↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンケート  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/104

第78話 記憶の都市

藍都学園都市の片隅にある旧病院。廃墟の匂いは、湿った石と鉄錆の重たい気配を漂わせていた。


 美佳は、胸ポケットに忍ばせた銀色の鍵をそっと握りしめた。七海彩音から託されたそれが、今ここで意味を持つ瞬間を待っている。




 「こっちだ、階段が残ってる」


 純が懐中電灯を掲げ、暗がりを切り裂くように進んでいく。玲と翔も後に続き、慎重に瓦礫を避けて歩いていた。




 その時だった。


 ──ブゥゥゥン……。


 美佳のスマホが震えた。ディスプレイには「非通知」。背筋に冷たいものが走る。




 「誰だ?」と純が振り向く。


 美佳は小さく息を呑み、恐る恐る通話ボタンを押した。




 『……やっとここまで来たのね、美佳さん』




 若い女性の声。記憶の奥で弾かれたように、美佳は立ち止まる。


 ──あの時だ。まだ何も知らなかった頃、突然かかってきた謎の電話。




 「……あなたは……」


 『忠告したのを覚えてる? “そのアンケートは選んではいけない”って』




 冷たい声の奥に、切実な響きがあった。純や玲が怪訝そうに耳を傾ける。




 『その“鍵”……大事にしてるわね。けれど、覚えておいて。あれは扉を開けるためだけのものじゃない。』


 「扉……?」


美佳は思わずつぶやく。


 『もし使い方を間違えれば、藍都学園都市そのものが崩壊する。』




 緊張が走る。玲の顔色がさっと変わり、翔が美佳に視線を送る。




 「お前……誰なんだ」


純が声を荒げた。


 だが受話器の向こうの彼女は、静かに言葉を重ねた。




 『橘誠二(たちばなせいじ)に気をつけて。彼は真実を隠すためなら、どんな手段でも使う。』




 橘誠二──。聞き慣れない名に、美佳は眉を寄せる。


 だが純の瞳は一瞬だけ鋭く光った。まるで、その名を知っているかのように。




 「……橘誠二?」


玲が低くつぶやく。


 翔も口を閉ざしたまま、何かを思案している。




 『私はまだ名を明かせない。でも、必ずまたあなたの前に現れる。その時が来たら──その鍵を、私を思い出して使って。』




 ピッ、と通話は唐突に切れた。


 ただの雑音と闇が残り、旧病院の冷気が再び全員を包み込む。




 「美佳……今の声、誰だ?」


純が問い詰める。


 美佳は唇を噛みしめ、正直に答えた。


 「……前に、一度だけ話したことがあるの。意味不明な警告だけ残して、消えた“誰か”。」




 仲間たちの視線が重くのしかかる。


 美佳自身も混乱していた。けれど確かに、あの声は最初から自分を導こうとしていたのだ。




 そして新たに現れた名──橘誠二。


 それが、この先の運命を揺るがす黒い影となることを、美佳たちはまだ知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。