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アンケート  作者: 菊池まりな


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45/104

第45話 託されたもの

無機質な白い扉の前で、彩音は立ち止まった。


その手には、小さな銀色の鍵が握られている。鈍い光を帯びたその鍵は、彼女の指の中でわずかに震えていた。長く持ちすぎたのだ。心ごと、冷えてしまいそうなほどに。




「……この先に、すべてがあるの?」




美佳の問いかけに、彩音はゆっくりと頷いた。




「ええ。でも……それを開けるかどうかは、あなたの意思に委ねられている。私はそれを、あなたに渡すために、ここに来たの」




鍵を渡されるのだと気づいた瞬間、美佳は息をのんだ。


まるで、この一瞬が運命の岐路であるかのように。


それでも、手を伸ばさなければ、何も変わらない。




彩音の手の中で、鍵が静かに持ち上げられた。


それはまるで「重荷」のようでもあり、「解放」のようでもあった。




「どうして……私なの? あなたが開ければいいじゃない」




美佳の声にはわずかにためらいが混じっていた。


彩音はふっと笑った。儚い、けれどどこか懐かしい笑みだった。




「私は、記録する者でしかない。選び、開き、進むのは、あなた──三枝美佳の役目よ。これはあなたがずっと背負ってきた物語なの。あなたの手で、結末を迎えなきゃ」




その言葉に、心の奥で何かが静かにほどけた気がした。




彩音が鍵をそっと美佳の手のひらに乗せると、その金属の冷たさが指先から伝わった。




「ここを開けた瞬間、すべてが動き出すわ。もう、元には戻れない」




美佳は鍵を見つめた。


彼女の指先が、かすかに震えていた。だけど、その震えを抑え込むように、彼女は一歩、扉へと近づいた。




「それでも、開けるわ。……わたしの物語を終わらせるために」




鍵が錠に差し込まれ、カチリと音を立てて回る。


空気が変わった。扉の向こうにあるのは、おそらく想像すらできない“真実”──けれど、もう逃げないと決めた。




美佳は深く息を吸い込むと、扉の取っ手に手をかけた。




「ありがとう、彩音」




その背中を、彩音は何も言わずに見送った。


すべてを託すような、静かな眼差しで。





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