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 わたしの手を取ったまま、透くんは黙り込んだ。いや、正確に言えば、何かを言おうとはしているのだが。

 わたしが手を握り返すと、びくり、と一瞬驚いた様子だったものの、すぐに、先ほどよりもきつく手を握りしめてくる。


「――僕は、どんなものでもいただけるのなら嬉しいです。時計でも、それこそ、簪だって。髪なんて、伸ばせばいいんですから」


 まっすぐにわたしを見つめてくる徹君の瞳は熱っぽくて、恥ずかしさに目をそらしたいのに、そらせない。


「本当は、まだ早いのかもしれないけれど――僕と、結婚してください」


 まだ早い、の意味がわたしには理解できなかった。そんなことよりも、プロポーズされたという事実の方に意識を持っていかれてしまったから。

 顔が熱い。

 多分、透くんの手に負けないくらい。


「はい――お願いします」


 結婚を前提にした告白をわたしからするつもりだったから、万道具の候補や、言葉なんかは色々考えていたけれど、プロポーズされることを想像なんかしていなくて。おかげで、わたしはなんのひねりもない言葉を返す羽目になってしまった。こういうのって、もっとなにか言えたらいいんだろうけど。


 ぱあ、と顔を明るくした透くんが、ぎゅ、とわたしのことを抱きしめる。ばくばくとうるさい心臓はどちらのものか分からない。もしかしたら、両方とも、なのかもしれないけど。

 心音が聞こえてくるんじゃないか、って思うくらい早鐘を打つ心臓は痛いくらいなのに、なんだか、すごく、生きてる、って思った。


「――ところで、どんなものでも受け取ってくれるんだよね」


 わたしがそんなことを言い出すものだから、ふ、と、わたしを抱きしめる透くんの腕の力が緩まる。


「……万結さん?」


「いやあ、本当はね、『万年刻』とか、『花簪』とか、他にも色々作ってみたいものがあったんだよ」


 万年刻は文字通り、一万年でも時間が狂わない時計の万道具。まあ、一万年、なんて実証したものはないので、理論上なのだが。花簪は、季節に合わせて本当に花が咲くかのように、造花部分がつぼみになったり花開いたりする簪のこと。

 どちらもプロポーズのときに使う万道具ではあるのだが――どちらも素材の調達が難しく、馬鹿みたいに時間と金がかかる万道具だ。


 他にもいくつか候補はあったものの、時間とお金、はたまた労力などが莫大にかかるため、諦めざるを得なかったのだ。結婚を前提にした告白を、早くしたかったから。

 でも、こうして、もうプロポーズされてしまったのなら――話は別である。


「折角ならこれを期に作りたい万道具、一杯あるの。ね、受け取ってくれるんでしょ?」


 そう言うと、ゆっくりとわたしを引きはがした透くんが、「仕方ないですね」と呆れたような笑顔を浮かべた。この期に及んでまた万道具の話してる、とでも思ったのだろう。


 ――まあ、でも、透くんの、このちょっと困ったような呆れ笑いがわたしは世界で一番好きなんだけど。

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