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アンケート  作者: 菊池まりな


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75/104

第75話 残された暗号

霧の中を歩くうちに、駅前の喧騒は遠ざかり、ビルの影が深くなる。


翔に案内されたのは、裏通りにある小さなカフェだった。表の看板は消えていて、営業中には見えない。




ドアを開けると、かすかなベルの音とともに、低いジャズが流れてきた。


カウンター奥の席に、有栖川玲が座っていた。


白いブラウスに黒のタイトスカート、髪を後ろでまとめ、鋭い視線をこちらに向ける。




「来たわね、美佳。……そして純も」


玲の声は、変わらず冷ややかで、それでいて妙な安心感を与える。




美佳は席に着くなり、ポケットから銀色の鍵を取り出した。


「これが彩音から託された“鍵”。あなたが解析してくれたというデータと、どう関係してるの?」




玲は目を細め、翔からデータカードを受け取ると、携帯端末に差し込む。


カフェの壁に備え付けられたスクリーンに、幾何学模様のような暗号データが映し出された。




「この模様……」


純が眉を寄せる。


「知ってるのか?」美佳が問うと、純はゆっくり頷いた。


「旧藍都病院の封鎖システムの一部だ。俺もLAPISで見たことがある」




玲が説明を続ける。


「半分までは解読したわ。残りは、この“鍵”を使わないと開けられない。つまり、美佳、あなたが持っているその鍵は……単なる物理的な鍵じゃないの」




スクリーンに表示された模様の一部が光り、鍵の形とぴたりと重なる。


「この鍵は、病院地下の制御装置と共鳴して暗号を解除する“媒体”なの。しかも、使用できるのは一度きり」




美佳は息を呑んだ。


一度きり──つまり、使えばその時点で何かが決定的に変わってしまう。




「……そして、もう一人。宮下ユリがこの暗号のもう片方の“鍵”を持っているはずよ」


玲は視線を鋭くした。


「二つが揃った時、封鎖が解かれ、病院地下に眠る“もの”が目覚める」




美佳は無意識に純を見た。


純も視線を返し、口を引き結んだまま頷く。


「行くしかないな。ユリのところへ」




玲は淡く微笑み、言葉を付け加えた。


「でも気をつけなさい。旧藍都病院に足を踏み入れた者は──二度と同じ自分では戻れない」




その言葉が、美佳の胸に冷たい影を落とした。





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