刻印の秘密<最終話>
そこから現れたのは一組の男女だった。
一人は太陽の輝きさえも彼の前では陰りを見せるかのような黄金の髪に白皙の美貌―――
もう一人は漆黒の天鵝絨のような黒髪の艶やかな美の女神のような女性―――
先刻ヒルデに彼女よりも美しい黒髪と姿をした女性とレギナルトが言ったのはこの人物だった。その一対にレギナルトが並べばその圧倒的な迫力と美しさは神殿の天井画に描かれるような天冥界の神々のようだ。
レギナルトはそれぞれを紹介した。
「オラール王国の王位継承者ジェラール王子と 〝天の花嫁〟 のフェリシテ譲だ」
オラール王国ではつい最近、〝天の花嫁〟 の出現と大神官の反逆に伴う王子暗殺と云う国家的大事件があったばかりだった。十三年前に王位継承者であったジェラール王子が暗殺されていた事になっていたが実は双子の弟王子ユベールの方が手違いで殺されていたのだ。しかし犯人を追う為にジェラールは誰に告げる事無くその身をユベールと偽り続けていたのだ。そこへ 〝天の花嫁〟 が現れ一気に犯人があぶりだされて事件が解決した次第だ。その騒ぎも冷めぬ中、その中心人物である二人が現れたのだから驚きだった。
年長者であるゲーゼは格式高く挨拶はしたが、興奮を抑えるのに必死の様子だった。天冥の花嫁が同時期に揃うのは滅多に無く、冥の花嫁ばかりか目の前には天の花嫁までいるのだから神に仕える身として興奮しない方がおかしいぐらいだ。
ゲーゼの挨拶を受けたジェラール王子の視線がティアナに止まった。王子は豪奢な、と云う表現が相応しい笑顔でティアナに近づくと、微笑みかけられた相手が赤面するくらい更に微笑みを深め親しげに話しかけてきた。
「君が 〝冥の花嫁〟 のティアナだね? 会いたかったよ。あのレギナルト殿にあそこまで言わせる女性はどんな人だろうと思っていたけど…想像以上だね。まるで宵の明星のように輝きに満ちて麗しく…その瑠璃色の瞳は太陽に煌く果てしない海にも似て溺れそうだよ」
ティアナは慣れない美辞麗句もさることながら太陽神の如きと云われるその美貌で間近で囁かれると、好意とは関係なく真っ赤になってしまった。
フェリシテは呆れてジェラールを見たが、彼は愉快そうにレギナルトの様子を伺っている。レギナルトはと云うと気分を害している様子だ。それはそうだ、自分の花嫁に他の男が言い寄っているようなものだからだ。二人はレギナルトの記憶の事はエリクから聞いていた。だから皇子がオラール王国でジェラールに言った言葉も忘れているだろうと思う。フェリシテに対してはっきりしないジェラールに発破をかけたその言葉の根本はティアナとの経験からきた忠告だったからだ。
傍から見てもあれほど愛していた者を忘れるなど、どちらも哀れだ。
フェリシテは思った。自分がティアナと同じ立場だったらなんと悲しくて耐えられない苦しみだろうかと…
ジェラールはレギナルトの心を計っているようだった。エリクの話しを完全に信じた訳では無かったが、別れてさほど月日が経っていないのにレギナルトの雰囲気は全く異なっていた。オラール王国の地で愛しい者に想いを馳せていた瞳は何も語っていなかったのだ。出逢う前の噂に聞いていた建国王の再来とも云われた氷のように冷徹な皇子がそこにいた。しかし自分がレギナルトを見るフェリシテに苛立ちを覚えたようにその逆もあるのでは? と思ったが当たりだった。無関心ならばあの皇子が表情を変える筈は無い。
(なるほどね…)
ジェラールはティアナの手を取り、その甲に挨拶の口づけした後もその手を放さなかった。そしてにっこりと微笑んで再び口を開きかけたが、レギナルトがそれを遮った。
「ジェラール殿!用件を続けさせて貰うが宜しいか?」
ジェラールはティアナの手を放すと大きく肩をすくませ、どうぞ、と言った。レギナルトは不機嫌な様子でそれを確かめるとエリクに合図を送った。
エリクがそれを受けて事の経緯を説明しだした。物的証拠があってもそれは結局、状況判断でしかなく確証とは云えなかった。その為、更に調査を広げ同じく神の花嫁を迎えるオラール王国へと向かったのだった。
「―――そこでジェラール王子よりもたらされた情報が今回の判定に最も相応しいと思われます。では準備をしてまいります」
エリクがそう締め括って退室して行くのを視線で追いながらゲーゼが問うた。
「我々の文献には判定の仕方などございませんでしたが 〝天の花嫁〟 にはそのような事例があったのでございますかな?」
「いや、これは私の実体験だから天の花嫁と云うのでは無く 〝刻印〟 に関する事ということになるかな?」
「太陽の刻印でございますな?」
「そう、〝太陽の刻印〟 これは星も太陽も同じだからね。先日の王国での騒動は既に知っていると思うけど、その件もあって此方の帝国に礼儀を欠いたままだったから突然来訪させてもらった次第で。それに 〝冥の花嫁〟 の真偽は我が王国にも関わる問題だからね。帝国が乱れれば我が国も影響が出る。だから我々もその真偽に口を出させてもらいますよ」
当然だ、とゲーゼは頷いた。
「それで、方法は?」
二人の 〝冥の花嫁〟 はジェラールに注目した。
彼はにっこりと微笑むと着衣の胸元の留め金を外し大きく開いた。なめらかな肌に逞しく隆起した胸には金色の太陽を模った刻印が浮かんでいた。オラール王国の王位継承者の証である 〝太陽の刻印〟 だ。その刻印に右手を這わせながらジェラールは声を低くしながら 〝冥の花嫁〟 達にゆっくりと話し出した。
「私は髪の癖から爪の形までそっくりだった双子の弟と入れ替わらなければならなかった。だけどそれにはこの刻印が邪魔だったんだ。当然だろう?これがあれば直ぐに私だと分かってしまうのだから――そこで私はこの刻印を消そうと思ったんだ……これを刃で切り取ってみたり、焼いてみたりしてね…」
ティアナは、あっ、と悲鳴をあげそうになりそうになり思わず両手で口を塞いだ。そして、信じられない、と言うように大きく瞳を見開いてジェラール王子を見た。
「失礼。お嬢さん方には刺激が強すぎたようだね。でも、そんな事をしてもご覧の通り傷跡一つ無く元に戻る。これはそんなふうに出来ているんだろうね…」
「ま、まさか……」
ヒルデは今度ばかりは顔色を無くしていた。
「その、まさかです。そんな事をして痛いのは仕方が無いけど本物なら大丈夫、元に戻るからね。さあ、始めようか?どうぞ」
いつの間にかエリクが火鉢を運んで来ていた。その中には真っ赤になった焼印が二本くべられている。それは罪人に使うものだった。元に戻れば本物、そのまま罪人の烙印が残ればその烙印の示すように罪人となる。しかもこの刑罰で死ぬ者も少なくないのだ。
肌が焼け何日も悶え苦しむのだから―――
炭がパチパチと弾けて炎が揺れる中にその焼印が恐ろしく赤々と紅石のように光っていた。ヒルデは一歩一歩と後ろへ下がったが、エリクに後ろから両肩をつかまれ止められてしまった。そして彼は掴んだ手に力を込めながら耳元で囁いた。
「自分で焼印を当てるなど勇気がいるでしょうから此方でいたしましょうか?」
「ひっ! や、やめて―――っ」
その時、火鉢の炎が弾けた!焼印を取り出したからだった。その焼印を取り出したのはエリクでは無く、ティアナだった。彼女は素早く緩めた服から覗く星の刻印めがけてその焼印を当てようとしたのだった。肌に触れる寸前で彼女の手をレギナルトが掴んだ。二人の瞳と瞳が絡む。大きく見開いた瑠璃色の瞳と燃える紫の炎のような瞳―――
ティアナは叫んだ!
「放して! 証明するのよ! 私が皇子の花嫁だっていうのを! お願い、放して!」
焼印を持つ手に力を込めるティアナからレギナルトはそれを奪い取り、床に払い落とした。真っ赤に焼けた焼印は床の絨毯をたちどころに焦がし始めた。
レギナルトは掴んだ手を強く引き寄せ華奢なティアナの身体を強くかき抱くと、大きく長く息を吐いた。そしてくぐもった声で呟いた。
「馬鹿な事を―――が止まるかと思った…」
その言葉を聞いた途端ティアナの抗っていた手が急に大人しくなった。激しく強く抱かれるままその身を皇子に委ねレギナルトを見上げた。
きつく瞳を閉じていたレギナルトは沈痛の色を浮かべた瞳でティアナを見た。まさか彼女がこのような行動に出るなど予想していなかったのだ。ヒルデガルトに対する脅しのつもりだった。男でさえ震え上がるような焼印を出せば白状すると思っていたのだ。それを自らの証明としてティアナが手を出すとは思ってもいなかった。
大人しい彼女の心に秘められた自分への強い想いを認めずにはいられない。ティアナは叫んだのだ、
『私が皇子の花嫁だっていうのを!』証明すると―――なんと云う心地良い独占欲では無いか?
(私を自分のものだと主張する彼女にこれ程嬉しく感じるとは…)
胸に広がるこの想いは逃れようの無いものだった。〝愛しい〟 と云う言葉でしか表せないものだった。今まで自分が否定し愚かな行為と嫌悪さえ抱いていたものに心が振り回されるとは思わなかった。レギナルトは微笑んだ。その紫の瞳はかつてティアナを見つめる時の穏やかで愛に溢れていた時と同じものだった。
「あっ―――」
ティアナは言葉にならなかった。胸がいっぱいになり大きく見開いた瞳からは真珠のような涙が頬をつたってこぼれた。
「お前が私の花嫁だ。例えそれが間違いで帝国が滅びようとも私は構わない。愛している。それで地上の全てを敵に回したとしても私はお前を選ぼう…」
レギナルトはティアナの頬につたう涙にそっと口づけをした。
ティアナの真実の愛を信じたレギナルトは再び愛に芽生え、とうとう認めたのだった。
ジェラールは以前レギナルトが言っていた言葉を思い出していた。
『――彼女を他の男に渡しなどしない。そう他の全てを滅しても…』と。
記憶が無くても全く同じような事を言っているのだから 〝愛〟 と云う大きな力を感じるのだった。
(まあ、自分も人の事言えないけどね)
ジェラールは愛しいフェリシテを引き寄せると頭に口づけをした。フェリシテは、甘える王子を睨みながらも大人しく彼がしたいようにさせた。
一方エリクに押さえ込まれていたヒルデは観念したようだった。力なく床にしゃがみ込んで独り言をブツブツ言っていた。
「――なによ。わたしくしが 〝冥の花嫁〟 なのよ。陰気で暗いファネールからやっと出られたのよ。これからなのに…皆がわたくしを見上げて褒め称えていたのに。嫌、嫌、ファネールに戻りたく無い! 嫌よ。わたくしはやっと光りの中に出られたのよ。嫌! ファネールになんか戻らないわ!」
「お可哀そうなヒルデ様…」
錯乱するヒルデを庇うようにイルマが寄り添って涙していた。
レギナルトはティアナをその腕から放す事無く、ヒルデに向かって言った。
「ファネールになど戻るのでは無い。そなたは大罪を犯したのだから行く場所は冥の国だ!愚かなそなたの為にファネールは再び無の土地となろう」
ヒルデは力無く呆然と天井を見上げた。夢が消えてしまったのだ。どんな事をしてもあの土地から抜け出して光りの当たる場所へ出たかった。どんなに憧れたか―――
長過ぎる罰―――そのまま朽ち果てると思っていたところにリィンと出会い野心が芽生えてしまったのだ。その野心は膨れ上がり頂点をも目指してしまった。
昔から聞かされ続け恐れていても憧れてやまなかった皇家への想い―――
エリクとハーロルトはそれぞれヒルデとイルマを立ち上がらせて引き立て始めた。
「待って!」
ティアナはレギナルトの腕から抜け出し皇子に向かい合った。
「皇子、お願いです。彼女達を許してあげて下さい。お願いします!」
「何を馬鹿な!」
「彼女達だって被害者です! 何十年前の顔も知らない人の罪で関係の無い多くの人々が苦しめられていたのでしょう? それこそ酷いわ!」
「ティアナ!」「ティアナ様!」
駄目だと制するようにゲーゼとハーロルトが彼女の名を呼んだ。皇家への罪は一般的な罪とは違うのだ。当然処罰も厳しいのは当たり前だった。今回のファネールへの恩赦も異例中の異例だったくらいなのだ。そこへティアナの皇家批判ともとれる発言にゲーゼとハーロルトは皇子の勘気を恐れた。
「お前はこの者に罪は無く、先の皇帝に罪があると言うのか?」
「そうです!やり過ぎだわ!罪を認めて改心する人だっているもの。それを何十年も課すなんて馬鹿だわ!心が歪んでしまうのも当たり前よ!」
皆、ぎょっ、とした。ついに 〝馬鹿〟 呼ばわりしたのだ。
誇り高い皇子は激怒すると思ったが予想に反してレギナルトは笑い出した。
「ははははっ、馬鹿か。そうだな、馬鹿だな。私もそう思う。お前の言う通りだ」
ティアナもだが、皆も驚いて顔を見合わせた。
「ティアナお前の気持ちは良く分かったが幼き時より培われて歪んでしまった心はそう簡単に変われるものでは無いと思わないか?」
「それは…」
「僕が取っちゃおうか?」
大人しく様子を伺っていたリィンが、ぽつりと言った。
「取るって? 何を?」
ティアナはまさかと思った。
「ヒルデの一番大事にしているものを取れば良いんでしょう? 違うの?」
「!」
「ヒルデはお姫様になりたかったんだよね。今だって十分にお姫様みたいだったのにね」
「おい、チビちゃんはもしかして森に住んでいて何時もそんな事をしていたのかい?大事なものを取っていたとか?」
ベッケラートは注意深く聞いてみると、リィンは頷いた。
「なんで?」
「あのね、僕…寂しかったんだ。でも色んな人のそれを見るととても楽しかったんだ。時々、嫌なものもあったけどね。それは直ぐ消しちゃったけど。今一番のお気に入りは…」
リィンは、チラリ、とレギナルトを見た。
「まさか皇子の記憶?」
リィンは、コクリ、と頷いた。
「ティアナがとってもきれいであったかくて幸せな気分になるんだ」
自慢そうにリィンは首に下げていた色が変化する玉を覗き込みながら言った。
〝真実の森〟 の不思議はこの妖人の仕業だったのだ。人々の気に入った大事な想いをその玉に封じ込め自分の寂しさを紛らわしていたのだろう。そこへヒルデが現れて嬉しかったに違い無い何でも言う事を聞いてしまったのは仕方が無いことだ。もちろん皇子の記憶もヒルデの策略によるものだった。リィンは想いが強いものしか記憶を抜く事が出来ない。もし皇子の記憶が抜く程の想いのものが無ければそれでも良く、あれば好都合だったのだ。それが見事に的中したのだった。
レギナルトは憤りを覚えた。 〝記憶〟 を無くして再びティアナを愛したと云っても愛する人のどんな事でも忘れたく無いのが当然だ。皆が口々に語ったものも全て思い出すこともなく、それが彼の心の片隅に影を落としていたのだ。
「お前が!」
レギナルトの声にリィンは震えあがった。
ティアナは皇子の袖を引っ張って止めると直ぐ、リィンと同じ高さになるようにしゃがんで優しく尋ねた。
「ねえ、リィン。その中に入っているのを皆に返してくれない?大事なものだって分かっているけど、それを取られた人達にとっても大事なものだったのよ。分かるでしょ?それにもう私はリィンのお友達でしょう?寂しく無いわよね?」
「―――うん。わかった」
リィンは頷くと玉を両手で包み込むように持った。すると玉の色が内側から光だし部屋中、霧がかかったようになったかと思うと眩しく全体が輝き光の粒のようなものがキラキラと降り注いだのだ。大半は窓を押し開けて空へと舞い上がって行った。それぞれの持ち主の所へと向かったのだろう。
レギナルトはその光りに包まれて輝いていた。脳裏には次から次へと記憶が蘇ってきたのだ。瞬時に再び体験しているようなものだった。全てを取り戻したレギナルトは瞳を閉じた。そして再び開いた時に映ったのは心配そうに自分を見つめているティアナだった。レギナルトは静かに微笑んだ。
「心配かけた…辛かっただろう?すまない…だが私は記憶を無くしても何度でも、お前に恋をしよう…愛しているティアナ」
ティアナはもう前が見えなかった。涙で霞んでしまっているからだ。止めどなく流れる涙を拭わずレギナルトの胸で泣きながらも答えようとするが言葉にならない。
「…わ、わたしも――」
「ああ、分かっている」
レギナルトは泣き止まない彼女の顔に優しく口づけの雨を降らせた。それから震えるティアナの唇を初めは軽くついばむように口づけていたが次第に深く重ねていった。すると何時の間にかティアナの涙は止まっていった。
「これが皇子の最終手段なのね?」
フェリシテが小さい声でエリクに尋ねるとエリクは笑って頷いた。
「何? フェリシテ何のこと?」
秘密っぽい二人の会話にジェラールが聞き返して来た。
「ああ、私がほら、泣いてレギナルト皇子の所に行ったことがあるでしょう? その時、泣き止まない私に 〝レギナルト皇子の最終手段にお願いしますよ〟 って彼が脅した訳よ。だから最終手段ってあれね? って聞いたのよ」
「な! なんだって!」
ジェラールが大きな声をあげたのでレギナルト達は我に返って顔を上げて彼を見た。
「ちょっと、フェリシテ!あれをされた訳?レギナルト殿! 貴殿は何もしていないと言ったじゃ無いか!」
「何の話だ? いったい」
「もうっ! ジェラールされたとか言ってないでしょう?そうしますよと言われただけで驚いて泣き止んだのよ!」
「えっ、そうなの?」
「そうよ。する訳無いでしょう?」
「そうです。天の姫は直ぐ泣き止まれましたので…それに比べティアナ様はなかなかでして皇子のあれで止まる次第で」
エリクは、チラチラ、とティアナ達を見ながら返答していた。
「だから何の話をしているのかと言っている! エリク!」
レギナルトは意味有り気に三人で話している内容が自分の事を言っているだろうと感じて詰問した。
エリクは自分の唇に人差し指を当てて、
「皇子の最終手段についてですよ」
「なんっ!」
オラール王国でエリクが冗談混じりに言っていた言葉だったが、意味をティアナが知れば恥ずかしがりやの彼女の事、大変な事になるのは明白だった。レギナルトはいきなり話を変えることにした。
「ベッケラート! 彼女の胸の刻印はもちろん消せるな?」
「えっ? そりゃ~出来ない事は無いが――」
「ベッケラート! つべこべ言わずにやれ! それを消した後は、この者の歪んだ心の記憶を抜くように。そしてファネールへ送り返せ。元に戻ったファネールでならもう二度と馬鹿な考えを育む事も無いだろう」
「皇子!」
ティアナは喜んで思わずレギナルトに抱きついた。それを抱き返しながらレギナルトは他の者達に 〝さっさと去れ! 〟 と手を振って合図する。
皆、皇子のその様子に呆れたが仕方が無いかと苦笑しながらそっと退室して行った。
二人だけになったところでレギナルトは懐から鍵を取り出してティアナに渡した。
「?」
「お前の部屋の鍵だ。バルバラが文字通り死守したものだ」
「私の部屋の鍵?」
「そうだ。もちろん帰って来てくれるだろうな?もしも花屋に戻ると言うなら又、攫って来るまでだが?」
ティアナは答える代わりに微笑んで背伸びするとレギナルトに耳打ちした。
〝どうぞ、攫ってください〟
「承知した」
レギナルトは軽々とティアナを抱き上げて笑った。そして再び彼女に囁いた。
〝何度でもお前に恋をしよう。愛しているティアナ―――〟
ジェラール&フェリシテも登場して無事に何とか収まりました。記憶を失くしても再び恋に落ちるレギナルトが見所でしたが、今回は前作で書き足りなかったティアナのレギナルトへの想いの強さを表現出来て良かったです。次回作は外伝ですが、この直後で主人公はドロテーです。そしてそのお相手は…???




