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アンケート  作者: 菊池まりな


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88/104

第88話 二つの選択肢

スクリーンに浮かぶ二つの選択肢──《公開》か《封印》か。


 それは単なるボタン一つの選択に見えて、実際にはこの学園都市全体の未来を左右するものだった。




 制御室の空気は重く、誰もが息を潜めていた。


 長い沈黙を破ったのは、有栖川玲だった。


「答えは決まってる。公開よ」


 彼女の声は低く、それでいて鋭く響く。


「この都市を覆う欺瞞を、誰かが暴かなきゃならない。私たちがその役を担うのは必然よ」




 その言葉に宮下ユリが顔をしかめ、すぐに反論する。


「簡単に言わないで! そんなことをしたら都市そのものが崩壊するのよ? 藍都学園都市は、もう何十万もの人の生活の基盤なの。『真実』なんて言葉でそれを壊すなんて、正義じゃない!」




 玲の瞳が鋭さを増し、彼女を射抜いた。


「正義? それこそ欺瞞(ぎまん)よ。あんたの言う『日常』は、最初から誰かに設計された檻よ。そこに甘んじて目を背けて生きるの?」




 反論しかけて、ユリは唇を噛みしめた。震える手が膝の上で握られている。




 その張り詰めた空気を和らげるように、朝倉純が口を開いた。


「二人とも、落ち着け。……ユリの言ってることも正しい。もし記録を公開すれば、都市の人間は混乱に陥るだろう。下手をすれば暴動になる」


 彼は淡々と事実を述べるが、その眼差しには迷いがあった。




 美佳は黙ってスクリーンを見つめていた。


 心臓は早鐘のように脈打ち、掌の中のペンダントが微かに熱を帯びる。


 彩音から託された「鍵」。その存在が、まるで自分に選択を迫っているかのようだった。




「……彩音は、どうしてこの鍵を私に託したんだろう」


 小さな声が制御室に響いた。




 純が振り返り、美佳の名を呼ぶ。


「美佳?」




「たぶん……彩音は、わたしたちが“何を選ぶのか”を見たかったんだと思う」


 美佳は自分の声が震えているのを自覚した。


「過去を暴いてでも進むのか。それとも、嘘でも安定を守るのか。……どっちが正しいなんて、きっと誰にも決められない。でも、選ばなきゃならないんだよ」




 玲が鼻で笑った。


「なら答えは明白ね。私は檻の中で眠ったまま生きるなんてまっぴらごめんよ」




「簡単に言わないで!」


ユリが叫んだ。声は震えていたが、その瞳には強い光が宿っていた。


「あなたは強いからいいかもしれない。でも、普通の人たちは? 突然“自分の人生が仕組まれたもの”だと知らされて、正気を保てると思う? 守られるべきものだってある!」




 誰もが言葉を失う。


 議論は堂々巡りを始めようとしていた。




 その時、スクリーンが一瞬ノイズに覆われ、再びあの女性の声が響く。


《──あなたたちの選択は、わたしたち全員の未来を決める。逃げ道はない。》




 美佳は唇を強く噛んだ。


「……決めなきゃいけないんだね。ここで」




 純が頷く。


「それぞれの答えを出すしかない」




 青白い光に照らされる制御室で、五人の視線が交錯した。


 公開か、封印か──。


 それぞれの胸に、異なる答えが灯っていた。





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