鳥の家でいつも通り勉強会をしていると、勉強に飽きたのか頬杖をしながら飛鳥が進路について聞いてくる。
「そろそろ進路について考えてる?僕は医者だから一高目指してる」
「俺は軍事工場かな?母さんに早く楽になってもらいたいし……文彦は?」
「ボクは……」
父親も医者である飛鳥は、生まれながらに医者になることが決まっており、本人も学がないだけで嫌がってないため、猛勉強で医者になるために日々頑張っている。
麻也の家は父親が早いうちに亡くなり、女手1つで男子二人を育てており、早く楽にさせたい一心で工場勤務を早い段階からめざしていた。中学まで通わせて貰えただけでも母親に感謝をしている。
2人が進路について明確になっている中、文彦だけが歯切れが悪そうに本から視線をずらし足元をじっと見ていた。
「文彦の頭なら帝大も余裕でしょ」
「確か夢って警官だったよね」
「……家には大学へ行く資金なんて無いよ。全部兄さんに使ってもらったからボクは軍に行こうと思ってる」
「「……え」」
文彦から軍という言葉が出ると思っていなかったため、反応に遅れてしまった2人に似合ってないよねと読んでいた本を閉じ気まずそうに笑っていた。
「士官になるんだよね?文彦の頭で士官にならなかったらこの国の損失だ」
飛鳥がいつになく真剣に文彦を見つめるが、文彦は気まずそうな顔をしたままである。文彦自身、元々軍人に興味がなく周辺が軍人になると話している時も和に加わっておらず、軍人についてよく分かっていなかった。
「なるとしたら士官だけど、陸海で迷ってるんだよね。両方受ける事も考えたけど、クソ親父からは陸に行けってうるさいんだ」
文彦の父は軍に行くと聞くと大いに喜び、金は全て家に送れと言ってくる始末。文彦にとって軍に全く興味がなかったから父親から離れることが出来ることは喜ばしいことだが、母や姉、妹たちが心配でならなかった。
「いや、文彦は絶対海軍だろ!」
「そうだよ、陸はダメだ海が文彦には合う。」
「そこまでか?まぁ、両方受けてみるよ」
文彦はくすぐったそうに笑い、飛鳥や麻也は文彦のことを応援した。文彦には君たちのほうが心配なんだがと言われたが、聞こえないふりをした。その後、文彦は陸海両方志願したが、陸は身体検査でなぜか引っ掛かり海は何事もなく通り、本人は陸を落ちたことは何とも思っていないと、集まっていた人たちに言い笑っていたが、麻也は陸軍の結果の紙が届いた日、同じく受けて合格をもらった同郷の一人を今にも殺してしまうのではないかと思うほどの目つきで睨んでいた文彦の姿を見た。いつもは何とも思っていなさそうな雰囲気を醸し出している文彦の負けず嫌いな一面をこの時麻也は初めて見ることになった。
文彦と麻也の就職が決まった中で最も忙しかったのは飛鳥だった。いつも夜遅くまで、家庭教師と文彦によってみっちりと扱かれた飛鳥は一高を目指していたが落ちて八高には奇跡的に受かったが、一高が落ちた時点で文彦にきれいに背負い投げをされ関節技を決められていたが皆で大いに祝福をした。
その後、文彦は海軍航空隊の士官パイロットとして、麻也は一度工場勤務をしていたが本人の希望で海軍に入り航空機の整備士として、飛鳥は八高から名古屋帝国大学医学部に進学しそのまま学徒出陣により陸軍の衛生士としてあの地獄を生きた。
戻ってこれたのは麻也と飛鳥の二名だけで、あの頃馬鹿を三人組と笑いあった三人が集まることは一切なかった。




