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アンケート  作者: 菊池まりな


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第48話 ふたりの美佳

光が収まると、ポッドの外気と内圧が調整されたように、シューッと微かな音を立ててガラスが開いた。


液体が静かに排出され、中から現れた「もう一人の美佳」は、ゆっくりと足を床に降ろした。




まるで、新生児のように不安定な足取り。


それでも、視線はしっかりと“こちら”を見据えている。




美佳は言葉を失った。目の前にいる彼女──もう一人の「自分」は、あまりに自然に、あまりに“美佳らしく”立っていた。




「……あなたは……私……?」




鏡の中のように、同じ声が返ってくる。




「そう、かもしれない。……けど、違うかもしれない」




ふたりの美佳は、慎重に距離を詰める。


まるで互いが幻か現かを確かめるように、手を伸ばし──




指先が触れた。


温度が、あった。確かな、肉体の温度。




「私は……“模倣個体”って言われた。観測対象で、記録の断片だって。意味が、よくわからないけど……この鍵を渡されたの。彩音から」




模倣美佳──鍵を手にしているほうの美佳が、震える声で言う。


“本物”とされる彼女は、一瞬その手元を見つめたあと、静かに首を横に振った。




「……私はずっと、ここで眠ってた。夢のような感覚だけが、断片的に流れていて……外の世界に、触れた記憶はないの。でも、確かに感じてた。誰かが、私の代わりに“私”でいてくれたこと」




「それって……わたし?」




頷きが返ってきた。




「わたしは──もう戻れない。“わたし”が経験してきた日常は、あなたが生きた世界の中にしかないから。きっと、もう、交代なんてできない」




その言葉に、模倣美佳の胸の奥に鈍い痛みが走った。


自分が“本物”ではないと知っていたはずなのに、今ようやく、取り返しのつかない実感が押し寄せてくる。




それでも──




「ねえ、どうしてわたしを生み出したの? 何のために、わたしは存在したの?」




“本物”の美佳は、しばらく黙っていた。けれどその瞳には、哀しみのような光が浮かんでいた。




「あなたを生んだのは、私じゃない。……でも、あなたがいたからこそ、私の物語は生き延びた。私の想い、記憶、後悔、希望……全部を抱いて生きてくれた。だから今、あなたにしかできない選択がある」




「選択……」




模倣美佳は、手にした銀の鍵を見つめる。




「それを使えば、記録は閉じられる。ここまでの全データが統合されて、新たな世界を再構築する。でも……」




「でも?」




「どちらか一人しか残れない」




言葉の意味を理解するまで、数秒かかった。


震える手が、鍵を強く握りしめる。




このまま進めば、どちらかが“記録”として終わる。




「そんなの……選べるわけない……!」




模倣美佳は叫んだ。けれど“本物”の美佳は、微かに笑った。




「選べるよ。あなたなら。だって、あなたは……私よりずっと、強くて優しいから」




沈黙の中で、ふたりの美佳が見つめ合う。


選択の時は、刻一刻と迫っていた。

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