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――数か月後。
紫司馬を逃がすためにあれこれ万道具を作り続け、ついでに修理依頼や制作依頼をまとめて片付けたため、ずっと店を閉めていたが、今日から再び開店する。こんなにも長い間臨時休業にしていたのは初めてかもしれない。
何度か常連さんが様子をうかがいに来てくれたけど、万道具制作が立て込んでて、と言えばすぐに納得してくれた。最初こそ、体調が悪いのか、とか、怪我をしたのか、とか、心配してくれた人も、一発で納得していて、少し不満に思ったものの、透くんに「日頃の言動が原因でしょうね」とバッサリ言われてからは諦めた。まあ、そうね、わたしも自分でそう思う。
「――万結!」
店先で開店準備をしていると、名前を呼ばれる。振り返ると、そこには姫鶴がいた。
「しばらく店を閉めてたみたいだから、どうしたのかと思ったけど……」
「ああ、まあ……。ちょっと、万道具の製作が立て込んでて」
「あら、そうなの」
姫鶴も一発で納得してしまった。……そこまでわたしって、万道具に目がないように見える? そんなに酷い?
「もしかして、何か用事だった?」
わたしが問うと、何故か姫鶴がパッと顔を赤くした。もじもじと、照れている。何かそんなに変なこと、言っただろうか。
「ま、まあ、そう、そうね。用事と言えば、用事よ。その、話したいことがあるから、今度時間作れる?」
「一気に万道具作ったし、暇なくらい。今日の閉店後とかでも全然平気」
店に並べる万道具すらまとめて作ってしまったので、閉店後は本当に時間がある。普段だったらそのまま修理依頼とか制作依頼に取り掛かるんだけどね。あのときは、あまり作らないタイプの万道具を一杯作ってハイになっていたのだ。
「じゃあ、店が終わる頃にまた――」
「店長、透が呼んでる」
姫鶴と会話をしていると、割って入ってくるように一人の青年が店の中から声をかけてくる。よくもまあ、このタイミングで出てくるな、と思ったけれど――姫鶴は目をまたたかせて驚いていた。
「あらまあ……新しい店員?」
姫鶴は可愛らしく小首を傾げる。……ああ、気づいていないのか。よかった。
姫鶴すら騙せるのなら、もう、問題はないに違いない。
「ドーモ、最近ここのバイトになった白陽デス。よろしくな」
ところどろこ淡い紫のメッシュが入った長い白髪をポニーテールにしている、ちょっと柄の悪そうな青年。髪も目も色素が薄いから、顔から首元にある刺青が酷く目立つ。
わざとらしい敬語ではあるけれど、言葉に棘がないからか、姫鶴はあまり警戒していないようだった。
――まあ、彼、紫司馬なんだけど。




