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第4話 要望

「玉藻……前」

「何じゃ聞いたことも無いか? まあ今時と言う奴かも知れんな」

「あ、いえ。聞いた事ぐらいはあるんですけど」


 妖怪関係に詳しくなくても知っている人も多いビックネームではあったが、詳しくない叶夜には凄い強いというイメージしかない。

 だが失礼にも取れる態度を取られても、玉藻は怒った様子もなく再び桜の根元に座り込む。


「気にするでない。伝承というのは廃れていくもの、我とて例外ではない。と言うよりも我の場合は廃れた方が良い部類ではあるが」

「は、はぁ」


 知らない叶夜にはどうにも答えられない話のため、気の抜けた返事をしてしまう。

 そんな事は知った事ではないと言わんばかりに、玉藻は再び盃で酒を飲み始める。

 まるでアルコールは入っていないかのように飲み干していくが、漂う匂いが嫌でも酒だという事を理解させた。

 他にやる事もなく、ジッと飲む姿を見ていた叶夜に玉藻は盃を目の前に差し出す。


「飲むか?」

「え? い、いや。飲める歳じゃないんで」

「そうじゃった。人間はめんどくさいのう」


 文句を言いながら玉藻は盃に入っていた酒を飲み干すと、逆の手で新しい盃を取り出した。


「ほれ水じゃ。流石にこれなら飲めるじゃろ?」

「あ、ありがとうございます」


 言われるがままに盃を受け取った叶夜は、一応匂いを嗅いでただの水である事を確認してから一口飲む。

 間違いなく水ではあったが、限界を超えた体にはまるで薬のように染みわたっていく。


「ゆっくり飲むんじゃぞ。今は良くても体は確実に悲鳴を上げておるんじゃから」


 一杯の水を少しずつ飲んでいく叶夜に、玉藻は言葉をかけながら次々に酒を飲み続けていく。

 しばらくそんな時間が過ぎていったが、飲み終えた叶夜は気になっていた事を質問してみる。


「あの。助けてくれたのは玉藻さん、って事でいいんですよね」

「さん付けとは新しい呼び方じゃな。まあ一応助けたという形になるかの」


 呼び方が気に入ったのか、狐耳をピクピクと動かしながら機嫌良さそうに答える玉藻。

 一方で答えを聞いた叶夜は立ち上がると、玉藻に向かって頭を下げる。


「ありがとうございました」

「気にするでない。単に我の都合で助けたに過ぎん」

「だとしても。玉藻さんのお陰で助かったので、礼を言わせてください」

「分かった分かった。受け取るから頭を上げよ、酒が不味くなる」


 本気で嫌そうに言われたので叶夜が頭を上げると、満足そうに笑みを浮かべ玉藻は酒を飲むのを再開させる。

 あまりにも絵になる姿に思わず見惚れる叶夜であったが、まだ質問する事があるのを思い出す。


「えっと、玉藻さん」

「何じゃ?」

「どうして助けてくれたんですか? 見返りが欲しいって訳でも無さそうですし」

「別に大した理由ではない。単に気骨がありそうじゃから気になった。それだけじゃ」

「そう、ですか」


 思わず特別な力でもあるのかと疑った自分を恥じながら、叶夜は肝心な質問をする事に。


「……元の世界に戻る方法って、あるんですか?」

「勿論じゃ」

「そうですよね。そう簡単には……って! あるんですか!?」

「何じゃその驚きよう。入って来たんじゃから、戻る事じゃって出来るじゃろ」

「それはそう、かもですけど」


 しばらくは帰れないと覚悟していただけに、肩透かしを食らった気分になる叶夜。

 その態度に疑問を持ちながらも、玉藻は盃を一度置くと立ち上がり屈伸を始めた。

 動くたびに露出度の高い服から色々覗けそうで気が気でない叶夜には気づかず、彼女は一言付け加える。


「とは言っても一度さっきの世界に戻る必要があるが、邪魔者が居座っておるからのう。しばらくは無理そうじゃな」

「邪魔者って、まさか」


 屈伸を終えた玉藻は頷くと、空中に円を描く。

 すると円の中がまるでテレビのように、先ほどまでいた世界を映し出す。

 そこには周りを見渡しながら歩き回る足長手長を名乗る怪物の姿をした、巨大ロボットがいた。


「また追いかけっこは嫌じゃろ? ここは素直に待っておれ」

「ええ。そうですね」


 素直に頷く叶夜であったが、映し出される足長手長を見続けていくと徐々に顔色が悪くなっていく。


「どうしたんじゃ? 気にせんでも奴らは此処には来れんぞ?」

「いえ、そこを気にしてる訳じゃなくて」


 何か言いたげに言葉を詰まらせる叶夜。

 その様子に玉藻はため息を吐きながら、俯く叶夜と視線を合わせ話す。


「何を言っても怒りはせん。じゃから言いたい事があるじゃったらハッキリせい」

「……あいつ等がこれまで人を襲ってきたんですよね?」

「知っている限りでは、そうじゃな。追い詰めては喰らっておった」

「もし俺が逃げたとして、奴らは襲うのを止めると思いますか?」

「それはない。奴らは消滅するまで続けるじゃろうな」

「そう、ですよね」


 断言する玉藻に叶夜は顔を暗くしながらも頷く。


「何を暗くなる必要があるんじゃ? もし誰かが襲われたとしても、お主と関係のない者たちじゃろ?」

「分かってますよ。そんな事」

「じゃったら」

「けど、襲われたと聞くたびにもっと出来る事があったんじゃないか? そう思う気がするんです」

「ならハッキリ言ってやろう。お主が出来る事は何もありはしないし、これから先も無い」


 厳しく聞こえるが、叶夜はこの言葉が正しく優しさに満ちている事に気付いていた。

 ただの人間である叶夜が逆立ちしても、あの巨大ロボットは勝てる相手でない。

 玉藻は叶夜の未練を断ち切るために、ここまでハッキリと言ったのだ。


「……」


 分かってはいる。

 分かってはいるが、芽生えた諦めの悪さがこのまま逃げるのを許さない。


(……あ)


 そして諦めの悪さが、ある考えを導き出す。

 もし成功しても自分自身がどうなるかは分からないが、それでも一生悩み続けるよりはマシに思えた。


「玉藻さん」

「何じゃ? ようやく悩み終えたか?」


 玉藻が言い終わる前に、叶夜は彼女に対して頭を下げる。


「? 何の真似じゃ?」

「助けてもらって、こんな頼み事をするのは間違っていると思いますが、聞いてください」


 頭を下げたまま、叶夜は玉藻にあるお願いを口にした。


「俺に出来る事ならやってみせます。ですからあの足長手長をどうか倒してください」

前回は後書きを書き忘れて申し訳ありませんでした。

こちらの方も書いて行くので、チェックをお願いします!

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